乙女ゲームの悪役令嬢と魔王が居候!?〜偽ヒロインは後でゆっくり制裁を下します〜

七彩 陽

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第四章 恋のドタバタ編

スマホ救出

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 翌朝、私は学校をサボった。小夜や田中、拓海も然り。

 眠たかったのもあるが、私はスマートフォンを異世界に忘れてきたのだ。それを取りにいかなければならない。

「もう、美羽ったらおっちょこちょいなんだから」

「そこが可愛いんだけどな」

「拓海、ありがとう」

「拓海君に甘えないの。それにしても美羽が土下座なんてびっくりしたよ。おかげですぐに居場所が分かったけどさ。ね、魔王様」

 そう、私がサイラスに土下座をして命乞いをしていると小夜と魔王と拓海が駆けつけてくれたのだ——。

『美羽、何やってんの!?』

『小夜ちゃん、私拷問だよ。死刑だよ』

 私が半泣き状態でそう言えば、拓海は私とサイラスの間に立ちはだかってサイラスに言った。

『美羽、俺がそんなことさせないから。あなたが王子様ですか? 美羽が何をしたのか知りませんが、まだ十七歳なんです。許してやって下さい』 

『えっと、僕は別に……コリンどうしよ……』

『サイラスが悪いよ』

 収拾が付かないと判断した魔王は溜め息を吐きながら私の目線までしゃがみ込んで言った。

『悪目立ちしすぎだ。これ以上騒ぎを大きくできん。田中も失敗したし帰るぞ』

『私は死ぬのかな』

『大丈夫だ。俺が守ってやるから』

 魔王は私の頭を優しく撫でながら、私と小夜と拓海を連れて我が家へ転移した——。

 ちなみにレイラはサイラスに見つかったかもしれないと分かった段階で、その場にちょうど居合わせた田中と共に一足先に帰っていた。

 そして、転移したのは良いのだが、私は土下座した時にパーティー用のクラッチバッグを床に置いたことを思い出した。すぐさま魔王に取りに行ってもらったのだが、時既に遅し。サイラスによって厳重に管理されていた。

『あの女は調べても身元が分からんらしいではないか。これは私が預かっておく。不可思議な機械も入っているしな。本人が直々に取りに来るならば返すと伝えてくれ』

 サイラスは高圧的な態度で魔王を追い返した。魔王は平和主義なので、そこで無理矢理奪うようなことはしなかった。一旦持ち帰って私に意見を聞いた。

 スマートフォン自体は諦めても良いのだが、現代日本の技術や情報を置いてきても良いのか不安に思った私は、自ら取りに行くと決めたのだ。

 そして小夜と拓海と田中はといえば、課金アイテムの購入にいくらしい。実は私がコリンと共にパーティー会場に戻った後、アレックスとセドリックがシャーロットによって惚れ薬をかけられてしまったのだ。

 私を求めての修羅場はしばらく回避できそうなのだが、シャーロットは残りコリンを攻略したら逆ハーレムが完成してしまうのだ。

 故に拓海がAランクになるのを待つよりも課金アイテムを購入してから更なるレベルアップに努める方向にしたのだとか——。

「危険だと判断したら魔王様がすぐ転移してくれるから大丈夫よ」

「そうだね。拓海もアイテム残ってると良いね!」

「おう、気をつけてな」

◇◇◇◇

 そして私は今、魔王と共にサイラスの前に座っている。サイラスは何とも言えない厳格な雰囲気を醸し出している。

「あの……先日はどうもすみま……」

「ごめんね。昨日は意地悪しちゃって。はい、これ」

「え、良いんですか?」

 私が謝罪する前にサイラスに謝罪され、あっさりとスマートフォンは回収できた。回収した瞬間に我が家に戻る予定だったのだが、魔王も拍子抜けしたようですぐには転移をしなかった。

「君が取りに来たら返すってちゃんと言ったでしょ」

「はい、それは聞きましたけど……拷問は?」

「は? する訳ないでしょ」

 てっきりスマートフォンを人質に、私の身元やスマートフォンの出所を根掘り葉掘り聞かれて、言わなければ拷問されるのかと思っていた。

「美羽、なんだか昨日と雰囲気が違うんだが」

 魔王が耳打ちしてきたので、私も小声で返す。

「うん……私が初めて話した時はこんな感じだったよ。昨日は王太子仕様だったのかな」

 厳かな雰囲気も格好良いのだが、この柔らかい雰囲気はもっと良い。

「では、私はこれで……早朝から失礼致しました」

 私は失態を犯す前に退散しようと立ち上がったのだが、サイラスに制止された。

「待って。手荷物は返すって言ったけどさ、昨日僕を欺こうとしたのは許せないな」

「え……」

 再び拷問の二文字が脳裏に浮かび上がった。魔王も警戒し、私を守るように肩を抱き寄せた。

「転移しようとしても無駄だよ。この部屋は特別だから」

 私が魔王を不安気に見つめると、魔王は困った顔を向けてきた。本当に転移できないようだ。

「何が目的だ?」

 魔王は転移できなくても魔王なのだ。その威圧的な態度でサイラスを睨みつけた。しかし、サイラスはそれを気にした風もなく私に言った。

「罰としてね、僕に君の時間を一日ちょうだい」

「それは……一日かけて拷問……」

 私は魔王の服をぎゅっと握りしめると、魔王もまた私の肩に置いてある手にぎゅっと力を込めた。
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