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魔獣募集中――

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子供たちが旅立って幾日か。静かになった家の中で一人考え事をしていた。

それは先日の、手紙を運んでくれる魔獣選びの件。どんな魔獣がいるのかよくわからない。



たまに森を散策しているとユニコーンのような魔獣や、うさぎやオオカミのような魔獣には出くわすけど……彼らが従魔契約に足るかどうかはまた別の話。仕方ない、ここはファフくんに聞いてみるか。



……。



「というわけで、ファフくん。従魔契約を結びたいんだけど、おすすめの魔獣とかある?」

「先日のやつか。……そうだな、皇国や王国は魔獣被害も多発している国だ。人目につく事も考慮して知性のある魔獣を選らんだ方がいい。フェンリルかバイコーンあたりか?」

「鳥系の魔獣は?空の移動もできるし」

「僕は鳥が好かん。あいつら知能は高いが、プライドも一人前に高い。この間なんか、空を飛んでいたら僕を追い抜かして、遅いと言わんばかりに鼻で笑ったんだぞ?……まったく、命知らずで不敬なやつらだ」



世界に厄災を及ぼすといわれ、生きとし生けるものに恐れられているファフくんを鼻で笑う鳥とか……逆に興味が湧くんだけど。



「鳥系は絶対に許さん。グリフォンとか、ファイアバードとか契約した日には……僕はこの家をどうするかわからんぞ?」

「ちょ、それ脅し?いっとくけど、中にはお酒だって保管してるんだから。火なんて掛けた日には森中が焼野原だよ?」

「……そうだな、何より酒がもったいない」

「そこじゃないんだけど……」



がっかりしたように肩を落とすファフくん。そんなに鳥系と契約して欲しくないのか。友達が嫌がるなら敢えて鳥系の魔獣との従魔契約はしないけどさ。



だったら足の早そうなバイコーンとかフェンリルとか……?

今からこの森を探索したとしてお眼鏡に叶う魔獣がいるかどうか……。



ファフ君は私の心の中を読んだみたいで、得意げに微笑んだ。



「ならば今から森中に招集をかけてはどうだ?魔獣は魔物と違って知能があり、人間の言葉を理解する。【今から従魔契約するから、希望のあるやつは集まれ】とでも言えば森中から集まるだろう」

「……便利だけど、従魔契約ってそんなのでいいの?なんかもうちょっと契約までのストーリーとかさ……」

「魔獣はより強い奴との契約をなによりの誇りとしている。誇れる主人に仕えたいと思うのは本能だ。それに、おまえは仮にもこの森の魔女だ。僕ほどではないが、武力があり、知識もある。契約したい魔獣は多いだろう。それになにより生活環境がいい」



それでいいのか魔獣よ。というか森の大賢者なんて認識されているの、私。いったいこの森に住んでいる魔獣って私に対してどんな恐ろしい認識でいるのやら。



……まぁ、探す手間が省けたので、ファフくんの言う通り、森全体にテレパシーを掛けて【私と従魔契約をしたい魔獣は私の家にあつまれ~】と軽々しく言ってみる。



するとものの数秒で森中がざわつき始めた。









「がるるるるるッ……」

「ギャーッ、ギャーッ」

「ヒヒィーン、ブルルルルッ」

庭中が動物園と化した……と表現してもいいくらい、森の中にいる強そうな魔獣が集結した。中には空から飛来した、ファフくんが嫌いな鳥系の魔獣もいる。



その魔獣に関しては嫌そうな顔をしたものの、ファフくんはこの光景に感嘆した。



「予想はしていたがフェンリルシーフやグレーターバイコーン、ユニコーンまで声に応じるとは恐れ入った」

「その魔獣は強いの?」

「フェンリルシーフは風属性の魔法を得意としている。グレーターバイコーンはバイコーンの上位種で足が速く、防御力がとにかく高くて戦争用の魔獣としても重宝されている。この2匹だけでも小さいな街ひとつは壊滅できるぞ」

「戦争するわけじゃないからなぁ……」



フェンリルの方は大きい犬……サモエドみたいな感じだし、バイコーンの方はちょっといかつい馬くらいな感じで凄みを感じない。といったらファフくんはどんな反応をするのだろう。



こう簡単に目の前に現れたので、凄さがイマイチ理解できない。



「ガゥ、ガゥゥゥゥゥ」

「ブルルルル、ブルル」

「なんて言ってるの?」



言葉が理解できているようで、2匹はこちらになにかを訴えかけているようだった。魔獣の言葉などわかりはしないので、わかってそうなファフくんに助けを求める。



「お役に立てるので、ぜひ従魔に御取立てください……と」

「意外に礼儀正しいなッ!」



と冗談半分で魔獣たちにツッコミを入れてみる。それはもう嬉しそうに尻尾を振ったり、嘶いたり……これは嬉しがっているのだろうか?



にこり、と魔獣相手に愛想笑いを浮かべてみるとさらに嬉しそうな反応を返してくれる。……危険なのだろうけど、この子たち可愛い。この子たちにしようかなと心が揺れ動き始めていると、一旦静まった魔獣たちが再び騒ぎ始めた。



さらにファフくんに通訳を求める。



「……ええと、「抜け駆けをするなただの犬と馬風情が」「私の方がお役に立てれますよ!賢者様」「そこの魔獣より我の方が強い、一度機会を頂ければお役に立てると証明してみせます」……まだあるが、これ全部通訳するのは骨が折れるのだが」

「いや、全部通訳しなくていいよ……ピックアップして通訳して貰えれば」

ファフくんは頷いたが、なにか気になる言動があったのか。その視線を一点に向ける。

「……ん?何?おい、そこの害獣、今なんといった?この僕が暴力以外なんの取り柄もない鈍足ドラゴンだと?大きく物をいったものだな」



ファフくんは急に1匹の魔獣に向けて言い放った。殺気はないがその声には怒りが混じっている。その視線の先にいたのは、ここに集結した魔獣より2周りほど大きい鳥の魔獣だった。



「この子は?」

「寒い地方の山脈に生息するブリザードグリフォンだな。グリフォンの中でも特に飛翔能力が高い。氷魔法も使え、飛ぶ速度が速くプライドが高いだけの取り柄のないただの害獣だ」



鋭い目つきでにらみつけるが、ブリザードグリフォンは怯える素振りもなく毛繕いを始め、余裕の態度を見せつける。

グリフォンや私に一倍のアピールを見せつけてくれた魔獣を除き、魔獣はファフ君が不機嫌な態度に体を震わせていた。



グリフォンの態度が気にくわないファフくんは視線を私に向けた。

「おい、こいつは論外だ。とっとと帰らせろ。というかおまえ……この間湖に行くときに僕を挑発したグリフォンじゃないか!?」

「ギュルルルル」

「……なに?「いつも通る道に大きな岩が浮遊していたのですが、あれはファフニール様だったのですか?失礼しました。とても飛翔速度が遅く、イライラしていたので暴言を吐いてしまいましたお許しを……」って鼻で笑っても説得力がないだろうが!」



まるで一人で漫才でもしているようだ。それにグリフォンの方も、あのファフくんに恐れひとつ見せないとか中々の度量を持っている。空飛べるし、強ければ森から国までの往復も無事戻ってこられるだろうし。



…...でも大きいな。



「私は子供たちに手紙を届けてくれる魔獣を欲してるの。でもあなたたちだとこう......他の魔獣よりも大きいし......都市の往復は目立つかも......」

一段とアピールしてくれた魔獣たちは少なくとも人間形態のファフくんより体が大きい。ギリギリフェンリルシーフくんが妥協点ではあるけど。



あとなんか結構身に宿る魔素の量も多いし。



「......なになに「我らは魔素量の認識阻害の術を持っていますので、一般の従魔を装うことができます。体の大きさや多少の姿見も偽造可能なので、お役に立てれます」......と。おまえが気になっている魔獣たちが言ってるぞ。ブリザードグリフォンを除いて」

「ギャーーーーッ、ギャーーーーーッ」

「うるさい、わめくな。なにが我の通訳をしろだ!おまえは眼中にないからさっさと山に帰れ!」

「......ファフくん、意地悪しないでよ。世界最強のドラゴンなんだから、これくらい多めにみてあげなよ」

非難するとショックを受けたかのように歯切れが悪くなるファフくん。ちょっとガラスのハート過ぎないか? グリフォンは勝ち誇ったかのように鳴いた。



ちょっとプライドが高いし、ファフくんと反りが合わなさそうだけど、私の言うことは聞いてくれそうだし。なにより従魔契約の用途に合う魔獣だ。フェンリルの方もバイコーンの方も、今後子供たちに合いに行く時の交通手段としてはいいかな?



「決めた、そこのブリザードグリフォンと、グレーターバイコーンと......あとフェンリルシーフと契約する!後の魔獣たちは今回はごめんね?またなにかあったら力になってね」



魔獣たちはがっくりと肩を落として、悲しそうに鳴いて自分の住処にかえっていった。反対に残された3匹はそれはもう嬉しそうに全体で気持ちを表現していた。



フェンリルシーフは尻尾を大きく振り、グレーターバイコーンは嘶き、ブリザードグリフォンは羽を広げた。



グレーターグリフォンの反応だけ、ファフくんは過剰に反応し返していたが、ちょっと黙っててもらった。話が先に進まないし。



「じゃあ、従魔契約するけどいいよね?こういうのって約款とか必要?」

「相手の条件と自分の条件を提示して、契約魔法を使った契約をすればいい。一例だが、主となる方は魔獣に条件を提示し、魔獣の方はその条件に対しての見返りを求める。合意すれば契約成立......といった感じだ。立会人が入ればさらに契約魔法に互いは強力に結ばれる。離れていてもお互いの位置、生存の有無が確認できるほどにな。......なので、立ち合い人は僕がなろう」

「お願い。条件の提示なら魔獣たちの条件の通訳よろしくね」

「わかっている。では、まずはフェンリルシーフから――」
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