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お茶会での嫌がらせ
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招待客が揃い、茶会が始まる。茶会といっても王妃を中心に雑談を楽しむのがメインだ。
この雑談の中には王都の流行りや時事ネタ、それぞれの家門の状況などを知れるので、侮れない。
周囲に聞き耳を立てて情報収集しつつ、目の前に並べられているスイーツに手を伸ばした。
口や手が汚れないように、手でつかめる軽食とスイーツばかりだ。
とくにこの苺味のマカロン、チープな味がしそうなシンプルな見た目だが、クリームに苺の果肉が混ぜ込まれていて、生地も甘酸っぱくておいしい。
流石は王族お抱えのシェフと言えるだろう。このマカロン作った人、エヴナ家にもスイーツを卸してくれないかしら?
「ヴェルレー公爵夫人の夫、セルジュ様と王妃様、そして国王陛下は幼馴染だったと聞きます。是非、その時の話を公爵夫人にもして差し上げたらいかがでしょうか?」
スイーツに舌鼓を打っていると、1人の貴婦人がふと王妃に話題を振った。王妃様とセルジュ様の幼い頃の話か。劇の内容と実際の話は全く別ものだし、興味があるかも。
「まぁ、それでしたら是非、お話いたしますわ。あれは国王陛下と私、セルジュ様がまだ10歳の頃……」
昔話が始まる。どんなエピソードが聞けると思いきや、一緒に木登りをしたとか、自分が他の令嬢に嫌がらせをされた時に助けられたとか、一緒に旅行に行った時に国王陛下に内緒で夜に宿を抜け出して星を見たとか……なんでもない日常の話だった。
この時からセルジュ様は女性に優しく、意外に行動的で星が好きなのね……。新たな一面を知れてとても嬉しいわ。
……けれど、セルジュ様の話は嬉しいのだけど、その大半がセルジュ様とビスチェ様のお話で、ビスチェ様がセルジュ様にされたことを自慢気に話されているという会話の流れが出来上がってしまった。
いるのよね、こういう人の男の昔話をして、今カノのマウントを取りたがる女。
セルジュ様の話なら何でも聞きたいし、栄養補給になったけれど、それはそれ。こうもあからさまにマウントを取られてしまうと呆れて物が言えない。
まだ、金と仕事と暴力の話をしていた方が気がまぎれる。
嫌がらせだろう、このやり取りも退屈だし、いい加減欠伸が出てしまいそう。
いかん、いかん。ここは王女様の茶会だ。粗相があってはいけないので、欠伸を噛みしめて我慢をしているとそのせいで視界が歪む。
「あら、すみません、ヴェルレー公爵夫人。仲間外れをしてしまったようで、許してくださいね。私、幼馴染のセルジュ様の話をすると、昔の気分になってしまってつい周りが見えなくなってしまうの」
くすり、とビスチェ様は私を見て笑った。
後を追う様に他の貴婦人も声をあげる。
「王妃様とセルジュ様は仲がよろしかったですものね。3人の友情は演劇になるほど美しいものだと思いますわ」
「そうですね、国王陛下に愛され、セルジュ様にも大切にされている王妃様が羨ましいですわ」
これは、あれだ。たまに聞く下級貴族いびりというやつではないだろうか。小さい頃、若かりし日のパパもこの手の嫌がらせに頭を悩ませていたものだ。
パパの場合、金と裏組織の繋がりをうまくつかって報復をしたっぽいけど、まさか私もこの下級貴族いびりに出くわすとは。
下級貴族いびりはこういう上流のお茶会のひとつの余興としてよくあることだ。暗黙のルールというわけではないが、1人の人間をイジメることで集団の団結力を高めるという効果もあるらしい。集団心理を利用し、ガス抜き程度の余興と言われてしまえばそれまでだけど、権力を持つ者が弱者を寄ってたかってイジメなければ人間関係が構築できないとか歪み過ぎてる。
このままやられるわけにはいかないし、なによりセルジュ様の家の名を傷つける。
「……とんでもございませんわ。私も知らない夫の一面が知れてとても有意義なお話でした」
「そう、それはよかったです」
「ところで、王妃様、皆さま、私のお友達のことでご相談があるのですが、よろしければ経験豊富な王妃様と貴婦人の皆さまに乗っていただけませんか?」
「まぁ、それは、それは。公爵夫人の頼みとあれば、相談に乗らない訳はありませんわね」
「ありがとうございます。これは私の最近結婚したばかりの友人の話なのですが、夫の幼馴染と名乗る女がよく屋敷に訪れては、夫とその女の昔話を延々と聞かされるそうです。もちろん、昔話程度なら良いと思うのですが、彼女の嫉妬を煽るように女が友人の夫とデートした話や一緒に遊んだ話ばかり。さすがに疎外感を感じると思いませんか?」
「……夫人のお話はよくわかりましたわ。その上で、そのご友人は少し気にし過ぎではないでしょうか?」
今の自分がしていることそのままだから、否定できないんでしょう。もっと困らせてあげるわ。
「王妃殿下は心が広いのですね。私なら一生を添い遂げると決めた夫から別の女の話など聞きたくないですし、よかれと思っていて話していても、夫婦関係に亀裂を入れようとする空気が読めないデリカシーもない女だと思ってしまいますわ。王妃殿下、このようなデリカシーがない頭の悪い女の対処法を是非教えてくださいませ」
「…………夫人は本当に面白い方ですのね」
嫌味に嫌味で返されただけで表情に出るって相当煽り耐性がないのね。まだ場末のチンピラの方が相手にした方が楽しいわ。
この程度の嫌がらせで私が泣き言をいうと思ったのなら、本当頭がお花畑なのね。
「ありがとうございます。王妃殿下とは夫のこともありましたし、良い関係を築けないと思っていたのですが、そのように言っていただけて感激です。今後とも仲良くしてくださいね」
なにか言いたそうに口を開こうとしたビスチェ様。まだなにか言いたそうだったが――、末席に座っていた妙齢の貴婦人が慌てて立ち上がった。
「お、王妃様、そういえばこの間国王陛下からプレゼントされた希少な宝石で作られたアクセサリーを見せてくださると言っていたではありませんか。私、是非見てみたいですわ」
「え、ええ。そうね。約束していたわね。忘れないうちに持って来させましょう。ごめんなさい、公爵夫人。相談はまたいずれ別の機会にいたしましょう」
「かしこまりました。私のお話に耳を傾けてくださり、感謝していますわ」
なんだか、知らない貴婦人の援護もあったが、茶会バトルは当然ながら私が勝利した。先ほどまで和気あいあいとしていたのに、この一言でも声を発すると空気が凍りそうなほどの冷たさ。
それを誤魔化すために王妃は無理やり話題を変えた。
この雑談の中には王都の流行りや時事ネタ、それぞれの家門の状況などを知れるので、侮れない。
周囲に聞き耳を立てて情報収集しつつ、目の前に並べられているスイーツに手を伸ばした。
口や手が汚れないように、手でつかめる軽食とスイーツばかりだ。
とくにこの苺味のマカロン、チープな味がしそうなシンプルな見た目だが、クリームに苺の果肉が混ぜ込まれていて、生地も甘酸っぱくておいしい。
流石は王族お抱えのシェフと言えるだろう。このマカロン作った人、エヴナ家にもスイーツを卸してくれないかしら?
「ヴェルレー公爵夫人の夫、セルジュ様と王妃様、そして国王陛下は幼馴染だったと聞きます。是非、その時の話を公爵夫人にもして差し上げたらいかがでしょうか?」
スイーツに舌鼓を打っていると、1人の貴婦人がふと王妃に話題を振った。王妃様とセルジュ様の幼い頃の話か。劇の内容と実際の話は全く別ものだし、興味があるかも。
「まぁ、それでしたら是非、お話いたしますわ。あれは国王陛下と私、セルジュ様がまだ10歳の頃……」
昔話が始まる。どんなエピソードが聞けると思いきや、一緒に木登りをしたとか、自分が他の令嬢に嫌がらせをされた時に助けられたとか、一緒に旅行に行った時に国王陛下に内緒で夜に宿を抜け出して星を見たとか……なんでもない日常の話だった。
この時からセルジュ様は女性に優しく、意外に行動的で星が好きなのね……。新たな一面を知れてとても嬉しいわ。
……けれど、セルジュ様の話は嬉しいのだけど、その大半がセルジュ様とビスチェ様のお話で、ビスチェ様がセルジュ様にされたことを自慢気に話されているという会話の流れが出来上がってしまった。
いるのよね、こういう人の男の昔話をして、今カノのマウントを取りたがる女。
セルジュ様の話なら何でも聞きたいし、栄養補給になったけれど、それはそれ。こうもあからさまにマウントを取られてしまうと呆れて物が言えない。
まだ、金と仕事と暴力の話をしていた方が気がまぎれる。
嫌がらせだろう、このやり取りも退屈だし、いい加減欠伸が出てしまいそう。
いかん、いかん。ここは王女様の茶会だ。粗相があってはいけないので、欠伸を噛みしめて我慢をしているとそのせいで視界が歪む。
「あら、すみません、ヴェルレー公爵夫人。仲間外れをしてしまったようで、許してくださいね。私、幼馴染のセルジュ様の話をすると、昔の気分になってしまってつい周りが見えなくなってしまうの」
くすり、とビスチェ様は私を見て笑った。
後を追う様に他の貴婦人も声をあげる。
「王妃様とセルジュ様は仲がよろしかったですものね。3人の友情は演劇になるほど美しいものだと思いますわ」
「そうですね、国王陛下に愛され、セルジュ様にも大切にされている王妃様が羨ましいですわ」
これは、あれだ。たまに聞く下級貴族いびりというやつではないだろうか。小さい頃、若かりし日のパパもこの手の嫌がらせに頭を悩ませていたものだ。
パパの場合、金と裏組織の繋がりをうまくつかって報復をしたっぽいけど、まさか私もこの下級貴族いびりに出くわすとは。
下級貴族いびりはこういう上流のお茶会のひとつの余興としてよくあることだ。暗黙のルールというわけではないが、1人の人間をイジメることで集団の団結力を高めるという効果もあるらしい。集団心理を利用し、ガス抜き程度の余興と言われてしまえばそれまでだけど、権力を持つ者が弱者を寄ってたかってイジメなければ人間関係が構築できないとか歪み過ぎてる。
このままやられるわけにはいかないし、なによりセルジュ様の家の名を傷つける。
「……とんでもございませんわ。私も知らない夫の一面が知れてとても有意義なお話でした」
「そう、それはよかったです」
「ところで、王妃様、皆さま、私のお友達のことでご相談があるのですが、よろしければ経験豊富な王妃様と貴婦人の皆さまに乗っていただけませんか?」
「まぁ、それは、それは。公爵夫人の頼みとあれば、相談に乗らない訳はありませんわね」
「ありがとうございます。これは私の最近結婚したばかりの友人の話なのですが、夫の幼馴染と名乗る女がよく屋敷に訪れては、夫とその女の昔話を延々と聞かされるそうです。もちろん、昔話程度なら良いと思うのですが、彼女の嫉妬を煽るように女が友人の夫とデートした話や一緒に遊んだ話ばかり。さすがに疎外感を感じると思いませんか?」
「……夫人のお話はよくわかりましたわ。その上で、そのご友人は少し気にし過ぎではないでしょうか?」
今の自分がしていることそのままだから、否定できないんでしょう。もっと困らせてあげるわ。
「王妃殿下は心が広いのですね。私なら一生を添い遂げると決めた夫から別の女の話など聞きたくないですし、よかれと思っていて話していても、夫婦関係に亀裂を入れようとする空気が読めないデリカシーもない女だと思ってしまいますわ。王妃殿下、このようなデリカシーがない頭の悪い女の対処法を是非教えてくださいませ」
「…………夫人は本当に面白い方ですのね」
嫌味に嫌味で返されただけで表情に出るって相当煽り耐性がないのね。まだ場末のチンピラの方が相手にした方が楽しいわ。
この程度の嫌がらせで私が泣き言をいうと思ったのなら、本当頭がお花畑なのね。
「ありがとうございます。王妃殿下とは夫のこともありましたし、良い関係を築けないと思っていたのですが、そのように言っていただけて感激です。今後とも仲良くしてくださいね」
なにか言いたそうに口を開こうとしたビスチェ様。まだなにか言いたそうだったが――、末席に座っていた妙齢の貴婦人が慌てて立ち上がった。
「お、王妃様、そういえばこの間国王陛下からプレゼントされた希少な宝石で作られたアクセサリーを見せてくださると言っていたではありませんか。私、是非見てみたいですわ」
「え、ええ。そうね。約束していたわね。忘れないうちに持って来させましょう。ごめんなさい、公爵夫人。相談はまたいずれ別の機会にいたしましょう」
「かしこまりました。私のお話に耳を傾けてくださり、感謝していますわ」
なんだか、知らない貴婦人の援護もあったが、茶会バトルは当然ながら私が勝利した。先ほどまで和気あいあいとしていたのに、この一言でも声を発すると空気が凍りそうなほどの冷たさ。
それを誤魔化すために王妃は無理やり話題を変えた。
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