公爵推しの令嬢は公爵を切り捨てた者を許さない

赤羽夕夜

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裏で糸を引いていた者

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請求額の支払いと宝石の返還が確認できた日の夜、私はこっそりとヴェルレー家を後にして、迎えの馬車に乗り込んだ。

向かうのは「ゴウル弁護事務所」。

部下を伴って扉を開けさせると、襟首を崩し、机に支払いの為にセルジュ様からもらった宝石を5つ並べ、金を数えていた。

「お待ちしておりました。今『取り分』を清算しておりますので、そちらにおかけになってお待ちください」

「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわ」

「それにしても驚きましたよ。まさか億超えの請求額を物品込みとは言え、一括で支払われるだなんて。さすがは王族だ」

「その王族が雇った弁護士相手に金を毟り取れるあなたも大した者よ」

「王族が雇った弁護士相手に脅しをかける公爵夫人に言われると恥ずかしいですな」

「私は近所で噂の揺らすと金が落ちてくる木を少しだけ揺らしただけ。それが本当に金がなる木だったのかどうかは関係がないわ。確信なところはひとつ。私が望めばそれは「金の成る木」になるし、そうでないのなら見せしめに切り落とすだけ。ベトムという木は前者を選んだというだけよ」

「ベトムのヤツも災難でしたな。まさかニコラエヴナ一家のボスが自ら足を運んで「交渉」するだなんて、パンツの中にデカいクソをこさえるくらいにビビってましたよ。……ニコラエヴナは基本的に貴族の小さないざこざには介入しないのに、余計驚いてましたよね」

「あら、その認識、間違ってるわよ。貴族のいざこざに介入しないのではなく、「わざわざ金にならない話」には無関心だというだけ。家の隣で盛大なホームパーティーをしていたら参加したくなるでしょう」

「違いない。それでパーティーの余興で金貨をバラまいてくれりゃあ盛り上がりますし、ね。……さて、今回の「案件を紹介してくださった報酬」として、1億2000万のうち、金貨7000枚、頂いた宝石のうち、ブラックダイヤモンドとピジョンブラッド、アレキサンドライトの15カラットをお支払いいたします」

清算が終わり、私が座っているソファの目の前に置かれた長椅子の上に宝石と金貨7000枚が積み上げられる。

「ええ、確かに。シリル、持っていきなさい」

「へい」

シリルを筆頭にした部下が袋に1000枚ずつ入れて合計6枚の袋に金貨を纏めて持ち帰る。

その作業の間、小気味いい笑い声でゴウルは言った。

「着手金含め、今回は相当に稼がせてもらいましたが、よかったんですか?4億全額公爵家に返さないで」

「なにが言いたいのかしら?」

「報酬金が法外な値段だ。金貨1億2000枚に希少な宝石を報酬だなんて、普通の弁護士が請求する額じゃない。イリーナ様はセルジュ様に懸想していると聞いている。彼への印象を含め、もう少し優しい値段設定で請け負っても罰は当たらないんじゃないですか?」

「あら、守銭奴のゴウル弁護士が優しいことで。明日は空から飴が降ってくるのかしら?」

「はぁ……」

「――私がヴェルレー公爵様に尽くしたいと思っているのは本当だし、尽くしたいと思う乙女心もある。でも、それとこれとは話は別。私はイリーナ・エヴナではあるけど、ニコラエヴナの首領、「狂犬のイリーナ」でもある。恋情だけで「金にもならない」復讐に動くくらいなら、帰って童話を乳母に読み聞かせてもらいながら哺乳瓶を吸っている方がマシだわ」

セルジュ様を推している気持ちには偽りも迷いもない。気持ちは本当にあるつもりだ。だけど、この世に「無償の愛」など存在しない。セルジュ様が私に何かを好きになる気持ちを持たせてくれたように、なにかしらの行動でなにかしらの「価値」は発生するもの。

なにかをしたことで、なにかを得たのなら、それはもう無償は成り立っていないのだ。

「無償の愛だとか、道徳とか、正義とかは犬にでも食わせておけばいい。私たちが利益を得れば、不利益を被る敵がいて、不愉快にさせた者全ての復讐を私は望む。その復讐で生まれる利益を私は好む。ならず者の集団なんて、そんなものでしょう?私は復讐もして、利益も得る。それで公爵家も組織も潤うならそれに越したことはなし、よ」

世の中、金で買えないものはあるとしても、そのほとんどが金で買うことができる。金がなければ推し事も出来ないし、推しの公演で応援もできない。金は稼げる時に徹底的に稼いだ方がいいのだ。

それがどんな理由、どんなきっかけがあっても、だ。

ゴウルは解答に乾いた笑みを浮かべた。
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