乙女ゲームの悪役令嬢と魔王が居候!?〜偽ヒロインは後でゆっくり制裁を下します〜

七彩 陽

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第五章 決戦の時

恋愛のあれこれ①

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 私はコタツ布団を押し入れから出してきた。

「布団はそこにあるじゃないか」

「それとは違うの。いよいよ寒くなりそうだからさ、そろそろコタツ出しとこうと思って。暖かいんだよ」

 コタツ布団をテーブルと天板の間に挟み、スイッチをいれた。

「魔王様、こうやって足だけいれるんだよ」

 私が入り方を実演すると、魔王もコタツ布団に足を入れてチョコンと座った。

「似合わないね。こんなにもコタツが似合わない人いるんだね」

「お前が入れと言ったんだろう。お、少し中が暖かくなってきた」

「暖かいでしょ。コタツは一度入ったら出られなくなるから、そこだけ注意しないとだけどね」

 私も魔王の斜め横のコタツ布団に足を入れて座った。すると魔王がニカッと満面の笑みで言った。

「コタツとは、まるで美羽だな。一度入ったら出られない沼だ」

「うっ、なんて眩しい顔でそんな恥ずかしいこと言ってんの」

 私が頬を赤く染めていると、魔王が頭をクシャクシャっと撫でてきた。

「可愛いな。しかし、俺も一緒に行って正解だったな」

「そうだね。一人じゃ生きて帰れなかったかも」

 ——私は魔王と共に曖昧にしていた恋愛のあれこれを清算する為、アレックスとセドリック、コリン一人ひとりに会いに行った。ついでにサイラスにも。

 アレックスは始めは冷静に見えた。

『申し訳ないが、少しミウと二人で話す時間をくれ』

 そう言って魔王を私から遠ざけた瞬間、アレックスに抱き抱えられた。そして、空を飛んで逃げたのだ。

『一生僕から離れないって約束したはずだ。約束を破るなんて許さない』

『ごめんなさい……アレックスは私をどうするの?』

『こういうことがあるんじゃないかと思って準備していたんだ』

『えっと……何を?』

『ミウが逃げ出せない部屋だよ』

 それはつまり……監禁。推しを推していたら推しに愛されて監禁。ガチ恋勢なら喜んでついて行くかもしれないが、私は違う。

『アレックスの気持ちは凄く嬉しいけど、私はアレックスの気持ちには応えられない。本当にごめんなさい』
 
 それだけ伝えると、私はアレックスの首に絡めていた手を離し、アレックスの胸板を思い切り押した。

『やめろ! 落ちるぞ!』

『大丈夫、私には魔王様がいるから。それでもアレックス推しは変わらないから。ただのファンでいさせてね』

 そのまま真っ逆さまに私は落ちた。そして、魔王にキャッチされた。

『美羽、このまま次行くぞ』

『うん』

 次はセドリックの元へと移動した——。

 セドリックにも私と魔王との関係性を説明して、謝罪した。セドリックは混乱した。

『え、結婚? でも魔王はミウのお兄さんで……』

『ごめんね、兄じゃないんだ。それから、セドリックのことは好きだけど恋愛の好きではないんだ。友達じゃダメかな?』

『友達……そんな割り切れることじゃない。やっぱオレの身分のせいだろ? 母上に色々言われたから。逃げよう、二人で逃げよう!』

 セドリックは私の腕を掴んで走り出そうとした。しかし、私の反対の手は魔王としっかり繋がれている為、動かなかった。

 それを見たセドリックは悲しそうな顔をして、身につけていた短剣を取り出した。そしてそれは持ち主の首筋にあてられた。

『ミウが手に入らないなら生きてる意味なんてない……』

『待って! 早まらないで!』  

 私のせいで人が死ぬなんて嫌だ。何より、そんなことをされては私自身幸せな暮らしができない。セドリックの死が脳裏に焼き付いて一生セドリックの呪縛から解放されそうにない。

 私は魔王の手を離し、セドリックにゆっくりと近づいた。

『来るな。来たらお前も刺すぞ』

 セドリックは短剣の刃を私の方へ向けた。私は一瞬怯んだが、そのままセドリックにゆっくりと近づいた。

『本当に刺すぞ……』

『セドリックは刺さないよ』

 セドリックの手が震えていた。私がその手に触れると、セドリックは短剣を落としてその場にへたり込んだ。

『初めて会った時もこの間も助けてくれてありがとう。恋愛の好きではないけど、大好きだよ。セドリックが幸せになることを願ってるよ』

 私と魔王はその場を後にした——。

『次はコリンだね』

『次は危険なことするなよ』

『うん』

 コリンの屋敷を訪問し、玄関先でコリンに私と魔王の関係性を説明した。今まで同様に逃亡や最悪刺される覚悟で行ったのだが、コリンはにっこり笑顔で言った。

『そっか。おめでとう! 部屋でゆっくり馴れ初め話でも聞かせてよ』

 私と魔王はコリンの自室に通され、紅茶を振る舞われた。

『どうぞ』

『ありがとう。それから、シャーロットの件もありがとう』

『ううん。自分でやって自分で失敗しちゃっただけだから。それより、僕ミウにいっぱい酷い事言っちゃってごめんね』

 惚れ薬が効いている間のことは全て覚えているらしい。その事は皆が謝罪してきた。

『ほら、冷めない内に飲んでね』

『うん』

 薔薇の香りがする美味しい紅茶だった。それから数十分、コリンと何気ない会話をした後、帰ろうと立ち上がった。

『あれ?』

 フラフラして思うように立てない。魔王が咄嗟に支えてくれて転けることは無かったが、頭はぼーっとしている。

『美羽! 美羽! コリン何をした?』

『この薬草を少し混ぜただけだよ』

 見たことのない植物で、それが何かは分からなかった。コリンは嬉しそうに話した。

『これはね、筋弛緩作用があって身体が動かなくなってくるんだよ。でね、だんだん呼吸が出来なくなるんだ』

『え……』

 それはつまり……死?
 
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