上 下
84 / 86
第五章 決戦の時

恋愛のあれこれ①

しおりを挟む
 私はコタツ布団を押し入れから出してきた。

「布団はそこにあるじゃないか」

「それとは違うの。いよいよ寒くなりそうだからさ、そろそろコタツ出しとこうと思って。暖かいんだよ」

 コタツ布団をテーブルと天板の間に挟み、スイッチをいれた。

「魔王様、こうやって足だけいれるんだよ」

 私が入り方を実演すると、魔王もコタツ布団に足を入れてチョコンと座った。

「似合わないね。こんなにもコタツが似合わない人いるんだね」

「お前が入れと言ったんだろう。お、少し中が暖かくなってきた」

「暖かいでしょ。コタツは一度入ったら出られなくなるから、そこだけ注意しないとだけどね」

 私も魔王の斜め横のコタツ布団に足を入れて座った。すると魔王がニカッと満面の笑みで言った。

「コタツとは、まるで美羽だな。一度入ったら出られない沼だ」

「うっ、なんて眩しい顔でそんな恥ずかしいこと言ってんの」

 私が頬を赤く染めていると、魔王が頭をクシャクシャっと撫でてきた。

「可愛いな。しかし、俺も一緒に行って正解だったな」

「そうだね。一人じゃ生きて帰れなかったかも」

 ——私は魔王と共に曖昧にしていた恋愛のあれこれを清算する為、アレックスとセドリック、コリン一人ひとりに会いに行った。ついでにサイラスにも。

 アレックスは始めは冷静に見えた。

『申し訳ないが、少しミウと二人で話す時間をくれ』

 そう言って魔王を私から遠ざけた瞬間、アレックスに抱き抱えられた。そして、空を飛んで逃げたのだ。

『一生僕から離れないって約束したはずだ。約束を破るなんて許さない』

『ごめんなさい……アレックスは私をどうするの?』

『こういうことがあるんじゃないかと思って準備していたんだ』

『えっと……何を?』

『ミウが逃げ出せない部屋だよ』

 それはつまり……監禁。推しを推していたら推しに愛されて監禁。ガチ恋勢なら喜んでついて行くかもしれないが、私は違う。

『アレックスの気持ちは凄く嬉しいけど、私はアレックスの気持ちには応えられない。本当にごめんなさい』
 
 それだけ伝えると、私はアレックスの首に絡めていた手を離し、アレックスの胸板を思い切り押した。

『やめろ! 落ちるぞ!』

『大丈夫、私には魔王様がいるから。それでもアレックス推しは変わらないから。ただのファンでいさせてね』

 そのまま真っ逆さまに私は落ちた。そして、魔王にキャッチされた。

『美羽、このまま次行くぞ』

『うん』

 次はセドリックの元へと移動した——。

 セドリックにも私と魔王との関係性を説明して、謝罪した。セドリックは混乱した。

『え、結婚? でも魔王はミウのお兄さんで……』

『ごめんね、兄じゃないんだ。それから、セドリックのことは好きだけど恋愛の好きではないんだ。友達じゃダメかな?』

『友達……そんな割り切れることじゃない。やっぱオレの身分のせいだろ? 母上に色々言われたから。逃げよう、二人で逃げよう!』

 セドリックは私の腕を掴んで走り出そうとした。しかし、私の反対の手は魔王としっかり繋がれている為、動かなかった。

 それを見たセドリックは悲しそうな顔をして、身につけていた短剣を取り出した。そしてそれは持ち主の首筋にあてられた。

『ミウが手に入らないなら生きてる意味なんてない……』

『待って! 早まらないで!』  

 私のせいで人が死ぬなんて嫌だ。何より、そんなことをされては私自身幸せな暮らしができない。セドリックの死が脳裏に焼き付いて一生セドリックの呪縛から解放されそうにない。

 私は魔王の手を離し、セドリックにゆっくりと近づいた。

『来るな。来たらお前も刺すぞ』

 セドリックは短剣の刃を私の方へ向けた。私は一瞬怯んだが、そのままセドリックにゆっくりと近づいた。

『本当に刺すぞ……』

『セドリックは刺さないよ』

 セドリックの手が震えていた。私がその手に触れると、セドリックは短剣を落としてその場にへたり込んだ。

『初めて会った時もこの間も助けてくれてありがとう。恋愛の好きではないけど、大好きだよ。セドリックが幸せになることを願ってるよ』

 私と魔王はその場を後にした——。

『次はコリンだね』

『次は危険なことするなよ』

『うん』

 コリンの屋敷を訪問し、玄関先でコリンに私と魔王の関係性を説明した。今まで同様に逃亡や最悪刺される覚悟で行ったのだが、コリンはにっこり笑顔で言った。

『そっか。おめでとう! 部屋でゆっくり馴れ初め話でも聞かせてよ』

 私と魔王はコリンの自室に通され、紅茶を振る舞われた。

『どうぞ』

『ありがとう。それから、シャーロットの件もありがとう』

『ううん。自分でやって自分で失敗しちゃっただけだから。それより、僕ミウにいっぱい酷い事言っちゃってごめんね』

 惚れ薬が効いている間のことは全て覚えているらしい。その事は皆が謝罪してきた。

『ほら、冷めない内に飲んでね』

『うん』

 薔薇の香りがする美味しい紅茶だった。それから数十分、コリンと何気ない会話をした後、帰ろうと立ち上がった。

『あれ?』

 フラフラして思うように立てない。魔王が咄嗟に支えてくれて転けることは無かったが、頭はぼーっとしている。

『美羽! 美羽! コリン何をした?』

『この薬草を少し混ぜただけだよ』

 見たことのない植物で、それが何かは分からなかった。コリンは嬉しそうに話した。

『これはね、筋弛緩作用があって身体が動かなくなってくるんだよ。でね、だんだん呼吸が出来なくなるんだ』

『え……』

 それはつまり……死?
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。 ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。 そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。 主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。 ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。 それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。 ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。

処理中です...