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火傷には気をつけて
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「う~~~~ん......」
所変わって厨房へ。ミリアーナは思案顔で顎に手を添えて唸り声をあげている。時刻は午後22時過ぎ。ドリーはエプロン姿のミリアーナを横目に、明日の朝食の仕込みの準備をしながら口を開く。
「お夜食のことですかい?」
「ええ。お父様とクラファーダ様のお酒のおつまみを作るのだけど......。せっかくクラファーダ様が我が家に来てくれたのですもの。シレーヌであまり食べられないものを使ってみようかなって」
たしか、シレーヌは和食よりの食文化だったはず。対してノエル王国では洋食が好まれている。和食で使われないもので、洋食でよく使われるお酒に合うおつまみなど、プロの料理人ではないミリアーナではぱっと思いつくものがなかった。
ミリアーナ......前世の世界では和洋折衷だったし、食文化も進んでいたのだから。
心中を知らないドリーは「ああ」と納得をすると、頭の片隅に浮かんだ食材の名前を口にした。
「シレーヌにはないお酒のおつまみっていえば、チーズとかですかね?シレーヌではまだまだメジャーな食材じゃないってシレーヌの食材を扱う商人から小耳に挟んだことが......」
「チーズ......そうね!お酒のおつまみのド定番だわ!チーズを最大限に生かしたものを作りましょう」
「さっすがお嬢様!......それで、そのぅ......わしらもご相伴に預かれるんですかねぇ......」
まるでゴマすりのような仕草で手を握るドリー。言葉の意味を察したミリアーナはにんまりと笑みを浮かべた。
「もちろんよ!皆で食べられるものを作りましょう!」
ミリアーナはドレスの袖を捲り、髪紐で艶やかな黒い髪をまとめ上げると、早速料理に取り掛かった。
★
「おまたせしました。皆さま方。今日の夜食はこちらです」
ミリアーナがワゴンを引いて現われる。その上にはなにやら大きな平たい鍋と魔法のコンロが乗っている。そしてブロッコリーやにんじん、ウインナーなどのひと口サイズにカットされた食材と、胡椒や一味などのスパイスがのった皿がワゴンに乗せられていた。
鍋からは湯気と香ばしく、優しい香りが漂ってくる。
ぐつり。ぐつり。
と耳を澄ませば鍋の中身がとろりと沸き立つ心地いい音が聞こえた。
酒を煽って談笑をしていたヴェスター、クラファーダ。そしてシャンデラ。少し離れた席にはクリフォード、その隣の席にはレタも座ってミリアーナに視線を集中させた。
ミリアーナは気にする様子もなく、声高々に「本日の夜食ですわ」と、使用人たちに手伝ってもらい、メインを卓上に並べた。
「ほう?シレーヌでよく食べられている鍋料理......とは少し違うな。見慣れない料理だ。これは......?」
「チーズフォンデュですわ。鍋の中にチーズを溶かし、具材をチーズに絡めて食べる料理です。クラファーダ様、今日はワインを飲みに来られたとおっしゃっていたので、ノエル王国の食材でお酒に合うものを食べて欲しくて」
「チーズか!たしかにシレーヌではあまり食べないな。それに硬くて臭いイメージが会ったのだが、こちらは乳の香りと、とろりとした質感がより食欲を掻き立てる......」
クラファーダは、くんくんと鼻孔を動かしながら漂う匂いを堪能する。ミリアーナはなれた手つきで食べ方を実践する。
「まずは、串に刺さっているお好きな具材を手にとって、チーズを具材に絡めます。最初はノーマルで。味に飽きたら用意したスパイスをかけて召し上がってください」
ぱくり、と咀嚼して口に広がるチーズの風味を堪能する。
クラファーダは生唾を飲み込んだ。ミリアーナは新しい取り皿を手にとって、ウインナーをチーズに絡めるとクラファーダに差し出した。
「どうぞ。2回目からはご自分で取ってチーズフォンデュを堪能してください」
「ありがとう。............っ!これは、うまいな......とろりとしたチーズの風味。舌が火傷しそうなほどの熱さと、チーズの塩味。そして具材と熱いチーズとの相性の良さ。......クリフォード!こんなものを毎夜食べていたのか!」
「......毎夜ではありません。でも、まぁ......多い時は週3ペースで食べてましたかね」
しれっと答えるクリフォードはブロッコリーを手に取ってチーズを絡める。今までこんな美味いものを食べていた息子に羨望の眼差しを向けたクラファーダは次はジャガイモを手に取り、ワインを煽りながら食べ進める。
【おい、俺のは】
「はいはい。レタのはこっち。あらかじめ串は抜いてるから」
【わかってるじゃないか】
今日は夜食会じゃないので、使用人たちのは厨房に用意してあるので、そちらで楽しんでいる頃だろう。
チーズは結構お腹にたまるので、少な目に用意したのだが、お酒の減り具合と共にチーズフォンデュのソースも湯水の如くなくなっていった。
「......ミリアーナさん。本当にうちに来ないかい?王子との婚約は破棄になったんだろう?婚前の肉体関係がない限りはうちはそういうのは気にしないから。......どう?」
ワインを煽りながら頬を赤らめ、しかし、しっかりとした滑舌でミリアーナに問う。
美味しいものを食べて気分がいいからそう言っているのではないか。冗談と捉えたミリアーナは困惑気味に笑う。こういう酔っ払いの対処ってどうすればいいんだっけと思考を巡らす。
クリフォードのことは嫌いではない。むしろ殿方としてどうかと言われれば、それはイケメンだし、優しいし、少し強引なところはあるけれど......。好意的ではある。
だが、酒の席での話でしていい話ではない。一国の主の言葉だ。そう簡単に返せるわけがない。
クリフォードは慌てて立ち上がり、クラファーダに突っかかる。
「父上!酒の席でして良い話ではないでしょう!」
あ、思っていることは同じだ、とミリアーナは目を見開いた。こういう誠実なところがあるし、彼はモテるんだろうな、と他人事のように分析をするミリアーナ。
クリフォードはミリアーナの心中は知ることはなく、言葉を続けた。クラファーダも区ラファーダで意地の悪い笑みを浮かべて目を細めた。
「こういうときにでも言わなければおまえはうじうじうじうじと、奥手に考えて、好きな女1人に告白できんで祖国に帰ることになるだろう?折角邪魔者がいなくなったのだ。今のうちに好きな女に「愛している」の一言でも言わんか!」
「それは機を見て言葉にする予定だったのです!ミリアーナも色々あって心の整理も追いつかないだろうし。......俺には俺のペースがあるってなんでわからないんだよ!父上、あなたはいつもデリカシーというものが無さすぎるんだ」
「そうだそうだ!うちのミリアーナとの結婚だなんて認めませんよ~!」
ミリアーナはぴしり、と固まった。クラファーダたちの言葉であれば適当にあしらうこともできたのだが、本人はまんざらでもなく......。
いや、ミリアーナに対しての好意を否定しなかった。それよりも肯定的な意見を交えていっていたので、これは恋心に疎いミリアーナも気づくわけで......。
「あの、クリフォード様が私が好き......なのでしょうか?それとも、お父様たちが酔っ払っていて、ご機嫌取り的なあれなのでしょうか……」
「............くくく」
「み、ミリアーナ!耳を貸すな!」
クラファーダは口を押さえ、笑いを堪え。ヴェスターは手元のワイングラスを落としそうになるぐらいに同様していた。
クリフォードは弱弱しく熱っぽい様子で金色の瞳を動かしたあと、「ああ、くそっ」と感情のままに頭を掻いた。
「父上、ヴェスター殿!少しだけミリアーナを借ります!!」
「許さん!いくら隣国の皇子とはいえ、二人きりになるなん――むぐッ」
「あなた、悪酔いしすぎですよ」
ヴェスターは身を乗り出す勢いで止めに入ろうとするが、チーズを味わっていたシャンデラはヴェスターの口元を手で塞いで言葉を遮らせる。
「ああ、私たちは酒を楽しんでいるので、話してくるといい」
クラファーダは楽しそうに目を細めると、ミリアーナの手を引くクリフォードに手を振った。
所変わって厨房へ。ミリアーナは思案顔で顎に手を添えて唸り声をあげている。時刻は午後22時過ぎ。ドリーはエプロン姿のミリアーナを横目に、明日の朝食の仕込みの準備をしながら口を開く。
「お夜食のことですかい?」
「ええ。お父様とクラファーダ様のお酒のおつまみを作るのだけど......。せっかくクラファーダ様が我が家に来てくれたのですもの。シレーヌであまり食べられないものを使ってみようかなって」
たしか、シレーヌは和食よりの食文化だったはず。対してノエル王国では洋食が好まれている。和食で使われないもので、洋食でよく使われるお酒に合うおつまみなど、プロの料理人ではないミリアーナではぱっと思いつくものがなかった。
ミリアーナ......前世の世界では和洋折衷だったし、食文化も進んでいたのだから。
心中を知らないドリーは「ああ」と納得をすると、頭の片隅に浮かんだ食材の名前を口にした。
「シレーヌにはないお酒のおつまみっていえば、チーズとかですかね?シレーヌではまだまだメジャーな食材じゃないってシレーヌの食材を扱う商人から小耳に挟んだことが......」
「チーズ......そうね!お酒のおつまみのド定番だわ!チーズを最大限に生かしたものを作りましょう」
「さっすがお嬢様!......それで、そのぅ......わしらもご相伴に預かれるんですかねぇ......」
まるでゴマすりのような仕草で手を握るドリー。言葉の意味を察したミリアーナはにんまりと笑みを浮かべた。
「もちろんよ!皆で食べられるものを作りましょう!」
ミリアーナはドレスの袖を捲り、髪紐で艶やかな黒い髪をまとめ上げると、早速料理に取り掛かった。
★
「おまたせしました。皆さま方。今日の夜食はこちらです」
ミリアーナがワゴンを引いて現われる。その上にはなにやら大きな平たい鍋と魔法のコンロが乗っている。そしてブロッコリーやにんじん、ウインナーなどのひと口サイズにカットされた食材と、胡椒や一味などのスパイスがのった皿がワゴンに乗せられていた。
鍋からは湯気と香ばしく、優しい香りが漂ってくる。
ぐつり。ぐつり。
と耳を澄ませば鍋の中身がとろりと沸き立つ心地いい音が聞こえた。
酒を煽って談笑をしていたヴェスター、クラファーダ。そしてシャンデラ。少し離れた席にはクリフォード、その隣の席にはレタも座ってミリアーナに視線を集中させた。
ミリアーナは気にする様子もなく、声高々に「本日の夜食ですわ」と、使用人たちに手伝ってもらい、メインを卓上に並べた。
「ほう?シレーヌでよく食べられている鍋料理......とは少し違うな。見慣れない料理だ。これは......?」
「チーズフォンデュですわ。鍋の中にチーズを溶かし、具材をチーズに絡めて食べる料理です。クラファーダ様、今日はワインを飲みに来られたとおっしゃっていたので、ノエル王国の食材でお酒に合うものを食べて欲しくて」
「チーズか!たしかにシレーヌではあまり食べないな。それに硬くて臭いイメージが会ったのだが、こちらは乳の香りと、とろりとした質感がより食欲を掻き立てる......」
クラファーダは、くんくんと鼻孔を動かしながら漂う匂いを堪能する。ミリアーナはなれた手つきで食べ方を実践する。
「まずは、串に刺さっているお好きな具材を手にとって、チーズを具材に絡めます。最初はノーマルで。味に飽きたら用意したスパイスをかけて召し上がってください」
ぱくり、と咀嚼して口に広がるチーズの風味を堪能する。
クラファーダは生唾を飲み込んだ。ミリアーナは新しい取り皿を手にとって、ウインナーをチーズに絡めるとクラファーダに差し出した。
「どうぞ。2回目からはご自分で取ってチーズフォンデュを堪能してください」
「ありがとう。............っ!これは、うまいな......とろりとしたチーズの風味。舌が火傷しそうなほどの熱さと、チーズの塩味。そして具材と熱いチーズとの相性の良さ。......クリフォード!こんなものを毎夜食べていたのか!」
「......毎夜ではありません。でも、まぁ......多い時は週3ペースで食べてましたかね」
しれっと答えるクリフォードはブロッコリーを手に取ってチーズを絡める。今までこんな美味いものを食べていた息子に羨望の眼差しを向けたクラファーダは次はジャガイモを手に取り、ワインを煽りながら食べ進める。
【おい、俺のは】
「はいはい。レタのはこっち。あらかじめ串は抜いてるから」
【わかってるじゃないか】
今日は夜食会じゃないので、使用人たちのは厨房に用意してあるので、そちらで楽しんでいる頃だろう。
チーズは結構お腹にたまるので、少な目に用意したのだが、お酒の減り具合と共にチーズフォンデュのソースも湯水の如くなくなっていった。
「......ミリアーナさん。本当にうちに来ないかい?王子との婚約は破棄になったんだろう?婚前の肉体関係がない限りはうちはそういうのは気にしないから。......どう?」
ワインを煽りながら頬を赤らめ、しかし、しっかりとした滑舌でミリアーナに問う。
美味しいものを食べて気分がいいからそう言っているのではないか。冗談と捉えたミリアーナは困惑気味に笑う。こういう酔っ払いの対処ってどうすればいいんだっけと思考を巡らす。
クリフォードのことは嫌いではない。むしろ殿方としてどうかと言われれば、それはイケメンだし、優しいし、少し強引なところはあるけれど......。好意的ではある。
だが、酒の席での話でしていい話ではない。一国の主の言葉だ。そう簡単に返せるわけがない。
クリフォードは慌てて立ち上がり、クラファーダに突っかかる。
「父上!酒の席でして良い話ではないでしょう!」
あ、思っていることは同じだ、とミリアーナは目を見開いた。こういう誠実なところがあるし、彼はモテるんだろうな、と他人事のように分析をするミリアーナ。
クリフォードはミリアーナの心中は知ることはなく、言葉を続けた。クラファーダも区ラファーダで意地の悪い笑みを浮かべて目を細めた。
「こういうときにでも言わなければおまえはうじうじうじうじと、奥手に考えて、好きな女1人に告白できんで祖国に帰ることになるだろう?折角邪魔者がいなくなったのだ。今のうちに好きな女に「愛している」の一言でも言わんか!」
「それは機を見て言葉にする予定だったのです!ミリアーナも色々あって心の整理も追いつかないだろうし。......俺には俺のペースがあるってなんでわからないんだよ!父上、あなたはいつもデリカシーというものが無さすぎるんだ」
「そうだそうだ!うちのミリアーナとの結婚だなんて認めませんよ~!」
ミリアーナはぴしり、と固まった。クラファーダたちの言葉であれば適当にあしらうこともできたのだが、本人はまんざらでもなく......。
いや、ミリアーナに対しての好意を否定しなかった。それよりも肯定的な意見を交えていっていたので、これは恋心に疎いミリアーナも気づくわけで......。
「あの、クリフォード様が私が好き......なのでしょうか?それとも、お父様たちが酔っ払っていて、ご機嫌取り的なあれなのでしょうか……」
「............くくく」
「み、ミリアーナ!耳を貸すな!」
クラファーダは口を押さえ、笑いを堪え。ヴェスターは手元のワイングラスを落としそうになるぐらいに同様していた。
クリフォードは弱弱しく熱っぽい様子で金色の瞳を動かしたあと、「ああ、くそっ」と感情のままに頭を掻いた。
「父上、ヴェスター殿!少しだけミリアーナを借ります!!」
「許さん!いくら隣国の皇子とはいえ、二人きりになるなん――むぐッ」
「あなた、悪酔いしすぎですよ」
ヴェスターは身を乗り出す勢いで止めに入ろうとするが、チーズを味わっていたシャンデラはヴェスターの口元を手で塞いで言葉を遮らせる。
「ああ、私たちは酒を楽しんでいるので、話してくるといい」
クラファーダは楽しそうに目を細めると、ミリアーナの手を引くクリフォードに手を振った。
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