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試食会で

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次の日の放課後。

メリーがフィオーレ学園まで足を運んできてくれて件の返事を届けにきてくれた。

結果は「ぜひうちで仕入先を探させて欲しい」とのことだった。

予算はギリギリ、ちょっと販売数を減らすことになるかもしれないがいつも使っている食材の仕入れ先が融通が利くところらしく。

乳製品もその他の食材も予算内で仕入れられる手はずとなった。



メリーは来客用のネームプレートを首から下げて生徒が少ない夕日が差し込むオレンジ色の廊下を歩く。

ヨシュア様は今日は日直なので日誌をもって職員室に向かっていて今は不在。今は私、クリフォード様、そして今日も勝手についてきたレタが私の足元で歩いている。



「おじさんとおばさんには多大な恩ができてしまったわ。今度なにかお礼をしないと......」

「カレーパンの件もあるので気にするなといってましたよ!」

「それはきちんと正当なお金を貰っているもの。今回とはまた別の話よ」

「ミリアーナ様は律儀ですよね......平民だからって侮らないし、見下すこともない。そういうところも大好きなんですけど。じゃあ、おじさんとおばさんにそれとなく伝えておきましょうか?」

「ええ、あまり高いお礼はできないけど......私にできることがあればなんでもいってちょうだいと伝えておいてね」







それから学園祭の準備は着々と進んでいく。

食材の仕入れの目途が立ったので早速メニューの試作品を作る。

まぁ前世で作ったことのあるものだし、味の保証はできるので味見として調理班の令嬢、令息たちを学園の食堂の厨房に集めた

もちろん、先生には使用許可を貰っている。



ちなみに令息たちは私への敵意を剥き出しにしているが、クリフォード様の視線が気になり無暗に口を出せないようだった。

……というか。



「何故クリフォード様がここに?ヨシュア様は私と同じ実行委員なのでここにいる理由はわかるのですが……。クリフォード様は当日の販売係ですよね?」

「別にいいではないか。おまえの作るものに興味があるし。なにより害虫除けになっているだろ?味見役は多い方が意見も参考になりやすい。そうカッカするなミリアーナ」

「いえ、別に怒ってはいないのですが……。あなたたちはいいの?」

「私たちはミリアーナ様がよろしければ大丈夫ですわ。けれど......王子様に拙いところをみられるのは少々恥ずかしいですが……。なにより料理というものは初めてなので……」



調理班の令嬢たちは頬を熟した林檎のように赤らめてちらッとクリフォード様を見る。

クリフォード様の綺麗なネイビーな髪色は沈みかけた太陽の陽の元でもよく生える。

そして心を射止めるような金色の瞳はあらゆる令嬢の心を鷲掴むようで......。



令嬢はうっとりとした表情で壁によりかかる彼に視線を集めていた。



このままだと試食もなにもないなと思った私はぱちんと手を一度叩いてこちらに注目するように促す。

早くしないと日が暮れてしまう。

「こちらに注目して下さい。調理班の皆さんにはこれからクレープの作り方を覚えてもらいます。火は使いませんが火魔法で熱したホットプレート……鉄板を熱したものを使うためくれぐれもやけどに注意してください。使い方や作り方はこちらでも指示します」

男子はなにか言いたそうに口をもごもごさせるが彼らは所詮アシュリーや目上の人間がいないと公爵令嬢の私にはなにも言えないので無視する。



ちくちくと小言を言われるのが癪に障るが私はこの学園の男子生徒から嫌われているのを自覚はしているので、今気にしていても仕方がない。

強がりも入っているが今の私には味方がいるので、過剰に恐れる心配はないだろう。



私は家から運んでもらったクレープの材料を3種類分取り出す。

2種類はスイーツ系。1種類はごはん系。

まずは生クリームとイチゴのクレープ。ひとつは南国産のバナナを使ったアイスクレープ。そしてレタス、コーン、ツナ、トマト、ズッキーニを使ったサラダクレープだ。

まずは具材作りから作りから。



イチゴのクレープはイチゴをピューレ状にしてバターと一緒にフライパンで炒める。当日は事前に準備するので今日は試食用に作るだけだ。

そして生クリームを泡立てたら一つ目の具材は完成。



二つ目はバニラのアイスクリームとチョコバナナアイス。

これはあらかじめ氷魔法を用いて作ったアイスとバナナとチョコソースをかけるだけだ。

三つ目も野菜をカットして手製のマヨネーズと牛乳、おろしにんにく、塩、蜂蜜を少し加えて味を調えれば完成だ。



「手際がいいですわねミリアーナ様」

「ふん……手際が良すぎてまるで庶民のようだ。アーテル家は貧乏なのか?」

「なにか言いましたか?」

「……なんでもありません」



茶々を入れる男子は放置しておいて……。とりあえず3種類の具材ができたので台の上によけて置いておく。



具材が準備できたらいよいよ生地を作って焼いていく。

薄力粉、砂糖、牛乳、卵をクレープの比率で加えてダマにならないように混ぜる。

そこに程よい温度に熱したプレートの上にクレープを流しいれておたまのくぼみで薄く伸ばして焼いていく。



「香ばしい匂いがしてきましたわ......はぁぁ……いい匂い」

「ミリアーナ様、次はどうすればよろしいんですの?」

「後は先ほど具材をのせて巻くだけです。……こうして、こう巻くとうまく具材が収まりますよ」

「本当ですわ!それに三角に折ると食べやすそうですし、可愛いです」

「私もできましたわ!こんなに簡単に作れるなんて......それに料理って楽しいですわ!」



きゃっきゃと令嬢たちは黄色い声を上げながらすべての具材をクレープに一枚ずつ巻いていく。

そして3種類のクレープが完成した。

男子たちも私の言う通りにもくもくとクレープを巻いていってくれる。

そして使い終わった調理器具を自発的に洗ってくれているものもいた。

聞き分けはいいし気は回るんだ……まぁ、私たちが学園祭の準備に真剣に取り組んでいるのに、取り組んでいない人が大口叩けないもんなぁ……。

その真面目さは私は関心できる。



「本来はこれに包装紙を巻くのですが、今日は試食なので必要ありませんね。皆さんで切り分けましょう」

令嬢令息合わせて15人。私とヨシュア様、クリフォード様を合わせると18人。3種類のクレープが各6個ずつ。それを3等分ずつにわけて手早く渡していく。

「バニラアイスは時間がたつと溶けてしまうので、食べるならお早目に……。あ」

「まぁ、男子生徒たちはさっそく食べてますわ......」

「忙しないですわね……私たちもいただいてもよろしいですか?」

「もちろん。さぁ、皆さまどうぞ」



わらわらと出来立てのクレープの前に集まり令嬢、令息たちは皿の上に乗っけたクレープを手に取り口に運んでいく。

一口先に食べている令息たちは言葉を詰まらせたようなはっきりとしない声を上げた。

「んなッ......これをミリアーナ様が作ったなんて信じられない......」

「おい、これ下手な貴族専門のシェフが作るものよりうまいんじゃ......」

「ふん……中々だな。マリアさんを虐めている者が作ったとは到底思えん」

「そんなこといっておまえ全部食べてるじゃないか~」



こわばっていた男子生徒の顔も幾分か和らいでそんな言葉を口にしてくれている。

棘はあるが、クレープの感想は本物のようで......正直敵と思っていた彼らからそんな言葉を聞けたことで私も心の中で安堵するように胸をなでおろす。



そして、令嬢たちはちまりと切り分けたクレープをさらに切り分けて咀嚼する。

あるものは「まぁ」と息を漏らし、あるものは「これを私たちが作れるなんて......」と反応は悪くないようだった。

日頃からお茶会を開催している令嬢にとってはことスイーツに関してはその辺の人間より舌が肥えている。

そんな彼女たちから感嘆されたことは私的にも嬉しく思った。



「ミリアーナ様、このクレープとても感動しましたわ!イチゴのは甘酸っぱくて、バナナのは冷たくてもったりとしていて……雲を食べているようで不思議で美味しいですわ!」

「本当!これ、今度うちのお茶会で出したいくらい……このサラダのクレープも甘いものを食べた後だとより酸味と塩味を感じれます。それに、私、お恥ずかしながら野菜がそれほど好きではなかったのですが…...これなら何個でもぺろりとイケちゃいそうです」



ふふふと笑みをこぼして食べ終えた生徒たちは「ご馳走様でした」と告げると台の上に食べ終えたクレープの皿を乗せる。

「ミリアーナ様!」

そして意気込むように一人の令嬢が声を上げた。



それは私が学園祭でクレープを作るきっかけを作ってくれたレティシア令嬢だった。

レティシア令嬢は丸眼鏡をくいっとあげ、熱のこもる吐息を漏らし鼻息は突風のように荒々しくしながら私に寄る。

目の前に迫力のある表情に内心たじろきながらも「あの......」とこの状況について質問してみる。



「このクレープ、飲食店......屋台業界に革命が起きますわ!素人でも簡単に作れてコストもそれほどかからない......そしてこの高クオリティの味!これは学園祭での売り上げ№1に間違いありません!それにこれを900食限定なんて......食材を扱うプロとしては絶対足りないかと!あと、このクレープ、学園祭が終わればうちで専売または商品開発にぜひ協力してくださいな!」



いきなりどうしたのだろう、レティシアさんは…...。

まるで推しを目の前にしているオタクのような熱量と眼差しを送る。

その様子に圧倒され、私はただ与えられた質問に回答するだけで精いっぱいだった。

それに専売かぁ…...。お金はこれ以上いらないし、私は周りの人たちと美味しいものが食べられて幸せでいられればそれでいいので、そんなに親しくはない令嬢の話にのるというのは乗り気ではない。



商品開発ばかりに気を取られたらラーゼン侯爵たちと釣りができなくなるし、夜食会もなかなか開けなくなるだろうなぁ......。

「クレープは学園祭の予算上でそれ以上は作れません。専売や商品開発については学生の身分ですので中々時間も作れず......。それにもし販売するとなれば懇意にしているお店が

ありますので、そこに優先的になるかと」



断るとわかりやすくレティシアさんの眉が下がる。

「残念......ですわ。では懇意にしているお店を教えていただけますか!?そちらのお店と協力して......だったらいかがです?もちろん、ミリアーナ様のご協力を頂くことにはなるものの我が商会が全面的にサポートしますので、お手を煩わせませんわ」

「あまり大きな声で言わないでいただきたいのですが......ヒソヒソ」



断ってもこれ食い下がるパターンだと感じた私は、心の中でおじさんとおばさんに謝罪をしながら簡単にお店と内容を伝える。

おじさんたちには不利益になる話ではないし問題はないと感じた。ただ最後にけん制だけはしておこう。



レティシアさんは「んまぁッ!」と口にはしたが大きな声で言わないで欲しいと釘を刺した手前、それを守ってくれた。



声が出ないように指で自分の口で押さえながら「ミリアーナ様、ただものではありませんわね」とぼそりと呟いた。

まぁ、前世の料理はこの世界では目新しいものみたいだからそう思われても仕方ないのかも。



私は手身近に伝え終わると最後に「交渉は自由ですが、アーテル家お墨付きのお店ですので非常識な真似だけは慎んでください」と付け加える。

ちょっとキツイ言い方だったかなと反省はするが、私のせいでおじさんたちに嫌な目に遭わせたくなかった。

レティシアさんは気にする様子もなく「もちろん。紳士的に話し合いますわ。信用こそ商売ですもの」と笑って了承してくれた。



この子、良い子なのかもしれない。

クラスに一人はいる聞き分けがよくて周りに好かれる純粋タイプ的な......。



ちょっと話し込んでしまったかも。

腕時計を見ると厨房を使ってそろそろ2時間立とうとしていた。学園が閉まる時間でもある。

皿を片付けようと調理台の上に乱雑に重ねてあるだろう皿の山に視線を流すが、あったのは綺麗に吹かれたまっさらな状態の台だけだった。

あれ......、皆が使ったお皿は…...?



「それは俺たちが洗っておきました」

「食材の仕入れだけじゃなくて調理指導をしてくれたんです。片付けくらいしないと割りにすらあいません」

「ありがとうございます、お皿を洗って片付けてくれて......」

きょろっと見回すとマリアを慕う何人かの令息たちが腰に巻いたエプロンで水で濡れた手を拭きながら緊張は残るが幾分か柔らかい表情を浮かべていた。

いつも私に敵対心をむけてくる彼らの態度を考えれば劇的な変化だった。



一体なにがあったの、この短時間に......?



「俺たち、公爵令嬢という地位を利用しマリアさんを執拗に虐めるあなたが嫌いでした......。彼女があなたにいじめられ、泣いている様を見ると俺たちは胸が締め付けられそうな思いをします。けど学園祭実行委員としてどの生徒よりもひたむきに準備に取り掛かり、今回の調理指導だって俺たちと関わるのが嫌だろうにその気持ちを抑えて賢明にいいものを作ろうと丁寧に教えてくれました。……その姿をみていて、彼女を守る俺たちが筋の通らないことをしてあなたを困らせるのは違うのではと思ったのです」



いや、そもそも虐めてないしマリアの勘違い、あなたたちの勘違いヒステリックと心の中で鋭いツッコミをしてみるが、なんかいい話でまとめそうなので、余計な茶々は心の中だけにしておく。



ちらりとクリフォード様たちの方をみるがクリフォード様は何の意図か首をゆっくり横に振っていた。

聞いてやれということかな。

「よく考えれば、マリアさんを虐めていたからあなたを毛嫌いして陰口を叩くなど、それこそ俺たちが嫌う虐めの在り方ではないのかとよく考えれば今は思います。もし間違っていることをしているのなら、今回のミリアーナ様のように感情的にならずに敵でも話に耳を傾けなければいけないのだと考えさせられました。......まぁ、あの......つまり」



もごもごと令息たちは言葉を詰まらせる。

「期間限定ではありますが、過去の遺恨は一端押さえて一致団結をして学園祭を成功させましょう。......虫が良すぎる話かもしれませんけど......」



あのプライドが高く、敵認定をすれば人の話すら聞こうとしなかった令息たちが親と喧嘩をして謝る子供のようにもじもじとしながら停戦要求を口にする。

今までの彼らからの態度をすればあの陰口・暴力の日々約4年はなんだったの?といいたくなるほどだ。



正直被害でしかない私は虫のいい話に苛立ちを感じたが、彼らの勘違いを正せなかった私の怠慢と無知さ。彼らの一つのことしか信じられない視野の狭さを考えれば大きな進歩なのかもしれない。



だから私は精一杯の強がりを口にした。

一旦はこれで学園祭の間は嫌な思い出に蓋をしよう。



「学校行事なので遺恨は挟みませんわ。年に一度しかない学園のお祭りですもの。あなたたちがきちんと協力してくれるうちは私も気にしすぎることはないようにして差し上げます」



ちょっと上から目線でいってみた。

令息たちは高圧的な物言いでも気にする様子もなくただ「公爵の家の令嬢らしいな」と笑ってくれた。
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