乙女ゲームの悪役令嬢と魔王が居候!?〜偽ヒロインは後でゆっくり制裁を下します〜

七彩 陽

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第三章 アイテム争奪戦

王城③

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 私はサイラスに連れられて目的の部屋に入った。

「ここは?」

「将来、僕の妃になる女性の部屋」

「私がそのような部屋に入っても宜しいのですか?」

「メイドなんだから良いんじゃない?」

 そうか。メイドなら定期的に掃除に入るか。一人納得していると、鏡台の前に立った。サイラスが引き出しから可愛らしい桜の花びらのような薄ピンクの髪飾りを取り出して言った。

「これ、君に似合いそうでしょ?」

「でも、これは将来のお妃様のでは?」

 サイラスは眉を下げながら私の問いに応えた。

「その予定だったんだけど……もう良いんだ。ここにあるより、もらってくれた方が有り難い」

「殿下……」

 何か事情がありそうだ。けれど、メイド風情が王太子の心の深いところに触れるのはまずい。それこそ不敬罪で死ぬ。

「分かりました。謹んで頂戴致します」

 そう言うと、サイラスは柔らかい笑みを見せて花の髪飾りを私の頭に付けてくれた。

「さ、サイラス殿下自らありがとうございます」

「どう致しまして。じゃあ戻ろっか」

「はい」

 欲していたアイテムが部屋の何処にあるのかは分からなかった。分かったところで、流石に今の状況で手に入れられるはずもない。また後で来れば良いと思い、サイラスの後をそっと歩いた——。

「僕はもう少し休むよ。仕事に戻って良いよ」

「ありがとうございます。早く体調が戻ることを切に願っていますね」

 その瞬間、私の頭の上の方がキランと一瞬光った気がした。

「あれ? さっきまであんなに体が重たかったのに楽になったよ。君の願いが届いたのかな」

「そ、そんな滅相もないです。では、私はこれで失礼致します——え、うわっ!」

 部屋から出る為、ドアノブに手をかけようとした瞬間、突然扉が開いて前のめりに転けそうになってしまった。

「え、あ、も、申し訳ございません」

 私が転けなかったのもアレックスがそこに立っていたからだ。アレックスの胸にダイブしていた。

「お前」

 アレックスの冷ややかな声がする。絶対に怒っている。

「す、すみません。すぐにどきますので」

「待て」

「へ?」

 アレックスにステイを食らった私は、逆らうことも出来ずにアレックスの胸の中にいる。そして、アレックスは私の耳元で囁いた。

「こんなところで何をしている?」

「え、あ、サイラス殿下のお世話を」

 私はドキドキしながらも困惑していると、サイラスが口を開いた。

「アレックス、その子にお世話されたら体が楽になったよ」

「そうか、それなら良かった。サイラス、このメイドを少し借りるぞ」

「優しくしてあげてよ。良い子なんだから」

「もちろんだ」

 サイラスとアレックスの会話が終わると、私はアレックスに連れられて、一つの部屋に通された。その部屋は絵画が飾られているだけの何もない部屋だった。

「あの……先程は申し訳ありませんでした」

 ぶつかった事の謝罪をすれば、アレックスに壁ドンされた。

 これが美羽の状態で出会った壁ドンであるならばトキメキもあったかもしれない。アレックスの好感度はMAXなのだから。しかし、今はただの失態をおかしたメイドだ。恐怖しかない。

「それは何に対しての謝罪だ?」

「あの、ぶつかったので……」

 正直にそう言えば、アレックスの壁ドンされていない反対の手が上がった。殴られる、と思って固く目を瞑った。

 しかし、アレックスの手は私の頬に優しくそっと当てられた。

「悪い子にはお仕置きが必要かな」

「へ……?」

 これはアレックス攻略中に、その他の攻略対象の好感度を上げた時に嫉妬して言われるセリフ。つまりは、バレている? 私が美羽だって。そして、もしかしなくともサイラスの好感度が上がってしまったのではないだろうか。

「あの……私が誰だか……?」

「昨日の今日だ。お前の匂いを忘れるはずないだろう」

 ぶつかったのが原因か。そして、再び匂いを嗅がれていたのかと思うと恥ずかしい。

「お前はサイラスに会いに来たのか? 僕ではなく?」

「あ、いえ、そういうわけでは……」

 サイラスの隣の部屋に用事があったとは言えない。既にアイテムをシャーロットが回収済みかもしれないが、もしかしたらまだ場所の特定はできていないかもしれない。わざわざ敵に伝える必要はない。

「では、あの部屋でサイラスと二人きり、何をしていたんだ?」

「えっと、お世話を……」

「何故お前が世話をする。サイラスが好きなのか? これは……」

 アレックスが何かに気が付いたようだ。目線が私の目からやや上に変わった。

「サイラスにもらったのか?」

「髪飾りのこと? はい」

「そうか。では、僕とのお揃いはもう処分したということか……」

 お揃いとはブレスレットのことだろうか。それなら……。

「それならここに。推しとのお揃いは肌身離さず持ち歩くのが鉄則だよ」

「——ッ!?」

 アレックスの険しい顔がみるみる笑顔になっていった。蕩けるような笑顔、生で見られるとは、尊い……尊すぎる。

「何をしてるんだ?」

 ついつい拝んでしまっていた。

「いえ、嬉しさのあまり……」

「僕もだ。本日のパーティー、僕にエスコートさせてくれ」

「いや、それは……」

「あの男と行くのか?」

 あの男? リクにそっくりな田中のことか。

「私、参加はしないの。帰らないといけなくて」

「では、僕のエスコートは受けられないと、そういうことで良いんだな?」

「まあ、そういうことになるのかな」

 アレックスが悪戯に笑った。

「では、ここでメイドのフリをしてサイラスに近付いたことを報告しないとな」

「なッ、脅す気?」

「人聞きが悪いな。僕は僕にわざわざ会いたくてメイドのフリまでした女性を責めるつもりはない。だが、何の目的でメイドのフリをしてここにいるか分からない以上、反逆罪の疑いで拷問も致し方ないだろう」

 拷問……鞭で叩かれたり、水に何度も頭をつけられたり、爪を剥がされたり、そして最後は首を斬られて……考えただけでゾッとする。目眩がしてきた。

「お、おい大丈夫か?」

 ふらついた私をアレックスが優しく抱き寄せてくれた。そして、泣きながらアレックスに縋り付くように懇願した。

「拷問は嫌。拷問だけは嫌。拷問しないで。なんでもするから。なんでもいうこと聞くから拷問だけは嫌。お願い」

 アレックスは私の涙を拭いながら眉を下げて言った。

「ごめん、揶揄いすぎた。ただ僕を見て欲しいんだ。僕に溺れて欲しい。駄目か?」

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