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第四章 恋のドタバタ編
魔王のペット
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それから二日後。
「やっとだよ、やっと土曜日! 一週間が長すぎるよ!」
「はは、美羽毎日頑張ってたもんね」
兄と少し遅めの朝食。幸せだ。
色々あったが、セドリックの家に連れて行かれてからまだ一週間しか経っていないのだ。異世界に行くと必ず何かが起こるので一日一日が長く感じる。
来週の土曜日は体育祭なので、出来ることなら今日明日は勉強に専念したい。
プルル、プルル。
のんびり朝食をとっていると、電話の着信音が流れた。
「電話なんて滅多にかからないのに……知らない番号だ」
「知らない番号は出ない方が良いよ」
「そうだね」
私は兄に言われた通り、スマートフォンを机の上に置いて着信音が鳴り止むのを待った。
着信音が鳴り止んだので、私は兄に話しかけようと口を開くと、再び着信音が鳴り始めた。
プルル、プルル。
「まただね」
「美羽、貸して。お兄ちゃんが出てあげるよ」
兄にスマートフォンを手渡すと、兄は不機嫌な口調で電話に出た。
「もしもし? 誰?」
電話の相手が何か話したようで、兄の顔はみるみる穏やかなものに変わっていった。
「うんうん。僕の番号も登録しといてね。じゃあね」
「お兄ちゃん、誰だったの?」
兄は私のスマートフォンを操作しながら応えた。
「レイラちゃん。バイト代で早速スマホ買ったんだって。はい、番号登録しといたよ」
「そうなんだ。ありがとう」
私の部屋からレイラがニコニコしながらスマートフォンを持って出てきた。
「美羽、驚きましたか? これでいつでも連絡が取り合えますわね」
「うん、いつの間に買ってたの? 全然気付かなかったよ」
「昨日のバイト帰りに悠馬様と携帯ショップへ行ってきたのですわ。美羽を驚かせようと思いまして」
「仲良いんだね」
余談だが、小夜は悠馬をレイラを守る為の戦闘要員に加えようとしていた。異世界へ行こうと私の家に悠馬を連れてきたのだが、魔王が異世界から戻ってきて言ったのだ。
『残念ながら、課金アイテムとダンジョンにあるアイテムはシャーロットに取られてしまったようだ』
『そっか。じゃあ、悠馬君は戦えないね』
『え、何の話? 戦うって?』
混乱している悠馬に小夜は溜め息を吐きながら言った。
『悠馬はもう帰りな。あんた必要ないって』
『なッ! 俺……僕はレイラさんを守るんだ。何にだって立ち向かうよ!』
兄弟喧嘩が始まりそうなのを見て、魔王が悠馬の頭をクシャクシャと撫でながら言った。
『じゃあ、お前はレイラの送迎を頼む。バイト先に一人で行かすのは心配だったのだ』
『はい! 任されました』
という具合に、悠馬は戦闘要員ではなくレイラの送迎役に任命された——。
ちなみに、魔王は悠馬のことを恋敵とは微塵も思っていないようで、悠馬の行動を温かい目で見守っている。悠馬自身も魔王のことをレイラの兄だと勘違いしており、互いに上手くやっている。
「そういえば魔王様は? 魔界?」
「ここだ」
「うわ、いたの?」
先程までいなかったはずなのに、魔王が兄の横で鮭の骨を箸で器用に取っていた。
「美羽、申し訳ないが魔界に来てくれんか?」
「え……今度は魔界?」
乙女ゲームの人間界の次は魔界とは……。私が受験に失敗したら魔王のせいだ。心の中で文句を言いつつ理由を聞いてみた。
「何しにいくの? 私勉強しないとヤバいんだけど」
「すまん。俺のペットがな、怪我をしたんだ。魔界には治癒魔法を使える者がいなくてな、美羽のアイテムの力で治してやって欲しい」
「なんだ。そんなことなら早く言ってよ」
私だって怪我をした人を放っておく程落ちぶれてはいない。
「来てくれるのか!? お詫びに誰にも邪魔されない最適空間を用意してやるから。勉強道具も持ってくると良い」
「いや、すぐに家に……」
やることが済んだら家に連れて帰ってくれたらそれで良い。と言いたいが、魔王の嬉しそうな顔を見ると言えなくなった。
「うん。最適空間楽しみにしてるね」
◇◇◇◇
そして、私は早速魔界へやってきた。
「魔王様? 魔界は今は夕方なの?」
「いや、ここの時間は日本と変わらない」
「てことは、真昼間?」
太陽は上がっているのかもしれないが、上空は雲に覆われて薄暗い。コウモリまで飛んでいて、正直居心地が悪い。私は魔王のシャツの裾をギュッと掴んだ。
「美羽?」
「私ね、いつも一人になっちゃうんだ。今日は離れないから」
ここは魔界。魔物や様々な魔族が住んでいるはず。皆が魔王みたいに優しい人とは限らない。こんなところで一人にさせられたらそれこそ生きて帰れる自信がない。
不安な私を安心させるように魔王は私の頭をポンポンと撫でながら言った。
「安心しろ。ここら一帯に結界を張ってあるから。危険な魔物は入れないようになっている」
「そうなんだ。で、でも今日は絶対離れないから!」
魔王の目をしっかりと見つめて言えば、魔王に目を逸らされた。
「魔王様?」
「早く行くぞ。勉強の時間が減るだろ」
魔王は私の手を振り解くことはせず、ゆっくりと私の歩幅に合わせて歩いてくれた——。
そして、私と魔王はとても大きな洞窟の前に辿り着いた。
「この中にいる」
「ペットって古竜だよね」
本やゲームでしか見たことがないが、とても強い竜なのは知っている。想像すると魔王の服の裾を掴む手の力が自然と強くなった。
「人に危害は加えないから大丈夫だ」
「うん」
私と魔王は洞窟に足を踏み入れた。
少し進むと、灯りが見えた。灯りに照らされた場所に目を向けると、そこにいたのは……。
「子ども?」
想像していた大きな竜ではなく、人間のような子どもだった。
「やっとだよ、やっと土曜日! 一週間が長すぎるよ!」
「はは、美羽毎日頑張ってたもんね」
兄と少し遅めの朝食。幸せだ。
色々あったが、セドリックの家に連れて行かれてからまだ一週間しか経っていないのだ。異世界に行くと必ず何かが起こるので一日一日が長く感じる。
来週の土曜日は体育祭なので、出来ることなら今日明日は勉強に専念したい。
プルル、プルル。
のんびり朝食をとっていると、電話の着信音が流れた。
「電話なんて滅多にかからないのに……知らない番号だ」
「知らない番号は出ない方が良いよ」
「そうだね」
私は兄に言われた通り、スマートフォンを机の上に置いて着信音が鳴り止むのを待った。
着信音が鳴り止んだので、私は兄に話しかけようと口を開くと、再び着信音が鳴り始めた。
プルル、プルル。
「まただね」
「美羽、貸して。お兄ちゃんが出てあげるよ」
兄にスマートフォンを手渡すと、兄は不機嫌な口調で電話に出た。
「もしもし? 誰?」
電話の相手が何か話したようで、兄の顔はみるみる穏やかなものに変わっていった。
「うんうん。僕の番号も登録しといてね。じゃあね」
「お兄ちゃん、誰だったの?」
兄は私のスマートフォンを操作しながら応えた。
「レイラちゃん。バイト代で早速スマホ買ったんだって。はい、番号登録しといたよ」
「そうなんだ。ありがとう」
私の部屋からレイラがニコニコしながらスマートフォンを持って出てきた。
「美羽、驚きましたか? これでいつでも連絡が取り合えますわね」
「うん、いつの間に買ってたの? 全然気付かなかったよ」
「昨日のバイト帰りに悠馬様と携帯ショップへ行ってきたのですわ。美羽を驚かせようと思いまして」
「仲良いんだね」
余談だが、小夜は悠馬をレイラを守る為の戦闘要員に加えようとしていた。異世界へ行こうと私の家に悠馬を連れてきたのだが、魔王が異世界から戻ってきて言ったのだ。
『残念ながら、課金アイテムとダンジョンにあるアイテムはシャーロットに取られてしまったようだ』
『そっか。じゃあ、悠馬君は戦えないね』
『え、何の話? 戦うって?』
混乱している悠馬に小夜は溜め息を吐きながら言った。
『悠馬はもう帰りな。あんた必要ないって』
『なッ! 俺……僕はレイラさんを守るんだ。何にだって立ち向かうよ!』
兄弟喧嘩が始まりそうなのを見て、魔王が悠馬の頭をクシャクシャと撫でながら言った。
『じゃあ、お前はレイラの送迎を頼む。バイト先に一人で行かすのは心配だったのだ』
『はい! 任されました』
という具合に、悠馬は戦闘要員ではなくレイラの送迎役に任命された——。
ちなみに、魔王は悠馬のことを恋敵とは微塵も思っていないようで、悠馬の行動を温かい目で見守っている。悠馬自身も魔王のことをレイラの兄だと勘違いしており、互いに上手くやっている。
「そういえば魔王様は? 魔界?」
「ここだ」
「うわ、いたの?」
先程までいなかったはずなのに、魔王が兄の横で鮭の骨を箸で器用に取っていた。
「美羽、申し訳ないが魔界に来てくれんか?」
「え……今度は魔界?」
乙女ゲームの人間界の次は魔界とは……。私が受験に失敗したら魔王のせいだ。心の中で文句を言いつつ理由を聞いてみた。
「何しにいくの? 私勉強しないとヤバいんだけど」
「すまん。俺のペットがな、怪我をしたんだ。魔界には治癒魔法を使える者がいなくてな、美羽のアイテムの力で治してやって欲しい」
「なんだ。そんなことなら早く言ってよ」
私だって怪我をした人を放っておく程落ちぶれてはいない。
「来てくれるのか!? お詫びに誰にも邪魔されない最適空間を用意してやるから。勉強道具も持ってくると良い」
「いや、すぐに家に……」
やることが済んだら家に連れて帰ってくれたらそれで良い。と言いたいが、魔王の嬉しそうな顔を見ると言えなくなった。
「うん。最適空間楽しみにしてるね」
◇◇◇◇
そして、私は早速魔界へやってきた。
「魔王様? 魔界は今は夕方なの?」
「いや、ここの時間は日本と変わらない」
「てことは、真昼間?」
太陽は上がっているのかもしれないが、上空は雲に覆われて薄暗い。コウモリまで飛んでいて、正直居心地が悪い。私は魔王のシャツの裾をギュッと掴んだ。
「美羽?」
「私ね、いつも一人になっちゃうんだ。今日は離れないから」
ここは魔界。魔物や様々な魔族が住んでいるはず。皆が魔王みたいに優しい人とは限らない。こんなところで一人にさせられたらそれこそ生きて帰れる自信がない。
不安な私を安心させるように魔王は私の頭をポンポンと撫でながら言った。
「安心しろ。ここら一帯に結界を張ってあるから。危険な魔物は入れないようになっている」
「そうなんだ。で、でも今日は絶対離れないから!」
魔王の目をしっかりと見つめて言えば、魔王に目を逸らされた。
「魔王様?」
「早く行くぞ。勉強の時間が減るだろ」
魔王は私の手を振り解くことはせず、ゆっくりと私の歩幅に合わせて歩いてくれた——。
そして、私と魔王はとても大きな洞窟の前に辿り着いた。
「この中にいる」
「ペットって古竜だよね」
本やゲームでしか見たことがないが、とても強い竜なのは知っている。想像すると魔王の服の裾を掴む手の力が自然と強くなった。
「人に危害は加えないから大丈夫だ」
「うん」
私と魔王は洞窟に足を踏み入れた。
少し進むと、灯りが見えた。灯りに照らされた場所に目を向けると、そこにいたのは……。
「子ども?」
想像していた大きな竜ではなく、人間のような子どもだった。
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