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気を取り直して

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応接室を貸してもらい、おじさんとおばさん、アンとメリーとマルテさん。応接室に待機していた男性職員3人。子供たちは私より2つくらい年下そうな男の子と、そばかすの女の子、顔にキズのある乱暴そうな男の子の3人が座っていた。



スラム街の子供たちが言うには、予想の通り、寄付した食材はスラム街に分け合うべきだと声をあげた。



子供たちの安全を守るマルテさんたちからすれば、違うと声をあげたい反面、子供たちの境遇に不憫に思いなんとも言えないようだ。

おじさんとおばさんもやるせない、と口をへの字に曲げて、対応をあぐねいていた。



「保護者がおらず、1人で生活ができない子供と、保護者がいて少なくとも家があるあなたたちと対応が違うのは当然かとおもうのですが」



とりあえず揺さぶってみる。もちろん、親によってはロクでナシな人もいて、ここより悲惨な生活をしている子たちも多いだろう。しかし、ここに運ばれた食材はすくなくとも「ここで食べて欲しいから」持ってきているわけで。



「親がいても食事が与えられなかったり、働き口がなくて金も稼げなければ食べるものも買えないやつだっている!少しくらい施しをくれたっていいだろ!孤児院のやつらはよくて、俺たちはなんで駄目なんだよ!」

「では、あなたたちは逆の立場になってみて、孤児院の子供たちに食料を分け与えるの?」

「それは……」

「相手の物を無理やり奪おうとするのは強盗のすることよ。今のあなたたちはただの犯罪者となんらかわらないわ」

「……でも、俺たちだって……ご飯が食べたい」



反論をすると、威勢はどこへやら、消えかかりそうな声で本音を吐露する。



人は食事をしないと栄養が取れなくて死んでしまう。栄養を取るには食材が必要。その食材を入手するのにもお金は必要だ。



お金を稼ぐためには稼ぎ口が必要で。この子たちはその術を持たない。私も私でいくら強気な発言をしようと、お互いにこの状況の理不尽さには理解できていた。



……なにか折衷案は。...…あるにはあるけど、おばさんと、おじさん、マルテさんたちにも了承を得ないと。

一度話し合いがしたいと、スラム街の代表の子供たちには外にでていてもらう。



孤児院の関係者のみが部屋に残っている状況になる。



そこで、私は、折衷案として野人の酒場が寄付する食材はスラム街の子供たちにも分け与えることにすること。その代わりに1回の配給につき、孤児院の庭の草むしりをしたり……など1回切りの雑用を引き換えにすることを提案する。



公平を期すためにこれは孤児院の子供たちにも同様に提案した。



働かざる者食うべからずだ。



寄付が納得できないのであれば、それに見合った対価を提案すればいいし、孤児院が購入した食材に対してはなにも言わなかったのであれば、この案は彼らにも受け入れてもらえるかも。



この提案におじさんたちはまったく問題ないと頷き、マルテさんたちもお互いが寄り添って暮らしていけるのであればそれでも構わないと了承してくれた。



「でも、私たちが持ってくる食材でスラムの子の分も賄えるのかねぇ」

「現物支給ではなく、調理をした食材を皆で食べればいいと思います。この食材たちも子供たちの1日の食事分しかありませんし、悪い話でもないかと。それにこれだけの食材で満腹感を感じられる料理を作るなんて簡単な事ですわ」



おじさんたちは納得して頷き、マルテさんたちもこれ以上異議はないと言った。



そして……決まった話をスラム街の子供たちに提案すると、すぐに納得してくれた。



「こうも簡単に納得してくれるなんて思っても見なかった。俺たちまた追い返されるかと思ったのに」

「お腹が空いたらなにもできないし、イライラする気持ちは私にもわかりますもの。それに、美味しいものはできる限り皆で食べると美味しいですし」

「……お姉さん、ありがとう」



子供たちのリーダー、スバルは恥ずかしそうに顔を伏せる。子供たちは決まったことを仲間たちに報告をしにかえっていった。



スラム街の12歳以下の子供たち限定で、孤児院のお手伝いをした子に限り炊き出しを食べられることを伝える。すると、暴動に参加した子供たちはもちろん、その噂を聞きつけたスラム街の幼い子供たちが集まってきた。



さて、気を取り直して炊き出しをしよう。今から作ればいい頃合いに晩御飯ができそうだ!

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