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気が重い大豚令嬢

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――久しぶりにディナサンに会ってどっと疲れた。しばらくは誰とも会いたくないな、と思いつつ。

優雅に引きこもりライフを送る。最近は少女向けの恋愛小説にはまっている。ガラスの靴をきっかけに恋愛に発展する小説。毒林檎を食べたことがきっかけで始まる恋......恋愛案系はトラウマがあるけど、フィクションには罪はないのだ。



小説にときめきつつ、1人の時間を満喫していると、本邸からの使いが届いた。グラトニー公爵からの晩餐会の招待状......と言う名の報告会か。



断る権限はないので、了解の返信を返すと、日取りは明日ということになった。



――憂鬱だ。話すことなんてなにもないのに。



仕方がないので、先日ディナサンに貰ったシックでタイトめなデザインと赤いリボンがあしらわれた、下半身のお肉を隠してくれるドレスを選んで、晩餐会に望む。







ブルーベルを連れて本邸へと足を踏み入れる。形式的に本邸で働く使用人たちは礼儀を尽くしてくれるけど、その表情は嘲笑と侮蔑の色が浮かんでいた。



そんな顔される覚えはないのだけど、大豚令嬢としての噂がある以上、それは仕方のないことだし、覚悟していたことだ。晩餐会といっても1時間くらいで終るからそれまでの辛抱だ。



グラトニー公爵の執事の案内を頼りに、公爵が待っている食間へと向かった。



............。



「おまえ、俺との約束を破って問題を起こしたらしいな」

「なんですか、藪から棒に」

食卓に座ると、コース料理が前菜から順に配膳される。マナーに則って順に口にするが......味がない。サラダにはドレッシングがかかっていない。お肉は味はついていなく、ゴムのように硬いし、パンもカチカチ。



こんな不味いものを公爵は食べているのかと、顔色を伺ってみるが、公爵様のサラダには明かにドレッシングがかかっているし、肉もパンも柔らかそうだ。

これも嫌がらせか。うんざりする。



食事に手をつける気が失せて、残りの料理は下げさせる。一瞬、グラトニー公爵はぴくり、と不満げに眉を上げたが無視だ。



美味しくないものを口にしたくないし、これを食べたところで、使用人が面白がるだけだ。



とりあえず話を続けようと、口を出したところ、そんな話題になった。



問題って、何を起こしたのだろうか。首を傾げても答えは出てこない。



「とぼけるな。離れで働いている使用人に陰口を叩き、腐った料理を無理やり食べさせた挙句、勝手に離れの使用人全員を解雇したのだろう!」

グラトニー公爵は声を荒げる。その話は事実無根である。......いや、腐った料理を食べさせたの下りだけは本当だけど、それは自業自得というものだ。先に仕掛けたのはあっちだし。



グラトニー公爵は冷静沈着で、状況をみて判断する人だと思ったのだが、思ったより感情的になる人なんだな。と彼の性格に人間味を感じつつ、間違っているところは、否定させてもらう。



「違います。その逆で――」

「実際に使用人は全員解雇したのだろう!彼らにも生活がある。勝手に解雇をするとは何事か」

「人の話を聞きなさいよ」



人の話を遮って、彼らを庇い建てする言葉が出てくる。この使用人にこの主有りってやつなのか。使用人の程度で主の程度が知れる。



たしかに宰相として有能なのだろうが、片方の意見を聞いただけで、状況を判断するのは得策ではなくない?



でも、感情的になった人間は、一度感情が暴走すると面白いほどに人の話を聞かないのは体験済み。これ以上私がなにをいったところで、彼には言い訳にしか聞こえないだろう。



なら、こちらもこちらで、言いたいことだけ言わせて貰う。

「こちらも正当な対価を支払っている以上、使えない使用人を雇う必要ありません。私の身の回りに誰を置くかは私が決めさせていただきます。従って、離れの管理は私自分で行いますので、今後一切介入しないでください。使用人も誰を雇うかはこちらで決めます」

「では勝手にするがいい。今後一切、こちらはなにも関与しない!」



私の態度が気にくわないのか、下唇を噛んで感情を抑えようと必死になる公爵。こういう一面もあるんだ、と関心しつつ。



関与しないという言質はもらえたので、頷いた。こっちもそちらの方が楽だし。

「はい。お互い無駄なことで言い争うのはやめましょう。お互いが変に関われば今回のような葉もない噂が広がりますので」



根はあると自覚しているので、そこは謝って置こう。......心の中で。



「予算の件ですが、こちらに回されるものは自分で管理をしたいのですが――」

「女のおまえが金の管理ができるはずないだろう。ずっと教養も身に着けず引きこもっていたのであろうが......」

後は離れの予算管理もこちらに一任してくれないかと交渉してみたが、お金の流れが把握できないので、NGとなってしまった。



あと、失礼な。一応教育係はつけてもらっていたし、一通りの管理くらい自分できるっつーの。



関与しないっていったのに、予算管理は駄目は矛盾し過ぎでしょ。ハイリーのこともそれとなく伝えてみたが、聞く耳を持ってくれない。



......気が重い。



彼は言いたいことだけ言い終えると、席を立ち上がって去っていってしまった。



人の話を聞かない相手との会話は疲れる。
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