上 下
78 / 86
第五章 決戦の時

拓海vsブラッド

しおりを挟む
 魔王とセドリックは先程レイラとコリンが創り上げた森で戦っているようだ。魔王は心配しなくても大丈夫だろう。逆にセドリックが心配になるくらいだ。

 なので、次は拓海とブラッドの戦いに目をやった。もちろん無線機のダイヤルも拓海に合わせて。

『さっきからその変な構えはなんだ』

『え、変かな? 昔からこれなんだけど』

『まぁ良い。お前が強いのは分かった。全力でいかせてもらう』

 ブラッドが剣に炎を纏わせた。勢いよく踏み込んで拓海に斬りかかる。拓海はそれを日本刀のような剣で受け止める。

『熱ッ!』

 受け止めた反動でブラッドの剣に纏っている炎の火の粉が拓海に降りかかった。

 さらには拓海とブラッドの周囲だけ蜃気楼が見える。

「熱そうだし、暑そう……」

「刃物は熱に弱いからね。あの子の剣もすぐ駄目になっちゃうんじゃない?」

「え? 剣って火を使いながら形変えたり強度増すんじゃないの?」

 テレビでそんなシーンをよく見かけるが、あれはデマだったのだろうか。不思議そうにサイラスを見ていると、コリンがぶっきらぼうに応えた。

「あれはちゃんとした手順で熱してるの。高温にして急激に冷却してを繰り返すと強度も増すけど、直に火にあててたらどんどん刃が駄目になっちゃうよ」

「へー、二人とも物知りなんだね」

「常識だよ。あんたが馬鹿なんじゃないの?」

「コリン。どうしてそんな口が悪くなっちゃったんだ……」

 サイラスは心配そうにコリンを見るが、私は嬉しそうに言った。

「良いんだよそのままで。コリンが何も我慢してない証拠だよ」

 惚れ薬の効果が切れたらいつものニコニコした優しいコリンに戻るだろう。今くらい何にも囚われずに思ったことを思ったまま発言して欲しい。

 さて、拓海は大丈夫だろうか。今の話だと剣が駄目になって拓海の武器はなくなってしまう。それにあんなのが拓海に当たれば火傷だけではすまないはずだ。

「でもさ、ブラッドの剣は大丈夫なの? モロ直火じゃん」

「あー、あれは元々炎魔法を付与出来るように作られた剣だから」

「ずるいなぁ」

 拓海を見ていると、その熱気のせいか拓海の動きが先程より鈍くなっているように感じる。

『この剣に斬られる前に降参したらどうだ?』

『誰がするか』

 シュッ! と拓海とブラッドのすぐ近くに小夜の矢が突き刺さった。その瞬間、四方八方へ大量の水が噴き出した。

 拓海とブラッドは互いに後退し、拓海は全身にその水を浴びた。

『あー、熱かった』

 あの矢の魔法は攻撃だけでなく、そんな水浴びのような使い方も出来るのかと感心した。

『またあいつか。いつもいつも邪魔しやがって。先にあっちをどうにかするか』

 ブラッドはそう呟くと拳銃を取り出した。あれは迷宮で取得したアイテム。ショコラに怪我を負わせる程の威力がある。

「あんなの小夜ちゃんに当たったら死んじゃうよ」

 私は思わず立ち上がってオロオロし始めた。

『そんなことさせねぇ。お前の相手は俺だろ?』

『止められるなら止めてみろよ』

 ブラッドは拓海を挑発しつつ、小夜に銃口を向けた。次の瞬間、拓海は剣を鞘に収めた。

「え、え、どうして収めちゃうの?」

「諦めたんじゃない?」

「拓海はそんな奴じゃないよ」

 私は冷や汗を流しながら拓海の動きにじっと目をやった。

『さっきの威勢はどうした? 仲間を見捨てたか?』

『……』

 剣を収めた状態で、拓海は鞘を左手で支えながら剣の柄の部分に右手を添えている。足は肩幅程度に広げ、重心を落とした。

「あの構えは……」

 ブラッドがカチャリとセイフティを押し下げた瞬間、拓海はブラッドめがけて走った。ブラッドの間合いに入ったと同時に、拓海は剣を引き抜いた。

 ドンッ!

 同時に拳銃の引き金が引かれたようだ。発砲音が轟いた。

 しかし、拓海の方が少し早かったようで、刀は一閃、銃口を押し上げていた。弾丸は小夜には当たらず空を貫いた。

「……拓海格好良い。居合切りなんて初めてみたよ」
 
「何が起こったの?」

「良くわかんないけど凄かったね」

 唖然としているサイラスとコリンに私は得意げに言った。

「あれね、私の幼馴染なんだよ。凄いよね! 格好良いよね!」

「うん」

「彼は凄いかもしれないけど、幼馴染ってだけで自慢げに話すのやめてくれない? 何様なの? なんか腹立つんだけど」

「こら、コリン!」

「はは、そうだよね」

 幼馴染自慢は、我が子を自慢するのと同じくらい第三者にとってはどうでも良い事だ。だが、ついつい嬉しくなって言いたくなるものなのだ。

 さて、話はそれてしまったが拓海とブラッドは再び一定の距離をあけて睨み合っている。

『やはりお前から倒すことにしよう』

『初めからそうしてれば良かったんだよ』

 そこへ、少し離れた所からブラッドに向かってシャーロットが叫んだ。

『正々堂々とか今時流行んないから。こっちは二人やられてんのよ。相手は魔法が使えないんだから、距離とって得意の炎で一気に打ちのめしなさい!』

 すると言われるがままブラッドが拓海から距離を取り、詠唱を始めた。

 あっという間に拓海は炎に包まれた。小夜が再び矢を二本三本と放ち、大量の水が放たれるが、炎が強すぎて消火しきれない。

 そして、これでもかと言うほどにフレイムボールが拓海めがけて打ち込まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今日も聖女は拳をふるう

こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。 その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。 そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。 女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。 これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます

水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか? 私は、逃げます! えっ?途中退場はなし? 無理です!私には務まりません! 悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。 一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

処理中です...