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契約結婚①
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「ご苦労でした。また、用事があったら呼び出すからそれまでは下で待機していてください」
「かしこまりました。では、私は御前失礼いたします」
セルジュ様が泊っている客室から出てきた医者に容体を聞き、セルジュ様と話をするために下がらせる。
部屋に入ると、呆然と生気のない瞳で窓の外の景色を見ていた。
窓の外に広がる薔薇が植えられた庭は、センスがいい使用人がセレクトした品種だ。この辺では手に入らない品種なので、珍しいのだろうか。
セルジュ様に声をかける。
「セルジュ様、お部屋に押しかけて申し訳ございません。私はエヴナ子爵家が娘、イリーナと申します」
「そなたが俺を助けたのか……、余計なことをしてくれたものだ」
ぽつりと呟くような声。ここにシリルがいたら掴みかかって窓の外に投げかねない。その点ではここに血の気が多い護衛がいなくてよかったと思う。
「消沈しているところ恐縮ですが、何故、自殺を図ろうとなさったのですか?」
「それをそなたに言う必要が?」
「はい。私はあなたの命を助けました。自殺を図ろうとしたところに出くわした以上、当事者としては聞く権利はあるかと」
「放っておいてくれてよかった」
「でも、あそこで助けなければ、私はこの国の公爵が命を絶つのを黙って見守っていた人でなしとして人々に囁かれてしまいますわ」
推しが自殺しようとしている姿を見て止めないファンはいないけれど。それをいうと話がこじれてしまうのでお口を縫おう。
私に向けてか、はっと嘲笑をするとぽつり、ぽつりと経緯を話してくれた。
セルジュ様は先日行われた貴族会議に出席し、その日の夜に貴族会議に参加した貴族たちと国王夫妻と交えて晩餐会をしていたが、宰相のワインに毒が混入していた。宰相の隣にセルジュ様が座っていたこと、ワインはセルジュ様が進めていたことから毒殺未遂の容疑をかけられたのだという。
数日の牢獄生活と事情聴取を経て、釈放されたが、疑わしきは罰せよ精神でまるで犯人のように決めつけられたセルジュ様は、まるで真犯人のように「毒殺未遂の犯人」とされ、領地と財産を取り上げられてしまったのだという。
「毒の出どころはわかったのですか?それに、宰相閣下は無事なのですか?」
「宰相閣下は今の所無事だ。毒の出どころはわからないが、状況証拠的に俺だろうと強引に捜査が進められてしまった。……国王主導の元、な」
それはつまり、親友に裏切られたということだろう。何故禄に調査もせずに犯人を決めつけたのか。行動的に国王夫妻が怪しすぎる。
そもそも、宰相と国王側は元々対立関係にあった。この国では元々国王主体の政治で、政策の最終決定権は国王にあるが、政治に関心を持たない国王が宰相に処理するように判断してしまった結果、国王側に不利な政策が打ち出された。例えば、国王に与えられる税の予算を減らす代わりに平民に還元する政策の打ち出し、孤児院や職業斡旋に関する施設や法の整備、納税方法の見直しまで……。
その結果、国王夫妻は今まで以上の贅沢が出来なくなる変わりに、民が暮らしやすくなるという国の状況が出来上がってしまう。宰相が法や公共施設を積極的に改革したおかげで、昔より貧困街の治安は良くなったのは記憶に新しい。
そのおかげで民心の心は宰相側へと傾き、逆に国王は無能のレッテルを貼られていた。国王側にとっては宰相は有能だが、自分勝手に政策を変える目の上のたんこぶなのだ。だれがどう見ても国王が怪しい。
本気で殺す気だったが、殺し切れなく、セルジュ様に罪を被らせた……という筋書きが見え見えだが、証拠がない、法がセルジュ様が犯人だと決定してしまった以上、世間は「宰相を毒殺したのはセルジュ様」となってしまう。
幼少期から過ごしてきた友人に裏切られ、民衆から心無い言葉を投げかけられるなんて気の毒だ。
――というか、推しが苦しんでいるのに、このまま見逃すことなんかできない。
真相を明らかにして、罪を押し付けた真犯人に復讐してやらないと気が済まない。
そう思ったら感情のまま口走っていた。
「かしこまりました。では、私は御前失礼いたします」
セルジュ様が泊っている客室から出てきた医者に容体を聞き、セルジュ様と話をするために下がらせる。
部屋に入ると、呆然と生気のない瞳で窓の外の景色を見ていた。
窓の外に広がる薔薇が植えられた庭は、センスがいい使用人がセレクトした品種だ。この辺では手に入らない品種なので、珍しいのだろうか。
セルジュ様に声をかける。
「セルジュ様、お部屋に押しかけて申し訳ございません。私はエヴナ子爵家が娘、イリーナと申します」
「そなたが俺を助けたのか……、余計なことをしてくれたものだ」
ぽつりと呟くような声。ここにシリルがいたら掴みかかって窓の外に投げかねない。その点ではここに血の気が多い護衛がいなくてよかったと思う。
「消沈しているところ恐縮ですが、何故、自殺を図ろうとなさったのですか?」
「それをそなたに言う必要が?」
「はい。私はあなたの命を助けました。自殺を図ろうとしたところに出くわした以上、当事者としては聞く権利はあるかと」
「放っておいてくれてよかった」
「でも、あそこで助けなければ、私はこの国の公爵が命を絶つのを黙って見守っていた人でなしとして人々に囁かれてしまいますわ」
推しが自殺しようとしている姿を見て止めないファンはいないけれど。それをいうと話がこじれてしまうのでお口を縫おう。
私に向けてか、はっと嘲笑をするとぽつり、ぽつりと経緯を話してくれた。
セルジュ様は先日行われた貴族会議に出席し、その日の夜に貴族会議に参加した貴族たちと国王夫妻と交えて晩餐会をしていたが、宰相のワインに毒が混入していた。宰相の隣にセルジュ様が座っていたこと、ワインはセルジュ様が進めていたことから毒殺未遂の容疑をかけられたのだという。
数日の牢獄生活と事情聴取を経て、釈放されたが、疑わしきは罰せよ精神でまるで犯人のように決めつけられたセルジュ様は、まるで真犯人のように「毒殺未遂の犯人」とされ、領地と財産を取り上げられてしまったのだという。
「毒の出どころはわかったのですか?それに、宰相閣下は無事なのですか?」
「宰相閣下は今の所無事だ。毒の出どころはわからないが、状況証拠的に俺だろうと強引に捜査が進められてしまった。……国王主導の元、な」
それはつまり、親友に裏切られたということだろう。何故禄に調査もせずに犯人を決めつけたのか。行動的に国王夫妻が怪しすぎる。
そもそも、宰相と国王側は元々対立関係にあった。この国では元々国王主体の政治で、政策の最終決定権は国王にあるが、政治に関心を持たない国王が宰相に処理するように判断してしまった結果、国王側に不利な政策が打ち出された。例えば、国王に与えられる税の予算を減らす代わりに平民に還元する政策の打ち出し、孤児院や職業斡旋に関する施設や法の整備、納税方法の見直しまで……。
その結果、国王夫妻は今まで以上の贅沢が出来なくなる変わりに、民が暮らしやすくなるという国の状況が出来上がってしまう。宰相が法や公共施設を積極的に改革したおかげで、昔より貧困街の治安は良くなったのは記憶に新しい。
そのおかげで民心の心は宰相側へと傾き、逆に国王は無能のレッテルを貼られていた。国王側にとっては宰相は有能だが、自分勝手に政策を変える目の上のたんこぶなのだ。だれがどう見ても国王が怪しい。
本気で殺す気だったが、殺し切れなく、セルジュ様に罪を被らせた……という筋書きが見え見えだが、証拠がない、法がセルジュ様が犯人だと決定してしまった以上、世間は「宰相を毒殺したのはセルジュ様」となってしまう。
幼少期から過ごしてきた友人に裏切られ、民衆から心無い言葉を投げかけられるなんて気の毒だ。
――というか、推しが苦しんでいるのに、このまま見逃すことなんかできない。
真相を明らかにして、罪を押し付けた真犯人に復讐してやらないと気が済まない。
そう思ったら感情のまま口走っていた。
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