乙女ゲームの悪役令嬢と魔王が居候!?〜偽ヒロインは後でゆっくり制裁を下します〜

七彩 陽

文字の大きさ
上 下
44 / 86
第三章 アイテム争奪戦

迷宮②

しおりを挟む
 隣には推しのアレックスが歩いている。

 実物は背が高くて、斜め下から見える顔がシュッとして格好良すぎる。小夜に早く話したい気持ちでいっぱいになっていると、ふと疑問が脳裏をよぎった。

 シャーロットは確か古代遺跡に行くと言っていた。なので安心していたのだがアレックスがここにいるということは予定変更してシャーロットもこの迷宮に? 知ってもどうすることもできないが、私は一応聞いてみた。

「ここにはサイラス殿下もご一緒に?」

「いや、サイラスは別のところだ。僕は赤髪の男とはぐれたんだ」

 赤髪とはブラッドのことか。分担してシャーロットとサイラスが古代遺跡に行ったのかもしれない。これは今日来て正解だった。アレックスにも会えたし。

 チラチラとアレックスを見ていると、アレックスが立ち止まった。

「行き止まりだ」

「え? でもここしか道は……」

「完全に閉じ込められたな」

「うそ……私たちここで死ぬの?」

 迷宮で推しのアレックスと二人きり、仲良く死んでいく……良いかもしれない。

「いやいやいや、良くない良くない」

「急にどうしたんだ。切羽詰まっておかしくなったか?」

「あ、はい。ごめんなさい」

 何に対してか分からない謝罪をしていると、再び地響きがし始めた。アレックスとも離れ離れになってしまうのかと思ったその時、思い切り腕を引っ張られて抱きしめられた。

「あ、あのアレックス様?」

「悪い。だが、先程もこの地響きの後にブラッドとはぐれるハメになったんだ」

「そ、そうなんですね」

 平常を装ってみるが胸の高鳴りがアレックスにも届きそうだ。既に届いているかもしれない。上を見上げてみると、揺れに耐えているアレックスの真剣な顔があった。その顔がこちらを向いた。

「安心しろ。離さないから」

 キャー、一生離さないで! 

 と内心大喜びしていると揺れが収まってしまった。揺れが収まれば離れなければならない。残念な気持ちでいっぱいになって、最後にクンクンとアレックスの匂いを嗅いでおいた。

 アレックスは私の不審な行動に気付いてしまったようだ。

「お前は一体、何をしている?」

「あ、いや、良い匂いだなと……ごめんなさい」

 絶対に引かれた。こんな女ドン引かれるに決まっている。自分の行動に羞恥を覚えていると、アレックスの顔が私の首筋に置かれた。

「え、な、何? どうしたの?」

 アレックスの行動に私が困惑していると、耳元で囁かれた。

「僕は何事も平等が好きなんだ」

 耳元で囁かれたものだから、顔が耳まで真っ赤になって胸の鼓動が更に早くなったのを感じた。アレックスはその後すぐに私から離れてから、言った。

「お前も良い匂いがしたぞ。花みたいな」

「え、嗅いだんですか?」

「平等が好きと言っただろう。お前がしたなら僕もしないと」

 先程の首筋に顔を置かれたのは私の匂いを嗅ぐためだったのかと分かれば、更に羞恥心でいっぱいになった。

「顔が真っ赤になって可愛いな」

 え、今可愛いって言った?

 その言葉で我に返った。アレックスがこの言葉を言うのは好感度が上がった時だ。すぐさまステータスを開くと、好感度五十二になっている。

 まずい。非常にまずい。推しに可愛いと言われること、好かれることは非常に好ましいのだが、ここは異世界。好感度を上げてセドリックのようになったら困る。この世界から抜け出せなくなってしまう。

 ふと、レイラの言葉を思い出した。
 
『今後は同じことが起こらないよう、好きでもない相手には優しくしないことですわ』

 好感度五十二ならまだ引き返せる。優しくせずに好感度を下げていこう。そう心に決めた。

「良い匂いなんて嘘です。早く行きましょう。こっちに新しい道がありますよ」

「怒ってるのか?」

「怒ってません。元々こんなんです」

 やや怒った風にそう言って歩き出せば、アレックスがやや斜め後ろを付いてきた。

 お互い無言で歩いていると、魔王と小夜のことが気になってきた。魔王自体は転移で何処へでもいけるから良いが、小夜と魔王が離れ離れになっていたらと思うと小夜が心配になってきた。

「大丈夫か?」

「何がですか?」

「いや、足取りがさっきより重いから」

 考え事をしていたら歩くのが遅くなっていたようだ。

「そんなことないです。それよりアレックス様は何しにこの迷宮へ?」

「ああ、何でも特殊なアイテムがあるらしくてな。お前は?」

「私もです。見つけても渡しませんから」

「そうか。アイテムを見つけたところで迷宮から出られんことには意味ないがな」

 そこなのだ。魔物がいないだけマシだが迷宮が動いて振り出し……より悪い状況になる。どうしたものか。でもどうしてこの迷宮は動くのだろうか。

「まるで生きているみたいよね」

「何がだ?」

 心の声が漏れてしまった。恥ずかしい。

「いえ、迷宮が生きているみたいに動くなと」

 正直に言うんじゃなかった。アレックスが黙ってしまった。

「ごめん、気にしな……」

「試してみるか。少し揺れるかもしれん、僕に捕まってろ」

「え、こう? ひゃっ!」

 恐る恐るアレックスの腕を掴もうと近づくと腰を引き寄せられた。アレックスは捕まってろと言ったのに、私が捕まえられてしまった。

 アレックスは持っていた剣を思い切り地面に突き立てた。

 ゴゴゴゴォォォォ……。

 揺れどころではなく、地面は波のようにクネクネ動き、何枚も何枚も壁が迫り上がってきたり、反対に消えたりと迷宮が大混乱を起こしているかのような光景が目の前にあった。その途中、宝箱のような物を見つけた。

「アレックス様、見て! あそこ」

「しっかり捕まってろよ」

 アレックスは私を横抱きにしてから、軽い身のこなしでクネクネの地面を走り出した。迫り上がる壁も難なく飛び越えながら宝箱の前に到着した。

「大丈夫か?」

「う、うん」

 ジェットコースター並みに怖かった。ついついアレックスの首に思い切り抱きついてしまっていた。これがドレスやせめて制服だったなら漫画のワンシーンのようで素敵だが、私はジャージだ。絵面が悪すぎる。

 アレックスがゆっくりと私を下ろして、二人で宝箱の前に立った。

「開けていいぞ」

「でも、開けたら私の物になるんじゃ?」

「絶対に渡さないんだろ?」

「そうだけど……」

 ここまで来られたのはアレックスのおかげだ。敵に塩を送る形になるが、これはアレックスの物だと思う。渋っていると、アレックスが提案してきた。

「じゃあ、同時に開けるか。どっちの物になるかはアイテムに決めてもらおう」

「良いの? あ、違った……望むところよ! きっとアイテムは私を選ぶはずよ」

 やや高飛車な女を演じ、アレックスと共に宝箱に手をかけた。

「「せーの!」」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢が可愛すぎる!!

佐倉穂波
ファンタジー
 ある日、自分が恋愛小説のヒロインに転生していることに気がついたアイラ。  学園に入学すると、悪役令嬢であるはずのプリシラが、小説とは全く違う性格をしており、「もしかして、同姓同名の子が居るのでは?」と思ったアイラだったが…….。 三話完結。 ヒロインが悪役令嬢を「可愛い!」と萌えているだけの物語。 2023.10.15 プリシラ視点投稿。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...