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第四章 恋のドタバタ編
束の間の休息
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※美羽視点に戻ります※
体育祭が終わって一週間後の土曜日。私はデートに誘われ、夏に兄やレイラ達と花火をした河川敷にきている。
「ねぇ、私来月受験控えてるの知ってるよね? もう一ヶ月切ってるんだけど」
「だから遊園地とか水族館じゃなくてバーベキューにしたんだろ。な、田中」
「うん。偶には空の下で勉強も気持ち良いもんだぞ。それに、理系は得意だから何でも質問してくれ」
そう、デートの相手は拓海と田中の二人だ。三人なのでデートとは言い難いが、拓海と田中曰くデートらしい。
体育祭でクラスを優勝に導いた方とデートをすることに勝手になっていたのだが、実は他のクラスが優勝してしまったのだ。
想定外の出来事に拓海と田中は二人して落胆の色を隠せないでいた。私は二人が可哀想に思えて言ったのだ。
『今度三人で出かけようよ』
あくまでも今度の話だ。今日明日の話ではない。受験が済んでひと段落したらのつもりで言ったのだが、拓海と田中は口々に話し始めた。
『田中は邪魔だけど、美羽と出かけられるなら良いか』
『邪魔なのはお前だよ。じゃあ、次の土曜日はどうだ?』
『俺は何も予定はない。美羽は?』
『予定はないけど勉強が……』
『じゃあ来週の土曜で決まりな』
あれよあれよと言う間にデートの日程が決まってしまったのだ。二人きりではないので緊張することもないが、勉強時間もなくなる。
ただ、そこは考慮してくれたようで、私は青空の下で勉強をしながら拓海と田中が肉を焼くらしい。
拓海が焼けた肉を持ってきてくれた。
「ありが……」
「はい美羽、あーん」
「えっと……自分で食べれ……」
「ほら、デートなんだから。あーん」
拓海の嬉しそうな顔を見ると断りづらい。
「はむッ」
「美味しい?」
お肉を頬張っているので、頷いて美味しさを表現した。するとそれを見ていた田中は呆れたように拓海に言った。
「美羽が困ってるだろ。拓海は初デートで毎回あーん、してるのか?」
「デートはこれが初めてだ」
「え、マジで?」
「それに、デートの予習はしてきた。見ろ、ここに書いてあるだろ」
拓海はスマートフォンを田中に見せたので、私も覗き込んでみた。
「これは……」
私が田中を欺くため、魔王と恋人ごっこをする時に参考にしたサイトだ。
「お前、こんなの付き合ってもない女の子との初デートでしたら百フラれるぞ」
「マジか。美羽、今のはなしだ。今すぐ吐き出せ」
「もう食べちゃったよ」
頭の上に『ガーン……』と文字が浮かび上がってくるのではと思わせる程に拓海は落ち込んでいる。私はそれが何だか可笑しくてふっと笑った。
「ふふ、拓海は真面目だね。それより田中は彼女沢山いたんだね。モテモテだもんね」
「いや……」
田中が言葉に詰まっていると拓海が復活したようだ。
「美羽、こんな汚れた男はやめとけ」
「な、男なんだからしょうがないだろ。今は美羽一筋だ。今後は美羽にしか捧げない」
「田中、その汚らわしい体を美羽に近づけるな」
拓海と田中の下ネタ混じりの喧嘩に巻き込まれたくなくて、私は網の上にある肉をひたすらにひっくり返した。
◇◇◇◇
机の上にある紙のお皿を袋に入れながら私はにっこり笑って言った。
「バーベキューも偶には良いね。楽しかったよ」
「途中から殆ど美羽に焼かせてごめんな」
「ごめん……」
「良いよ。でも片付けは二人に任せたよ」
私はリクライニングチェアの上で横になりながらぼーっと空を眺めた。
「至極平和だ……」
まるで異世界に行ったり来たりしていたなんて思わせない程に平和だ。このゆったりとした時間が長く続けば良いのにと思ったのは束の間、悪い知らせが飛び込んだ。
『美羽、美羽、聞こえる?』
「ショコラ?」
『コリンが落ちた』
私は思わず体を起こして前のめりになった。
「え、どういうこと? 落ちたって何?」
『コリンが猫を守る為に離島を出入りしてるのは知ってるでしょ? そこでシャーロットに迫られて崖から落ちたんだ。助けようとしたけど間に合わなくって……』
まさか、小夜がアイテムを取りに行った離島のあの崖のことだろうか。落ちたらひとたまりもなさそうな断崖絶壁。
私がショコラと話をしていることに気付いた拓海と田中が近くにやってきた。私は目で緊急事態であることを二人に伝えながらショコラに聞いた。
「で、今コリンは?」
『息はあるんだ。でも血塗れで……声をかけても返事がない』
「魔王様探してすぐ行くから待ってて!」
急いで家に帰ろうと立ち上がると、魔王が現れた。
「ショコラから聞いたか?」
「うん! すぐ連れてって!」
「拓海と田中はいつでも出られる様に美羽の家で待機していてくれ」
それだけ言うと、私と魔王はコリンの元へ、拓海と田中は私の家へと転移した。もちろん荷物も一緒に。
体育祭が終わって一週間後の土曜日。私はデートに誘われ、夏に兄やレイラ達と花火をした河川敷にきている。
「ねぇ、私来月受験控えてるの知ってるよね? もう一ヶ月切ってるんだけど」
「だから遊園地とか水族館じゃなくてバーベキューにしたんだろ。な、田中」
「うん。偶には空の下で勉強も気持ち良いもんだぞ。それに、理系は得意だから何でも質問してくれ」
そう、デートの相手は拓海と田中の二人だ。三人なのでデートとは言い難いが、拓海と田中曰くデートらしい。
体育祭でクラスを優勝に導いた方とデートをすることに勝手になっていたのだが、実は他のクラスが優勝してしまったのだ。
想定外の出来事に拓海と田中は二人して落胆の色を隠せないでいた。私は二人が可哀想に思えて言ったのだ。
『今度三人で出かけようよ』
あくまでも今度の話だ。今日明日の話ではない。受験が済んでひと段落したらのつもりで言ったのだが、拓海と田中は口々に話し始めた。
『田中は邪魔だけど、美羽と出かけられるなら良いか』
『邪魔なのはお前だよ。じゃあ、次の土曜日はどうだ?』
『俺は何も予定はない。美羽は?』
『予定はないけど勉強が……』
『じゃあ来週の土曜で決まりな』
あれよあれよと言う間にデートの日程が決まってしまったのだ。二人きりではないので緊張することもないが、勉強時間もなくなる。
ただ、そこは考慮してくれたようで、私は青空の下で勉強をしながら拓海と田中が肉を焼くらしい。
拓海が焼けた肉を持ってきてくれた。
「ありが……」
「はい美羽、あーん」
「えっと……自分で食べれ……」
「ほら、デートなんだから。あーん」
拓海の嬉しそうな顔を見ると断りづらい。
「はむッ」
「美味しい?」
お肉を頬張っているので、頷いて美味しさを表現した。するとそれを見ていた田中は呆れたように拓海に言った。
「美羽が困ってるだろ。拓海は初デートで毎回あーん、してるのか?」
「デートはこれが初めてだ」
「え、マジで?」
「それに、デートの予習はしてきた。見ろ、ここに書いてあるだろ」
拓海はスマートフォンを田中に見せたので、私も覗き込んでみた。
「これは……」
私が田中を欺くため、魔王と恋人ごっこをする時に参考にしたサイトだ。
「お前、こんなの付き合ってもない女の子との初デートでしたら百フラれるぞ」
「マジか。美羽、今のはなしだ。今すぐ吐き出せ」
「もう食べちゃったよ」
頭の上に『ガーン……』と文字が浮かび上がってくるのではと思わせる程に拓海は落ち込んでいる。私はそれが何だか可笑しくてふっと笑った。
「ふふ、拓海は真面目だね。それより田中は彼女沢山いたんだね。モテモテだもんね」
「いや……」
田中が言葉に詰まっていると拓海が復活したようだ。
「美羽、こんな汚れた男はやめとけ」
「な、男なんだからしょうがないだろ。今は美羽一筋だ。今後は美羽にしか捧げない」
「田中、その汚らわしい体を美羽に近づけるな」
拓海と田中の下ネタ混じりの喧嘩に巻き込まれたくなくて、私は網の上にある肉をひたすらにひっくり返した。
◇◇◇◇
机の上にある紙のお皿を袋に入れながら私はにっこり笑って言った。
「バーベキューも偶には良いね。楽しかったよ」
「途中から殆ど美羽に焼かせてごめんな」
「ごめん……」
「良いよ。でも片付けは二人に任せたよ」
私はリクライニングチェアの上で横になりながらぼーっと空を眺めた。
「至極平和だ……」
まるで異世界に行ったり来たりしていたなんて思わせない程に平和だ。このゆったりとした時間が長く続けば良いのにと思ったのは束の間、悪い知らせが飛び込んだ。
『美羽、美羽、聞こえる?』
「ショコラ?」
『コリンが落ちた』
私は思わず体を起こして前のめりになった。
「え、どういうこと? 落ちたって何?」
『コリンが猫を守る為に離島を出入りしてるのは知ってるでしょ? そこでシャーロットに迫られて崖から落ちたんだ。助けようとしたけど間に合わなくって……』
まさか、小夜がアイテムを取りに行った離島のあの崖のことだろうか。落ちたらひとたまりもなさそうな断崖絶壁。
私がショコラと話をしていることに気付いた拓海と田中が近くにやってきた。私は目で緊急事態であることを二人に伝えながらショコラに聞いた。
「で、今コリンは?」
『息はあるんだ。でも血塗れで……声をかけても返事がない』
「魔王様探してすぐ行くから待ってて!」
急いで家に帰ろうと立ち上がると、魔王が現れた。
「ショコラから聞いたか?」
「うん! すぐ連れてって!」
「拓海と田中はいつでも出られる様に美羽の家で待機していてくれ」
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