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家族+1名の団欒
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クリフォード様の突然のお願い。その内容は至ってシンプルで自分の好物でもあるお米を使った料理を作ってほしいとのことだった。
私もお米が食べたいし嬉しいといえばそうなのだが、ひとつ気になるのはお米を使った料理といってもたくさんあるということ。クリフォード様に具体的にどういった料理を食べたいのか聞いても「まかせる」の一点張りだった。
物事を決めるうえで「まかせる」といった回答は一番困るんだけど......。
けど、クリフォード様は格上の人だし、なにより窮地を救ってくれた恩人でもあり、借りもある。
できればお願いごとも叶えたいと思った。
ドレスの袖をまくってたすきをかけて袖が汚れないようにして厨房に足を運ぶ。時刻は午後6時くらいといつもであれば食事の準備をしている時間だ。
けれど今日はクリフォード様の強い希望もあり、特別に厨房を貸してもらえることとなり、食事も私が作ったものになる予定だ。
こんなイレギュラーなこと、もうないかもしれない。こんな時間で人目をはばからずはしたないと思うかもしれないが、両親公認なので今回だけはなけなしの罪悪感は部屋に置いておこう。
台に置いたお米をはじめとした食材をみて何を作るか献立を考える。
そんなに手の込んだごはんなんて作れないし、レシピも忘れてしまった。けれどクリフォード様を喜ばせるメニューはなにかないものか。
厨房の番人でもある当家自慢のシェフ、ドリーをはじめとした人たちは厨房の隅に立っており、私の行動を見守っていた。
「お嬢様、なにか手伝いましょうか?」
沈黙で静まり返った厨房にドリーの心配した声が響く。
「ああ......。そうね、じゃあ......」
厨房の上にあった新鮮な鯖に目が行く。......そうだ。ありきたりだけど和食を作ろう。
頭の中で献立を作って、ドリーに鯖を処理してもらうように指示を出す。
「お味噌と砂糖、酒はどこかしら。お酒は度数の高い米酒か穀物酒がいいのだけど。......あとほうれん草とナッツはある?」
「ございます!準備します」
ただ普通に作るぐらいなら誰にだってできる。どうせ作るのならば少しでもクリフォード様の意表を突くようなものを作りたい。
だけどシレーヌの食文化を知識は人並みだし、上澄みだけしか知らない。
なので、私が今考えうるクリフォード様に対しての最大限できるおもてなし料理を作ろう。
まずは、鯖の下処理を行い、塩で味をつけて塩焼きにしていく。その間にお米を仕込んでいく。今回炊くのは二種類、オーソドックスな白米と醤油とにんじんとお揚げ、きのこの炊き込みご飯だ。
そしてお米を炊いている間に5種類の具材を合わせて作る。
ひとつめが鯖の塩焼きをほぐしたもの。
ふたつめが味噌とネギ、ナッツ、そして砂糖をマヨネーズを混ぜた味噌種。
そのつぎがパンチェッタとほうれん草をバター、塩と胡椒で炒めたもの。
あとは即席で作ったあさりの佃煮だ。
これらを炊けたごはんと一緒におにぎりとして丸めていく。
そして極めつけは2種類のスープを作る。ひとつがコンソメ。次は和風の昆布だし。
この二つにはほんのりを味をつけ、風味付けとしてコンソメの方にはパセリ、昆布だしの方はカツオ節......はないのでネギを浮かべる。
そして余ったほうれん草とナッツを和えたものと、またまた即席でつくった大根の塩漬けを作ればおにぎりとほうれん草の和え物、そして昆布スープとコンソメスープの出来上がりだ。
量こそは多くなってしまったが種類が多いので仕方がない。この種類に分けたのにも、この献立にしたのも私なりの訳があるのだ。
できた今晩のご飯たちを食卓に運ぶと、すでにお母様やお父様、クリフォード様は着席していたので配膳は使用人たちに任せて私も席に腰を下ろした。
「今晩はクリフォードさんの強い希望であなたに作ってもらったのだけど、ちゃんと作れたの?」
「はい。アイデアとしては変わり映えのしないものかもしれませんが、ちょっと私なりに工夫をこらしてみました。......どうぞ、お父様、お母様、クリフォード様。丹精込めてつくったミリアーナ特製のおにぎりセットですわ」
オードブル用の銀の皿に並べられたのは今しがた握った5種類のおにぎりと炊き込みご飯。そしてワゴンの上にはスープジャーがふたつと8つのスープ皿が用意されている。
「これは握り飯か?シレーヌでは特別に珍しくないものではあるが…...」
クリフォード様はどれほど私の料理を期待していたのだろうか、落胆するように力なくそっと肩に力を落とす。
お母様は食器が少ない食事に怪訝な顔をして視線を私に向ける。
「陣中食の料理のひとつでもありますよね?......ミリアーナ、あなたはこの料理をどういった意図で作ったのですか?」
こちらでも保存食として握り飯、いわゆるおにぎりが知られており、こちらのおにぎりは戦国時代のように塩むすび一択。レパートリーが少ない。
保存食としてはある程度有用性があるが、種類が少ない分すぐに飽きが来てしまうのだ。
しかも保存食という概念が強い握り飯はなかなか家庭でも食べられないのだという。
クリフォード様にお米を使った料理を頼まれたとき、シレーヌは昔戦争国家だったことを思い出しておにぎりのアイデアが浮かんだ。おにぎりはそのまま食べることもできるしスープに手間を加えればお茶漬けにだってできる優れもの。ひとつの料理で複数の味を楽しむことができるのだ。
それにおにぎり自体陣中食に使われる優れもの。職務の片手間にだって食べることができるし、自分で簡単に作ることもできる。
これらの知識がクリフォード様に伝わって広まればうれしいな......と思うがさすがにすべてを理解するのは難しいかもしれない。が、万が一伝われば今の食文化を少しでも変えることができるかもしれないし、よりおいしいものも食べられる。一石何鳥も得られる。
色々な思いを馳せ、第一に喜んでもらえるように最善を尽くした。
「私にはシェフたちのように凝った料理が作れませんので、精一杯のおもてなしの意味を込めてこの料理を作りました。最初はおにぎりをそのまま食べてみてください」
「わかった。いただこう。......これは、鯖が入っているのか?よく処理がされているし口のなかでほろりと身が崩れてうまいな」
「これは味噌かな?食べなれない味だが、今までに食べたことのない濃厚でけれどしっかりと味がついていて癖になりそうだ」
「このパンチェッタとほうれん草のものも、単調な味の握り飯のとは思えない多彩な味をしていますわ。お米といえば奥ゆかしいイメージがありましたが、この握り飯、いえおにぎりはなんというか......食べなれた味がしますね」
「一通り楽しまれたら、スープを召し上がってください。召し上がりましたら、〆に入らせていただきます」
クリフォード様が〆とう言葉に首を傾げた。
「しめ......?何を締めるというのだ」
「これは…...こう、ですわ」
私は鯖のおにぎりを一つ手にとって昆布出汁が入った皿の中にぼちゃんとおにぎりを入れた。それをためらいなく豪快に身を崩すと3人の目は丸くなり驚きの表情を見せた。
「ミリアーナ、何をもったいないことをしている!食べ物で遊ぶなど淑女としては恥じるべき行為だ」
お父様の制止が入るが聞こえないフリをして適度におにぎりの形を崩す。それを口に運ぶと鯖の甘い身の味と塩味、そして昆布の優しい香りが口内にいきわたる。
「......はぁ、おいしい」
「そこの者、俺にも同じものを用意してくれ」
私の食べ方にならってクリフォード様も同じようにスープにおにぎりを沈める。
行儀の悪い食べ方でも王子が食べると優雅に見えるんだよなぁ、と呑気に呆けているといつの間にかスープ皿のおにぎりは米粒ひとつなくなっていた。
「これは!この料理はなんなんだ!行儀が悪いと内心思っていたが、その常識が覆されるほどに優しい味わいだ。今は鯖を浸して食したが…...もしかして、他の握り飯でも同様のことができるのか?」
「味噌や、鯖、梅干しなどは昆布スープで。ホウレンソウとパンチェッタのおにぎりはコンソメスープでいただけますわ」
と生前の知識を得意げに告げると、クリフォード様はもくもくと味噌や梅干しといったおにぎりを先程の......お茶漬けの食べ方で平らげていく。
お父様もお母様もクリフォード様にならい、同じようにおにぎりをスープで浸して食べると目の色ががらりと変わった。
「......おいしい、見た目こそ美しくありませんが、このスープで完成といってもいい優しいけれどしっかりとした味わい......。これが握り飯の進化系......その先なのですか?」
「う、うまいー!コンソメをつかったものも、昆布のものもどれも違った味わいで何個でも食べられそうだ」
喜んでいただけたようで何よりだ。私はほっと胸をなでおろし、最後に空になったスープ皿に3個目の梅のおにぎりを入れて、用意しておいたシレーヌ産の緑茶を注ぎ、最後に漬物を乗っけた。
それを見ていたクリフォード様に深刻そうな表情で聞かれる。
「ミリアーナ......もしかして緑茶でもさきほどのスープのような食べ方ができるのか?」
「え?......ええ、本来はこういった食べ方ですし」
今回のはおにぎりとお茶漬けをコンセプトにしたものなので、緑茶で食べても問題はない。むしろおいしい。
お米をスプーンですくって口に運ぶと、クリフォード様も真似をした。
「この食べ方はあっさりとしているな。それに優しい味わいだから漬物のよさも際立つ。......ミリアーナ、何度も願うようで申し訳ないがこのレシピを俺に教えてくれないか」
「ええ、喜んで。簡単ですので、ぜひシレーヌでも広めてください」
シレーヌ帝国で広まれば食文化の視野も広まるし、私のような肩身が狭い思いをしなくても済むかもと甘い考えを繰り広げていると、お父様も食い気味に便乗した。
「ミリアーナ!クリフォード様ばかりずるいぞ!僕にも教えてくれ、陣中食に取り入れるように手配しよう」
「え、陣中食に......?たしかに干物などでも代用できますが…...」
「よし!後でジョンを連れて部屋に行くから寝る準備だけして待ってなさい!......ふ、ふふふふ」
お父様はよからぬ笑いをもらしながら、残りのおにぎりや漬物を平らげていく。
お母様はほどほどに食事を終えると静かに食後の茶を啜った。
これがのちにお茶漬けの文化が広まっていくきっかけになるのだが、それはまた別の話である。
私もお米が食べたいし嬉しいといえばそうなのだが、ひとつ気になるのはお米を使った料理といってもたくさんあるということ。クリフォード様に具体的にどういった料理を食べたいのか聞いても「まかせる」の一点張りだった。
物事を決めるうえで「まかせる」といった回答は一番困るんだけど......。
けど、クリフォード様は格上の人だし、なにより窮地を救ってくれた恩人でもあり、借りもある。
できればお願いごとも叶えたいと思った。
ドレスの袖をまくってたすきをかけて袖が汚れないようにして厨房に足を運ぶ。時刻は午後6時くらいといつもであれば食事の準備をしている時間だ。
けれど今日はクリフォード様の強い希望もあり、特別に厨房を貸してもらえることとなり、食事も私が作ったものになる予定だ。
こんなイレギュラーなこと、もうないかもしれない。こんな時間で人目をはばからずはしたないと思うかもしれないが、両親公認なので今回だけはなけなしの罪悪感は部屋に置いておこう。
台に置いたお米をはじめとした食材をみて何を作るか献立を考える。
そんなに手の込んだごはんなんて作れないし、レシピも忘れてしまった。けれどクリフォード様を喜ばせるメニューはなにかないものか。
厨房の番人でもある当家自慢のシェフ、ドリーをはじめとした人たちは厨房の隅に立っており、私の行動を見守っていた。
「お嬢様、なにか手伝いましょうか?」
沈黙で静まり返った厨房にドリーの心配した声が響く。
「ああ......。そうね、じゃあ......」
厨房の上にあった新鮮な鯖に目が行く。......そうだ。ありきたりだけど和食を作ろう。
頭の中で献立を作って、ドリーに鯖を処理してもらうように指示を出す。
「お味噌と砂糖、酒はどこかしら。お酒は度数の高い米酒か穀物酒がいいのだけど。......あとほうれん草とナッツはある?」
「ございます!準備します」
ただ普通に作るぐらいなら誰にだってできる。どうせ作るのならば少しでもクリフォード様の意表を突くようなものを作りたい。
だけどシレーヌの食文化を知識は人並みだし、上澄みだけしか知らない。
なので、私が今考えうるクリフォード様に対しての最大限できるおもてなし料理を作ろう。
まずは、鯖の下処理を行い、塩で味をつけて塩焼きにしていく。その間にお米を仕込んでいく。今回炊くのは二種類、オーソドックスな白米と醤油とにんじんとお揚げ、きのこの炊き込みご飯だ。
そしてお米を炊いている間に5種類の具材を合わせて作る。
ひとつめが鯖の塩焼きをほぐしたもの。
ふたつめが味噌とネギ、ナッツ、そして砂糖をマヨネーズを混ぜた味噌種。
そのつぎがパンチェッタとほうれん草をバター、塩と胡椒で炒めたもの。
あとは即席で作ったあさりの佃煮だ。
これらを炊けたごはんと一緒におにぎりとして丸めていく。
そして極めつけは2種類のスープを作る。ひとつがコンソメ。次は和風の昆布だし。
この二つにはほんのりを味をつけ、風味付けとしてコンソメの方にはパセリ、昆布だしの方はカツオ節......はないのでネギを浮かべる。
そして余ったほうれん草とナッツを和えたものと、またまた即席でつくった大根の塩漬けを作ればおにぎりとほうれん草の和え物、そして昆布スープとコンソメスープの出来上がりだ。
量こそは多くなってしまったが種類が多いので仕方がない。この種類に分けたのにも、この献立にしたのも私なりの訳があるのだ。
できた今晩のご飯たちを食卓に運ぶと、すでにお母様やお父様、クリフォード様は着席していたので配膳は使用人たちに任せて私も席に腰を下ろした。
「今晩はクリフォードさんの強い希望であなたに作ってもらったのだけど、ちゃんと作れたの?」
「はい。アイデアとしては変わり映えのしないものかもしれませんが、ちょっと私なりに工夫をこらしてみました。......どうぞ、お父様、お母様、クリフォード様。丹精込めてつくったミリアーナ特製のおにぎりセットですわ」
オードブル用の銀の皿に並べられたのは今しがた握った5種類のおにぎりと炊き込みご飯。そしてワゴンの上にはスープジャーがふたつと8つのスープ皿が用意されている。
「これは握り飯か?シレーヌでは特別に珍しくないものではあるが…...」
クリフォード様はどれほど私の料理を期待していたのだろうか、落胆するように力なくそっと肩に力を落とす。
お母様は食器が少ない食事に怪訝な顔をして視線を私に向ける。
「陣中食の料理のひとつでもありますよね?......ミリアーナ、あなたはこの料理をどういった意図で作ったのですか?」
こちらでも保存食として握り飯、いわゆるおにぎりが知られており、こちらのおにぎりは戦国時代のように塩むすび一択。レパートリーが少ない。
保存食としてはある程度有用性があるが、種類が少ない分すぐに飽きが来てしまうのだ。
しかも保存食という概念が強い握り飯はなかなか家庭でも食べられないのだという。
クリフォード様にお米を使った料理を頼まれたとき、シレーヌは昔戦争国家だったことを思い出しておにぎりのアイデアが浮かんだ。おにぎりはそのまま食べることもできるしスープに手間を加えればお茶漬けにだってできる優れもの。ひとつの料理で複数の味を楽しむことができるのだ。
それにおにぎり自体陣中食に使われる優れもの。職務の片手間にだって食べることができるし、自分で簡単に作ることもできる。
これらの知識がクリフォード様に伝わって広まればうれしいな......と思うがさすがにすべてを理解するのは難しいかもしれない。が、万が一伝われば今の食文化を少しでも変えることができるかもしれないし、よりおいしいものも食べられる。一石何鳥も得られる。
色々な思いを馳せ、第一に喜んでもらえるように最善を尽くした。
「私にはシェフたちのように凝った料理が作れませんので、精一杯のおもてなしの意味を込めてこの料理を作りました。最初はおにぎりをそのまま食べてみてください」
「わかった。いただこう。......これは、鯖が入っているのか?よく処理がされているし口のなかでほろりと身が崩れてうまいな」
「これは味噌かな?食べなれない味だが、今までに食べたことのない濃厚でけれどしっかりと味がついていて癖になりそうだ」
「このパンチェッタとほうれん草のものも、単調な味の握り飯のとは思えない多彩な味をしていますわ。お米といえば奥ゆかしいイメージがありましたが、この握り飯、いえおにぎりはなんというか......食べなれた味がしますね」
「一通り楽しまれたら、スープを召し上がってください。召し上がりましたら、〆に入らせていただきます」
クリフォード様が〆とう言葉に首を傾げた。
「しめ......?何を締めるというのだ」
「これは…...こう、ですわ」
私は鯖のおにぎりを一つ手にとって昆布出汁が入った皿の中にぼちゃんとおにぎりを入れた。それをためらいなく豪快に身を崩すと3人の目は丸くなり驚きの表情を見せた。
「ミリアーナ、何をもったいないことをしている!食べ物で遊ぶなど淑女としては恥じるべき行為だ」
お父様の制止が入るが聞こえないフリをして適度におにぎりの形を崩す。それを口に運ぶと鯖の甘い身の味と塩味、そして昆布の優しい香りが口内にいきわたる。
「......はぁ、おいしい」
「そこの者、俺にも同じものを用意してくれ」
私の食べ方にならってクリフォード様も同じようにスープにおにぎりを沈める。
行儀の悪い食べ方でも王子が食べると優雅に見えるんだよなぁ、と呑気に呆けているといつの間にかスープ皿のおにぎりは米粒ひとつなくなっていた。
「これは!この料理はなんなんだ!行儀が悪いと内心思っていたが、その常識が覆されるほどに優しい味わいだ。今は鯖を浸して食したが…...もしかして、他の握り飯でも同様のことができるのか?」
「味噌や、鯖、梅干しなどは昆布スープで。ホウレンソウとパンチェッタのおにぎりはコンソメスープでいただけますわ」
と生前の知識を得意げに告げると、クリフォード様はもくもくと味噌や梅干しといったおにぎりを先程の......お茶漬けの食べ方で平らげていく。
お父様もお母様もクリフォード様にならい、同じようにおにぎりをスープで浸して食べると目の色ががらりと変わった。
「......おいしい、見た目こそ美しくありませんが、このスープで完成といってもいい優しいけれどしっかりとした味わい......。これが握り飯の進化系......その先なのですか?」
「う、うまいー!コンソメをつかったものも、昆布のものもどれも違った味わいで何個でも食べられそうだ」
喜んでいただけたようで何よりだ。私はほっと胸をなでおろし、最後に空になったスープ皿に3個目の梅のおにぎりを入れて、用意しておいたシレーヌ産の緑茶を注ぎ、最後に漬物を乗っけた。
それを見ていたクリフォード様に深刻そうな表情で聞かれる。
「ミリアーナ......もしかして緑茶でもさきほどのスープのような食べ方ができるのか?」
「え?......ええ、本来はこういった食べ方ですし」
今回のはおにぎりとお茶漬けをコンセプトにしたものなので、緑茶で食べても問題はない。むしろおいしい。
お米をスプーンですくって口に運ぶと、クリフォード様も真似をした。
「この食べ方はあっさりとしているな。それに優しい味わいだから漬物のよさも際立つ。......ミリアーナ、何度も願うようで申し訳ないがこのレシピを俺に教えてくれないか」
「ええ、喜んで。簡単ですので、ぜひシレーヌでも広めてください」
シレーヌ帝国で広まれば食文化の視野も広まるし、私のような肩身が狭い思いをしなくても済むかもと甘い考えを繰り広げていると、お父様も食い気味に便乗した。
「ミリアーナ!クリフォード様ばかりずるいぞ!僕にも教えてくれ、陣中食に取り入れるように手配しよう」
「え、陣中食に......?たしかに干物などでも代用できますが…...」
「よし!後でジョンを連れて部屋に行くから寝る準備だけして待ってなさい!......ふ、ふふふふ」
お父様はよからぬ笑いをもらしながら、残りのおにぎりや漬物を平らげていく。
お母様はほどほどに食事を終えると静かに食後の茶を啜った。
これがのちにお茶漬けの文化が広まっていくきっかけになるのだが、それはまた別の話である。
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