上 下
30 / 87

フィオーレ学園での1日②

しおりを挟む
「ほぅ。おまえたちの出会いが釣り場とは似合わないというか、ミリアーナらしいと表現するべきなのだろうか」

「ヨシュア様、そのことは内密にと......」

「あ、すみません。ミリアーナ様と親しそうだったので趣味のことはご存じなのかと思いました」

学園の生徒が多く使う食堂。その隅の方が開いていたので、3人がけの席に座る。

うちの学園の食堂はメニューを頼みさえすれば配膳係の人がこちらにもってきてくれる。

ヨシュア様がメニューを頼みにいってくれて、遅れて私とクリフォード様の間、丸テーブルに囲うように腰を下ろす。



食事を待っている間、話の流れでヨシュア様と私の出会いの話になった。



「趣味が釣りか。味の好みといい雄臭い趣味嗜好だな」

雄臭いって私は動物かなにかか。言葉選びのセンスが独特すぎるクリフォード様をちらりと見ながら食前の紅茶を啜る。

「令嬢らしくない」といいたげな言葉に焦ってしまう。

「ああ、こうなるのがわかってたから隠してたのに......」

「ああ、馬鹿にしているようにみえたのなら謝ろう。寧ろ俺的には好感もてるぞ?下手に取り繕って淑女然と振舞われるより関わりやすいしな」

「~~ッ!」

「あの、お二人とも落ち着いてください。あ、ほら。料理が冷めてしまいますよ」

真っ白なテーブルクロスが敷かれたテーブルの上には、海老のテリーヌやシーザーサラダなど王国が誇るシェフたちが腕によりをかけてつくった美味な料理の品々が並ぶ。

「うまそうだな。後の話は食事中にしていただくか」

「そうですね、では私、サラダを取り分けますね」

食前の挨拶をそこそこに、鼻孔を擽る料理の香ばしい香りを堪能にしながら料理に手を伸ばす。

「――ん、うまいな」

「このソテーなど芳醇なバターの香りがして食欲もそそられます」

「こちらの魚もおいしいですよ身が引き締まってて新鮮なもので調理した証拠ですね」

野菜のサラダはしゃきしゃきといい音が響き、魚をソテーしたものはみっちりとした肉厚の魚のうまみが引き立っていておいしい。

学校の食堂といえば料理が冷めてて、薄味、健康第一に考えた料理のラインナップであんまりいい印象がない。

けどこの食堂の料理は洋食に偏っているがどれも当たり外れがなくおいしい。強いて言えばメニューが一定ではあるが万人する味付けがまたいい。

クリフォード様は舌鼓を打ち、味をかみしめてうなずく。

「俺の国ではなかなかでない味だな。シンプルだがしっかりと塩味があって素材の味も活かしている。我が国でも取り入れたいほどだ」

「シレーヌでは味噌や醤油といった大豆を使った調味料が豊富なんでしたよね。あれらも魚料理に合うのでぜひ使ってみたいです」

「なら父にいってアーテルの家に送ってもらおう」

「本当ですか?ならいい魚も欲しいですわね。ヨシュア様、ラーゼン様をお誘いして海辺の方に釣りに行きましょう」

「いいですね、おじいさまに話をしておきましょう。海辺となると少し遠出にはなりますが…...」

「シレーヌ近郊の海街ならどうだ?シレーヌの領地だが釣りの名所となる場所もあったはずだ」

シレーヌ近郊の海街というとドリトのことだろうか。あそこはイカやカニなどの甲殻類がよく取れるし、浅瀬の方では身がアジに似た美味しい魚が取れるとラーゼン公爵から聞いたことがある。

一度行ってみたいなと思っていた場所だが、他国だし友好国といえども貴族の身ではいろいろ入国が面倒でいける機会がなかった。

「大丈夫なのですか?入国の際の書類など色々面倒でしょうし……」

「俺が話を通しておこう。なに、息抜きに母国に帰るだけだ。友人と一緒で非公式のものであればだれも文句はいわんだろう。任せておけ」

「わかりました。手間じゃなければ楽しみにしておりますね」

王子の差配ひとつで変わる入国審査って少し不用心すぎやしないかと思ったが、王子がそういうのだから余計なことはいわないでおこう。

いやぁ、思わぬところでこれから楽しみな予定がはいった。海街なんて趣味で行くのは初めてだし、貴族ってばれないような服装とか用意しなきゃなー。

話しが弾んだ頃、予鈴が鳴り急いで食器を片す従業員を後目に私たちは次の授業に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

悪役令息、拾いました~捨てられた公爵令嬢の薬屋経営~

山夜みい
恋愛
「僕が病気で苦しんでいる時に君は呑気に魔法薬の研究か。良いご身分だな、ラピス。ここに居るシルルは僕のために毎日聖水を浴びて神に祈りを捧げてくれたというのに、君にはがっかりだ。もう別れよう」 婚約者のために薬を作っていたラピスはようやく完治した婚約者に毒を盛っていた濡れ衣を着せられ、婚約破棄を告げられる。公爵家の力でどうにか断罪を回避したラピスは男に愛想を尽かし、家を出ることにした。 「もううんざり! 私、自由にさせてもらうわ」 ラピスはかねてからの夢だった薬屋を開くが、毒を盛った噂が広まったラピスの薬など誰も買おうとしない。 そんな時、彼女は店の前で倒れていた男を拾う。 それは『毒花の君』と呼ばれる、凶暴で女好きと噂のジャック・バランだった。 バラン家はラピスの生家であるツァーリ家とは犬猿の仲。 治療だけして出て行ってもらおうと思っていたのだが、ジャックはなぜか店の前に居着いてしまって……。 「お前、私の犬になりなさいよ」 「誰がなるかボケェ……おい、風呂入ったのか。服を脱ぎ散らかすな馬鹿!」 「お腹空いた。ご飯作って」 これは、私生活ダメダメだけど気が強い公爵令嬢と、 凶暴で不良の世話焼きなヤンデレ令息が二人で幸せになる話。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~

桜もふ
恋愛
家族を事故で亡くしたルルナ・エメルロ侯爵令嬢は男爵家である叔父家族に引き取られたが、何をするにも平手打ちやムチ打ち、物を投げつけられる暴力・暴言の【虐待】だ。衣服も与えて貰えず、食事は食べ残しの少ないスープと一欠片のパンだけだった。私の味方はお兄様の従魔であった女神様の眷属の【マロン】だけだが、そのマロンは私の従魔に。 そして5歳になり、スキル鑑定でゴミ以下のスキルだと判断された私は王宮の広間で大勢の貴族連中に笑われ罵倒の嵐の中、男爵家の叔父夫婦に【侯爵家】を乗っ取られ私は、縁切りされ平民へと堕とされた。 頭空っぽアホ第2王子には婚約破棄された挙句に、国王に【無一文】で国外追放を命じられ、放り出された後、頭を打った衝撃で前世(地球)の記憶が蘇り【賢者】【草集め】【特殊想像生成】のスキルを使い国境を目指すが、ある日たどり着いた街で、優しい人達に出会い。ギルマスの養女になり、私が3人組に誘拐された時に神獣のスオウに再開することに! そして、今日も周りのみんなから溺愛されながら、日銭を稼ぐ為に頑張ります! エメルロ一族には重大な秘密があり……。 そして、隣国の騎士団参謀(元ローバル国の第1王子)との甘々な恋愛は至福のひとときなのです。ギルマス(パパ)に邪魔されながら楽しい日々を過ごします。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました

みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。 日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。 引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。 そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。 香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

処理中です...