50 / 86
第四章 恋のドタバタ編
約束
しおりを挟む
「坊ちゃん、こんな感じでどうでしょう?」
「うん。凄く良い」
「は、恥ずかしいからあんまり見ないで」
「どうしてだ? 可愛いのに」
私は結局アレックスの屋敷でドレスアップされている。アレックスに上から下まで観察されているかの如く見られ、恥ずかしさでいっぱいだ。
ドタキャンしようと思っていたのだが、攻略対象について拓海と田中に話すと——。
拓海は真面目なので、告白されているにも関わらず放置するのは好きではないらしい。
『皆集まるなら好都合じゃん。美羽、全員フッてこいよ』
田中は田中でアレックスを敵対視しているようだ。
『あいつ俺とキャラ被ってんだよ。俺のこと美羽の彼氏だと思ってんだろ? 初めは泳がせといてさ、俺が後から美羽を攫うってどう? 悔しくてそれ以上追いかけてこないだろ』
『田中も相手にされてないんだけどね。それは置いといてさ、シャーロットも来るなら好都合じゃない?』
小夜は何か良い案を思いついたようだ。皆が小夜の方を向いて話を聞いた。
『シャーロットは、きっと惚れ薬持ち歩いてるはずだよ。惚れ薬は今のが最後の一つなんだって。どさくさに紛れて奪っちゃえば誰もシャーロットに付き従わなくなるよ。戦わずして勝利だよ!』
『それは良い案だ。では、どうやって奪うかだな——』
そして話し合いの結果、シャーロットにハニートラップをしかけることになった。かろうじてここにいる男性陣は顔が良い。そして、シャーロットは男好きだ……多分。それにつけ込むらしい。
なので、当初の予定通り、私はアレックスのパートナーとして。レイラはメイドとして。兄を除いたその他メンバーも招待客に紛れて参加することになった——。
「こんな高そうなドレス、お金払えないんだけど……もっとペラッペラのないの?」
「お前は僕に恥を欠かす気か」
いくら好感度がMAXだとしても、アレックスは、みすぼらしい女を横に連れて歩きたくはないようだ。
「はぁ……後で売ったらどうにかなるかなぁ。この間の青いのも記念に取ってたんだけど手放すしかないか。はぁ……ドレス汚さないようにしなきゃ」
「お前は何の話をしているんだ。とにかく行くぞ」
私はアレックスの腕にそっと手を添えて一歩踏み出した。そして、盛大に転んだ。
「大丈夫か!? おい! あれ、お前名は何と言うんだ? そんなことはどうでも良いか。どこか体調が悪いのではないか?」
ドレスの裾を踏んで転んだだけなのだが、アレックスの慌てようを見ていると申し訳ない気持ちになるのは何故だろうか。
「ドレスなんて着たことないから」
「着たことがない?」
セドリックにもらったのはパーティー用ではなく、この世界の人で言う普段着用ドレスだったから種類が違う。パーティー用がこんなに重たくて中に何枚もスカートを履いているなんて思ってもいなかった。
「私は貴族でも何でもないのよ。礼儀作法も知らないし恥をかくだけよ……」
私がやや凹んでいると、アレックスは嬉しそうに言った。
「そうかそうか。それなら僕がしっかりエスコートしなければな。ところでお前の名は?」
「美羽だけど。どうしてそんな嬉しそうなの? 馬鹿にしてるの?」
「まさか。僕はサイラスの側近だからな、少し席を外さなければならないと思っていたんだが、これでは何処へも行けない。今宵はずっと一緒だミウ」
「ひゃっ!」
サイラスは軽々と私を抱き上げた。いつものようにお姫様抱っこだ。ドレスを着ている為、本物のヒロインになった気分になる。
「自分で歩けるよ」
「歩けないだろ? 会場まではこれで行こう」
至近距離でニコッと微笑まれて顔が真っ赤になった。それを見られるのが恥ずかしくてアレックスの首元に顔を埋めるようにして抱きついた。
◇◇◇◇
「あのさ」
「ん?」
「馬車の中くらいおろしてよ」
アレックスは馬車の中でも私を抱っこしている。推しに抱っこされるなんて、そうそうないので嬉しい限りなのだが……何故だろうか、外で抱っこされるよりも狭い空間で座って抱っこされている方が冷静になれる気がする。
故に自分の鼓動がさっきよりも速くなったのも分かるし、この何とも言えない雰囲気に堪えられない。
「会場までは抱っこするって言っただろ。僕は約束は最後まで守る主義だ」
「約束はしてないけどね」
私がそう返せば、アレックスは悲しそうな顔を見せた。何だか私が悪いような気がして謝った。
「ごめんね。アレックス様は私が転ばないように抱っこしてくれてるだけなのに」
「いや、良いんだ……」
アレックスが優しく微笑みながら私の頬を撫でた。
「僕がただミウとくっ付きたいだけだから」
謝って損した。男とはやはり下心しかない生き物なのかもしれない。アレックスの場合、顔が良いから許せるが。
このパーティーが終われば、拓海の言うようにきっぱりと別れを告げる予定なので、それまでは私もアレックスを堪能しよう。
それからはアレックスがニコニコ私を見て、私はそれをじっと見つめ返す。そんな時間が続いて、王城へと到着した。
「残念だが、行くか」
「待って、流石にここは人が多いよ。おろしてくれない?」
「僕から離れないと約束できたらな」
「うん、約束する。約束するからおろして」
こうして私はアレックスの腕から解放された。そしてこの時の私は、この約束の期限が設けられていないことには気付いていない——。
「うん。凄く良い」
「は、恥ずかしいからあんまり見ないで」
「どうしてだ? 可愛いのに」
私は結局アレックスの屋敷でドレスアップされている。アレックスに上から下まで観察されているかの如く見られ、恥ずかしさでいっぱいだ。
ドタキャンしようと思っていたのだが、攻略対象について拓海と田中に話すと——。
拓海は真面目なので、告白されているにも関わらず放置するのは好きではないらしい。
『皆集まるなら好都合じゃん。美羽、全員フッてこいよ』
田中は田中でアレックスを敵対視しているようだ。
『あいつ俺とキャラ被ってんだよ。俺のこと美羽の彼氏だと思ってんだろ? 初めは泳がせといてさ、俺が後から美羽を攫うってどう? 悔しくてそれ以上追いかけてこないだろ』
『田中も相手にされてないんだけどね。それは置いといてさ、シャーロットも来るなら好都合じゃない?』
小夜は何か良い案を思いついたようだ。皆が小夜の方を向いて話を聞いた。
『シャーロットは、きっと惚れ薬持ち歩いてるはずだよ。惚れ薬は今のが最後の一つなんだって。どさくさに紛れて奪っちゃえば誰もシャーロットに付き従わなくなるよ。戦わずして勝利だよ!』
『それは良い案だ。では、どうやって奪うかだな——』
そして話し合いの結果、シャーロットにハニートラップをしかけることになった。かろうじてここにいる男性陣は顔が良い。そして、シャーロットは男好きだ……多分。それにつけ込むらしい。
なので、当初の予定通り、私はアレックスのパートナーとして。レイラはメイドとして。兄を除いたその他メンバーも招待客に紛れて参加することになった——。
「こんな高そうなドレス、お金払えないんだけど……もっとペラッペラのないの?」
「お前は僕に恥を欠かす気か」
いくら好感度がMAXだとしても、アレックスは、みすぼらしい女を横に連れて歩きたくはないようだ。
「はぁ……後で売ったらどうにかなるかなぁ。この間の青いのも記念に取ってたんだけど手放すしかないか。はぁ……ドレス汚さないようにしなきゃ」
「お前は何の話をしているんだ。とにかく行くぞ」
私はアレックスの腕にそっと手を添えて一歩踏み出した。そして、盛大に転んだ。
「大丈夫か!? おい! あれ、お前名は何と言うんだ? そんなことはどうでも良いか。どこか体調が悪いのではないか?」
ドレスの裾を踏んで転んだだけなのだが、アレックスの慌てようを見ていると申し訳ない気持ちになるのは何故だろうか。
「ドレスなんて着たことないから」
「着たことがない?」
セドリックにもらったのはパーティー用ではなく、この世界の人で言う普段着用ドレスだったから種類が違う。パーティー用がこんなに重たくて中に何枚もスカートを履いているなんて思ってもいなかった。
「私は貴族でも何でもないのよ。礼儀作法も知らないし恥をかくだけよ……」
私がやや凹んでいると、アレックスは嬉しそうに言った。
「そうかそうか。それなら僕がしっかりエスコートしなければな。ところでお前の名は?」
「美羽だけど。どうしてそんな嬉しそうなの? 馬鹿にしてるの?」
「まさか。僕はサイラスの側近だからな、少し席を外さなければならないと思っていたんだが、これでは何処へも行けない。今宵はずっと一緒だミウ」
「ひゃっ!」
サイラスは軽々と私を抱き上げた。いつものようにお姫様抱っこだ。ドレスを着ている為、本物のヒロインになった気分になる。
「自分で歩けるよ」
「歩けないだろ? 会場まではこれで行こう」
至近距離でニコッと微笑まれて顔が真っ赤になった。それを見られるのが恥ずかしくてアレックスの首元に顔を埋めるようにして抱きついた。
◇◇◇◇
「あのさ」
「ん?」
「馬車の中くらいおろしてよ」
アレックスは馬車の中でも私を抱っこしている。推しに抱っこされるなんて、そうそうないので嬉しい限りなのだが……何故だろうか、外で抱っこされるよりも狭い空間で座って抱っこされている方が冷静になれる気がする。
故に自分の鼓動がさっきよりも速くなったのも分かるし、この何とも言えない雰囲気に堪えられない。
「会場までは抱っこするって言っただろ。僕は約束は最後まで守る主義だ」
「約束はしてないけどね」
私がそう返せば、アレックスは悲しそうな顔を見せた。何だか私が悪いような気がして謝った。
「ごめんね。アレックス様は私が転ばないように抱っこしてくれてるだけなのに」
「いや、良いんだ……」
アレックスが優しく微笑みながら私の頬を撫でた。
「僕がただミウとくっ付きたいだけだから」
謝って損した。男とはやはり下心しかない生き物なのかもしれない。アレックスの場合、顔が良いから許せるが。
このパーティーが終われば、拓海の言うようにきっぱりと別れを告げる予定なので、それまでは私もアレックスを堪能しよう。
それからはアレックスがニコニコ私を見て、私はそれをじっと見つめ返す。そんな時間が続いて、王城へと到着した。
「残念だが、行くか」
「待って、流石にここは人が多いよ。おろしてくれない?」
「僕から離れないと約束できたらな」
「うん、約束する。約束するからおろして」
こうして私はアレックスの腕から解放された。そしてこの時の私は、この約束の期限が設けられていないことには気付いていない——。
11
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

召喚された魔女は異世界を謳歌する
柴 (柴犬から変更しました)
ファンタジー
「おおっ、成功だっ!聖女様の召喚に成功したぞ!」「残念だねー。あたし、聖女じゃない。魔女だよ?」
国が危機に瀕しているときに行われる召喚の儀で現れたのは異世界の魔女だった。
「呼ぶことは出来ても帰すことは出来ません」と言われた魔女ハニー・ビーは異世界を謳歌する
小説家になろう様にも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる