82 / 86
第五章 決戦の時
プロポーズ
しおりを挟む
私は兄と魔王、レイラと自宅のリビングで緑茶を啜っている。
「良かったのかな。後処理全部任せちゃって」
「良いんじゃない? 僕らが出て行くとややこしくなるし」
「俺が出て行くのも少々面倒なことになるからな」
「その国の者に任せるのが一番ですわ」
そう、私達は戦いの後、正気に戻ったセドリックに後処理を任せて帰宅したのだ。
「でもどうしてセドリックだけ正気に戻ったんだろうね。他の四人はまだ惚れ薬の効果切れてなかったよ」
「それなのですが、一つ思い出したことが」
「どうしたの?」
レイラが自身のスマートフォンを取り出し、何やら検索し始めた。そして『胸キュンラバーⅡ』のアイテムの詳細が書かれたページを開いて見せた。
「これを見てくださいませ。美羽のアイテムは解毒作用もあるらしいのですわ」
「え、てことは私が解毒したの? てか、惚れ薬って毒なの?」
「精神を操るからな。毒の一種なのだろう」
「美羽はセドリックが正気に戻る時にアイテム使ってないの?」
「使ってないよ。観戦はしてたけど」
即答したが、私は一つ思い出した。
「独り言は言ったかも。『セドリックの惚れ薬の効果が早く切れれば良いのに』って」
「それだね」
「それだな」
「それですわね」
マジか。そんなことを知っていたら、初めから惚れ薬の効果を無効にして不毛な戦いを阻止できていたはずだ。
「今からみんなを正気に戻しに行った方が良いかな?」
私の問いに魔王が顎に手を当てながら考え出した。
「あれは……そのままにしておいた方が良いだろう」
「なんで? 早く正気に戻った方がみんなの為じゃない?」
「それはそうだが、美羽が後々面倒ごとに巻き込まれる可能性がある」
「私?」
私が不思議そうに魔王を見ると、レイラも魔王に賛同して言った。
「魔王様の仰る通りですわ。既に惚れ薬の件は国王陛下の耳に入っています。その対策も講じられているはずですわ。そこへ美羽が解毒してしまえば、美羽は一気に英雄ですわ」
「ダメなの?」
「崇め奉られて聖女としてこき使われますわ。さらには、いずれサイラス殿下と結婚になりますわよ。あの国で聖女は王族と結婚する事が決定されていますから」
「え……でも魔王様が連れ帰ってくれるし……」
「王城には転移出来ない部屋があっただろう。どういう仕組みかは分からんが、あれを美羽に仕掛けられたら二度とこっちに戻れんかもしれん」
「うわぁ……放っとこう」
何もせずとも一ヶ月経てば元に戻るのだ。そんな危険をおかしてまで助けようとは思わない。
そうとなれば、私はもう異世界に用事はない。攻略してしまったセドリックとアレックスには申し訳ないが、このままフェードアウトしよう。
◇◇◇◇
それから一ヶ月後。惚れ薬の効果も切れ、シャーロットの処分も決定した。
シャーロットは斬首刑になるところだったが、修道院送りとなった。何でもシャーロットは早く死にたがっていたそうだ。
『あたしを早く殺してちょうだい。そしたら別の世界に転生して次こそはハッピーエンドにしてみせるんだから』
と、喚き散らしながら殺せ殺せと言ってくるのだとか。死にたい者を殺すのは処罰の意味がないので、修道院……つまり一生出られない牢獄で今世は長生きしてもらうつもりのようだ。
「良いんだけどさ、魔王様、最近滞在時間が前よりも長くなってない?」
戦闘が終わった今も魔王はまだ我が家に居候中だ。
「美羽のせいだ。文句を言うな」
「なんで私? 責任転嫁じゃない?」
急に自分のせいにされてイラッとしたが、魔王の次の言葉を聞いたら何も言えなくなった。
「ブラッドを除いて、攻略対象達が魔王城に代わる代わる美羽を訪ねてくるのだ。お前のせいだろう」
「……」
「セドリックやアレックスだけじゃなく、コリンも攻略していたんだな」
「え、でもコリンはこの間振られたよ。僕にはシャーロットがいるとか何とか」
魔王が溜め息を吐きながら言った。
「それは惚れ薬をかけられた後の話だろう。『自分に嘘を吐くのも誰かに遠慮して我慢するのもやめた』と言って婚約を申し込みに来たぞ」
「マジか……」
いや、嬉しいけどさ。コリンの考え方が変わったことも、自分を好いてくれていることも嬉しい。けれど、私はあちらの世界で結婚する気は毛頭ないのだ。
さて、どうしたものか。このままフェードアウトを狙ったとしても魔王に迷惑がかかるだけな気がしてきた。
やはり逃げ回らずに一度一人ずつ話をしに行くべきか。私が悩んでいると、魔王がお煎餅を齧りながらのんびりと言った。
「美羽は別に行かなくて良い」
「え、でも……」
「行ったところであいつらは諦めんだろ」
確かにそれはある。乙女ゲームのキャラだからかとても一途で愛が重たい。さらには、逆ハーエンドがあるくらいだ。『一人に決めなくて良いから一緒にいてくれ!』みたいなことになりそうだ。
両思いであるのならそれもアリかもしれない。しかし、私は別世界の人間だからか、どうしても彼らを恋愛対象として見ることが出来ない。
「美羽が結婚でもすれば流石に諦めそうだがな」
「確かに……。結婚かぁ」
高校生ではあるが、既に私も結婚出来る年齢だ。生涯を共に過ごすことを誓い合って一生寄り添うのか……。悪くない。
「魔王様、私と結婚する?」
「良かったのかな。後処理全部任せちゃって」
「良いんじゃない? 僕らが出て行くとややこしくなるし」
「俺が出て行くのも少々面倒なことになるからな」
「その国の者に任せるのが一番ですわ」
そう、私達は戦いの後、正気に戻ったセドリックに後処理を任せて帰宅したのだ。
「でもどうしてセドリックだけ正気に戻ったんだろうね。他の四人はまだ惚れ薬の効果切れてなかったよ」
「それなのですが、一つ思い出したことが」
「どうしたの?」
レイラが自身のスマートフォンを取り出し、何やら検索し始めた。そして『胸キュンラバーⅡ』のアイテムの詳細が書かれたページを開いて見せた。
「これを見てくださいませ。美羽のアイテムは解毒作用もあるらしいのですわ」
「え、てことは私が解毒したの? てか、惚れ薬って毒なの?」
「精神を操るからな。毒の一種なのだろう」
「美羽はセドリックが正気に戻る時にアイテム使ってないの?」
「使ってないよ。観戦はしてたけど」
即答したが、私は一つ思い出した。
「独り言は言ったかも。『セドリックの惚れ薬の効果が早く切れれば良いのに』って」
「それだね」
「それだな」
「それですわね」
マジか。そんなことを知っていたら、初めから惚れ薬の効果を無効にして不毛な戦いを阻止できていたはずだ。
「今からみんなを正気に戻しに行った方が良いかな?」
私の問いに魔王が顎に手を当てながら考え出した。
「あれは……そのままにしておいた方が良いだろう」
「なんで? 早く正気に戻った方がみんなの為じゃない?」
「それはそうだが、美羽が後々面倒ごとに巻き込まれる可能性がある」
「私?」
私が不思議そうに魔王を見ると、レイラも魔王に賛同して言った。
「魔王様の仰る通りですわ。既に惚れ薬の件は国王陛下の耳に入っています。その対策も講じられているはずですわ。そこへ美羽が解毒してしまえば、美羽は一気に英雄ですわ」
「ダメなの?」
「崇め奉られて聖女としてこき使われますわ。さらには、いずれサイラス殿下と結婚になりますわよ。あの国で聖女は王族と結婚する事が決定されていますから」
「え……でも魔王様が連れ帰ってくれるし……」
「王城には転移出来ない部屋があっただろう。どういう仕組みかは分からんが、あれを美羽に仕掛けられたら二度とこっちに戻れんかもしれん」
「うわぁ……放っとこう」
何もせずとも一ヶ月経てば元に戻るのだ。そんな危険をおかしてまで助けようとは思わない。
そうとなれば、私はもう異世界に用事はない。攻略してしまったセドリックとアレックスには申し訳ないが、このままフェードアウトしよう。
◇◇◇◇
それから一ヶ月後。惚れ薬の効果も切れ、シャーロットの処分も決定した。
シャーロットは斬首刑になるところだったが、修道院送りとなった。何でもシャーロットは早く死にたがっていたそうだ。
『あたしを早く殺してちょうだい。そしたら別の世界に転生して次こそはハッピーエンドにしてみせるんだから』
と、喚き散らしながら殺せ殺せと言ってくるのだとか。死にたい者を殺すのは処罰の意味がないので、修道院……つまり一生出られない牢獄で今世は長生きしてもらうつもりのようだ。
「良いんだけどさ、魔王様、最近滞在時間が前よりも長くなってない?」
戦闘が終わった今も魔王はまだ我が家に居候中だ。
「美羽のせいだ。文句を言うな」
「なんで私? 責任転嫁じゃない?」
急に自分のせいにされてイラッとしたが、魔王の次の言葉を聞いたら何も言えなくなった。
「ブラッドを除いて、攻略対象達が魔王城に代わる代わる美羽を訪ねてくるのだ。お前のせいだろう」
「……」
「セドリックやアレックスだけじゃなく、コリンも攻略していたんだな」
「え、でもコリンはこの間振られたよ。僕にはシャーロットがいるとか何とか」
魔王が溜め息を吐きながら言った。
「それは惚れ薬をかけられた後の話だろう。『自分に嘘を吐くのも誰かに遠慮して我慢するのもやめた』と言って婚約を申し込みに来たぞ」
「マジか……」
いや、嬉しいけどさ。コリンの考え方が変わったことも、自分を好いてくれていることも嬉しい。けれど、私はあちらの世界で結婚する気は毛頭ないのだ。
さて、どうしたものか。このままフェードアウトを狙ったとしても魔王に迷惑がかかるだけな気がしてきた。
やはり逃げ回らずに一度一人ずつ話をしに行くべきか。私が悩んでいると、魔王がお煎餅を齧りながらのんびりと言った。
「美羽は別に行かなくて良い」
「え、でも……」
「行ったところであいつらは諦めんだろ」
確かにそれはある。乙女ゲームのキャラだからかとても一途で愛が重たい。さらには、逆ハーエンドがあるくらいだ。『一人に決めなくて良いから一緒にいてくれ!』みたいなことになりそうだ。
両思いであるのならそれもアリかもしれない。しかし、私は別世界の人間だからか、どうしても彼らを恋愛対象として見ることが出来ない。
「美羽が結婚でもすれば流石に諦めそうだがな」
「確かに……。結婚かぁ」
高校生ではあるが、既に私も結婚出来る年齢だ。生涯を共に過ごすことを誓い合って一生寄り添うのか……。悪くない。
「魔王様、私と結婚する?」
12
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢が可愛すぎる!!
佐倉穂波
ファンタジー
ある日、自分が恋愛小説のヒロインに転生していることに気がついたアイラ。
学園に入学すると、悪役令嬢であるはずのプリシラが、小説とは全く違う性格をしており、「もしかして、同姓同名の子が居るのでは?」と思ったアイラだったが…….。
三話完結。
ヒロインが悪役令嬢を「可愛い!」と萌えているだけの物語。
2023.10.15 プリシラ視点投稿。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
かあさん、東京は怖いところです。
木村
ライト文芸
桜川朱莉(さくらがわ あかり)は高校入学のために単身上京し、今まで一度も会ったことのないおじさん、五言時絶海(ごごんじ ぜっかい)の家に居候することになる。しかしそこで彼が五言時組の組長だったことや、桜川家は警察一族(影では桜川組と呼ばれるほどの武闘派揃い)と知る。
「知らないわよ、そんなの!」
東京を舞台に佐渡島出身の女子高生があれやこれやする青春コメディー。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる