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第五章 決戦の時
誘拐
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あれから月日は経ち、受験まで残り一週間。つまりシャーロットとの決戦の日も残りわずかとなった。
「あー、気になって集中できない!」
「私たちのことは気にしなくて良いよ」
「はい。空気だと思って美羽は勉強に励んで下さいませ」
決戦に向けて小夜とレイラが私の部屋で衣装作りをしているのだ。
「ジャージで良いじゃん」
「ダメよ。せっかくの晴れ舞台なんだから。レイラちゃん刺繍めっちゃ上手いじゃん! 何これ、手縫いでしょ? 店で売ってるやつみたい!」
「小さい頃から女性は刺繍が必須でしたので。あ、もしやこれをネットで売り捌けば収入源に……」
「良いとは思うけど……レイラ、お嬢様らしからぬ言動になってきたよね」
小夜とレイラが近くで衣装作りをしているから私は勉強に集中できないわけじゃない。いや、それも少しは集中できない要因ではあるが、私はコリンにスパイをさせているのだ。
——先日私はコリンに誘拐宣言をされた。
『このまま攫って良い?』
私は何を言われたのか理解ができなかった。しかし、私の行動や言動でコリンを追い詰めていたのは分かった。謝罪をしようとしたその時、コリンはいつものニッコリ笑顔に戻って言った。
『なんてね。攫ったところでさっきのショコラちゃんだっけ? あの子がいるからすぐ見つかっちゃうもんね』
『うん……』
『だからさ、僕シャーロットの元へ行こうと思う』
『え、何言ってるの? 危ないよ!』
『ほら、僕がシャーロットの近くに行けばミウが心配してくれるでしょ? 優しいから、その間ミウは僕のこと忘れない』
『コリン……』
『それに、惚れ薬を使われる前にシャーロットに惚れたフリをすればシャーロットの言いなりにならなくて良いんでしょ? 諜報もできてサイラス達も救えるかもしれない。そしてミウが心配してくれる。一石三鳥だね』
後から魔王にも簡単に説明すれば『その方が逆に安全かもな』と同意が得られたため、コリンはシャーロットの元へ行った。
ちなみに、日本のことや魔王の正体は伏せてざっとコリンには説明済みだ。万が一にもスパイ行為をしているのがシャーロットにバレて惚れ薬を使って情報を聞き出されたら困るので、念のため。
——そして今、私はコリンの思惑通りコリンのことが気がかりになっている。
コリンはその家庭環境のせいで他人よりも人の顔色を窺ったり、空気を読むのに長けている。その分、笑顔の裏側は色んなことを考えて思い悩んでいることも多い。それが分かってからというもの、余計に心配になってしまう。
「心配するな」
「わ、魔王様」
突然魔王が現れた。毎度のことなのに、どうしてもこの現れ方に慣れない。
「さっきコリンから報告があったが、皆惚れ薬の効果が切れてきているらしい。美羽のことを口に出すことが増えたそうだ」
「そうなんだ。でもまた薬使われたら元に戻っちゃうね」
「シャーロットが手出し出来ないように、コリンが常にシャーロットのそばにいるそうだ。あわよくば惚れ薬を回収すると言っていた」
「そっか。ありがたいね」
コリンは要領が良いので上手くやっているようだ。しかし、気にはなる。故に集中力が欠ける。
「そっちは上手くいっても、受験失敗したらどうしよ……」
「チャンスは今回だけではありませんわ。それにわたくしが稼いで来ますので、学費は気になさらず私立にする手もありますわよ」
「レイラちゃん大黒柱なんて格好良いね! てか、あれだけ金持ち連中攻略してるんだから、いっそのこと嫁入りするって手もあるよね」
「小夜ちゃん……私があんなとこでやってけるわけないじゃん。ガチ貴族だよ。マナーからして無理だよ」
セドリックの母親に初対面で散々罵られたのだ。本気で嫁ぐとなればそれ相応の覚悟で臨まなければならない。はっきり言って私にその覚悟はない。
それより、レイラは働くことが楽しいようで、恋より仕事って感じだ。次々とアイデアを出してはお店の役に立てているらしい。
だが、レイラがこの日本で仕事をしていくということは、魔王は一人魔界に帰ってしまうのか。それはそれで寂しいなと思って魔王の顔を見ると目が合った。そしてすぐに逸らされた。
最近の魔王は何を考えているのか分からない。初めて会った当初はレイラにべったりくっついていたのに、最近は一定の距離を保っている。他人の気持ちを考慮することを覚えたのだろうか。
小夜が拓海用の衣装を手直ししているのを見てふと気がついた。
「そういえば、拓海と田中は? 今日来るって言ってなかった?」
「あの二人なら既にダンジョンだ」
「なんで? もうあそこにアイテムないんでしょ? アイテム強化もしたし、用ないじゃん」
私の疑問に小夜が呆れた顔をしながら言った。
「アイテム強化しても、使いこなせなかったら意味ないでしょ」
「実戦は人間相手なんだから、日本で素振りくらいで良くない? わざわざ魔物討伐しなくても」
「まぁね。でも、それだけじゃないのよ。ダンジョンで得た報酬で買いたい物があるんだって」
「へー。日本じゃ売ってないものもあるもんね」
「そういうことだ。俺は少し様子を見てくる」
そう言って魔王は消えた——。
それから数十分。再び魔王と拓海が現れた。
「早かったね。あれ、田中は?」
「田中がブラッドに連れて行かれた」
「は?」
「あー、気になって集中できない!」
「私たちのことは気にしなくて良いよ」
「はい。空気だと思って美羽は勉強に励んで下さいませ」
決戦に向けて小夜とレイラが私の部屋で衣装作りをしているのだ。
「ジャージで良いじゃん」
「ダメよ。せっかくの晴れ舞台なんだから。レイラちゃん刺繍めっちゃ上手いじゃん! 何これ、手縫いでしょ? 店で売ってるやつみたい!」
「小さい頃から女性は刺繍が必須でしたので。あ、もしやこれをネットで売り捌けば収入源に……」
「良いとは思うけど……レイラ、お嬢様らしからぬ言動になってきたよね」
小夜とレイラが近くで衣装作りをしているから私は勉強に集中できないわけじゃない。いや、それも少しは集中できない要因ではあるが、私はコリンにスパイをさせているのだ。
——先日私はコリンに誘拐宣言をされた。
『このまま攫って良い?』
私は何を言われたのか理解ができなかった。しかし、私の行動や言動でコリンを追い詰めていたのは分かった。謝罪をしようとしたその時、コリンはいつものニッコリ笑顔に戻って言った。
『なんてね。攫ったところでさっきのショコラちゃんだっけ? あの子がいるからすぐ見つかっちゃうもんね』
『うん……』
『だからさ、僕シャーロットの元へ行こうと思う』
『え、何言ってるの? 危ないよ!』
『ほら、僕がシャーロットの近くに行けばミウが心配してくれるでしょ? 優しいから、その間ミウは僕のこと忘れない』
『コリン……』
『それに、惚れ薬を使われる前にシャーロットに惚れたフリをすればシャーロットの言いなりにならなくて良いんでしょ? 諜報もできてサイラス達も救えるかもしれない。そしてミウが心配してくれる。一石三鳥だね』
後から魔王にも簡単に説明すれば『その方が逆に安全かもな』と同意が得られたため、コリンはシャーロットの元へ行った。
ちなみに、日本のことや魔王の正体は伏せてざっとコリンには説明済みだ。万が一にもスパイ行為をしているのがシャーロットにバレて惚れ薬を使って情報を聞き出されたら困るので、念のため。
——そして今、私はコリンの思惑通りコリンのことが気がかりになっている。
コリンはその家庭環境のせいで他人よりも人の顔色を窺ったり、空気を読むのに長けている。その分、笑顔の裏側は色んなことを考えて思い悩んでいることも多い。それが分かってからというもの、余計に心配になってしまう。
「心配するな」
「わ、魔王様」
突然魔王が現れた。毎度のことなのに、どうしてもこの現れ方に慣れない。
「さっきコリンから報告があったが、皆惚れ薬の効果が切れてきているらしい。美羽のことを口に出すことが増えたそうだ」
「そうなんだ。でもまた薬使われたら元に戻っちゃうね」
「シャーロットが手出し出来ないように、コリンが常にシャーロットのそばにいるそうだ。あわよくば惚れ薬を回収すると言っていた」
「そっか。ありがたいね」
コリンは要領が良いので上手くやっているようだ。しかし、気にはなる。故に集中力が欠ける。
「そっちは上手くいっても、受験失敗したらどうしよ……」
「チャンスは今回だけではありませんわ。それにわたくしが稼いで来ますので、学費は気になさらず私立にする手もありますわよ」
「レイラちゃん大黒柱なんて格好良いね! てか、あれだけ金持ち連中攻略してるんだから、いっそのこと嫁入りするって手もあるよね」
「小夜ちゃん……私があんなとこでやってけるわけないじゃん。ガチ貴族だよ。マナーからして無理だよ」
セドリックの母親に初対面で散々罵られたのだ。本気で嫁ぐとなればそれ相応の覚悟で臨まなければならない。はっきり言って私にその覚悟はない。
それより、レイラは働くことが楽しいようで、恋より仕事って感じだ。次々とアイデアを出してはお店の役に立てているらしい。
だが、レイラがこの日本で仕事をしていくということは、魔王は一人魔界に帰ってしまうのか。それはそれで寂しいなと思って魔王の顔を見ると目が合った。そしてすぐに逸らされた。
最近の魔王は何を考えているのか分からない。初めて会った当初はレイラにべったりくっついていたのに、最近は一定の距離を保っている。他人の気持ちを考慮することを覚えたのだろうか。
小夜が拓海用の衣装を手直ししているのを見てふと気がついた。
「そういえば、拓海と田中は? 今日来るって言ってなかった?」
「あの二人なら既にダンジョンだ」
「なんで? もうあそこにアイテムないんでしょ? アイテム強化もしたし、用ないじゃん」
私の疑問に小夜が呆れた顔をしながら言った。
「アイテム強化しても、使いこなせなかったら意味ないでしょ」
「実戦は人間相手なんだから、日本で素振りくらいで良くない? わざわざ魔物討伐しなくても」
「まぁね。でも、それだけじゃないのよ。ダンジョンで得た報酬で買いたい物があるんだって」
「へー。日本じゃ売ってないものもあるもんね」
「そういうことだ。俺は少し様子を見てくる」
そう言って魔王は消えた——。
それから数十分。再び魔王と拓海が現れた。
「早かったね。あれ、田中は?」
「田中がブラッドに連れて行かれた」
「は?」
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