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第三章 アイテム争奪戦
美羽の失踪
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一方、時は少し遡って美羽の兄と小夜は——。
「ヤバいよ! お兄さん、美羽がどこにもいない」
「こっちもダメだ。小夜ちゃん、とりあえず魔王を呼ぼう」
二人は魔王を呼んだ後、事情を説明すると、ダンジョンにいた拓海と田中もすぐさま合流した。
「やはり俺も付いて行くべきだった」
「俺達が弱いばっかりに……」
「ここで後悔しててもしょうがないよ。早く美羽を探さないと!」
小夜の言葉で皆が顔を上げた。そして、魔王は真剣な顔で言った。
「皆、元の世界に戻っていてくれ。ここは俺が探す」
「でも……」
「この人数の安全を確保しながら動くのは難しい」
「だけど、あてはあるのか? 大事な妹だ。家でじっとはしていられない」
美羽の兄が沈痛な面持ちで言えば、魔王も悩みながら応えた。
「レイラがいてくれればすぐ見つかるんだがな……」
「どうしてレイラちゃんが?」
「レイラは土魔法の使い手の中でも特別なんだ。植物と対話ができる。だが、こちらの世界に連れて来てシャーロットに見つかりでもしたら……」
「魔王様、それなら大丈夫かもしれません。シャーロットは今ダンジョンでアイテムを取りに行っているはず」
「なんだって!? 小夜、それは真か?」
小夜の言葉に魔王だけでなく、拓海と田中も驚きの表情を見せた。美羽の兄は暫し考えながら提案した。
「僕はダンジョンに行ってシャーロットちゃん探すよ。で、足止めしとくからその間にレイラちゃんと魔王は美羽を探して欲しい」
「それならレイラを連れて来られるか。よし……」
魔王が美羽の兄だけ置いて美羽の家に転移しようとすると、拓海が前に出てきた。その瞳には強い意思が込められていた。
「お兄さん、それ俺達も行かせて下さい! 足手纏いになるかもしれないですけど、美羽の為に何かしたいんです! な、田中?」
「おう。それにアイテムがあっちに渡ったらヤバいんですよね? 先に俺らで階層のボス倒しましょ」
「お前たち……死ぬかもしれないんだぞ。俺はそこまでしてアイテムはいらん。あいつらにくれてやれ」
魔王は拓海と田中の意思を尊重したいが、命には代えられない。そこまでしてこの戦いに巻き込みたくはない。そんな気持ちで言ったのだが、田中は困った顔で返した。
「拓海は知りませんけど、俺、この間十八歳になったんです。成人なんですよ。自分のことは自分で責任持ちますから」
「右に同じです。あ、左にいるから左に同じか?」
「拓海、お前本当はバカなのか? そういう時は右で良いんだよ」
田中が拓海に突っ込むと、張り詰めていた空気が若干和らいだ。
「しょうがないなぁ、そんなんじゃ私だけ帰れないじゃん。魔王様と離れ離れになるのは寂しいけど私もお兄さんと一緒にシャーロットを引き止めるよ」
「小夜まで……」
「お前は帰れよ。戦力にならないだろ」
田中が呆れたような顔で小夜を見るので、小夜は悪戯に笑いながら田中に早口で言った。
「ふふ、ガチ恋勢の実力を分かっていないようね。私は『胸キュンラバー』の中で最推しは王太子なのよ。シャーロットは確実に王太子を連れて来ている。魔王様に出会うまでは王太子にガチ恋してるガチ恋勢。ホンモノに出会えば私のマシンガントークが炸裂するわ。故に、魔物は倒せなくてもあんた達より十分戦力になると言えるわ」
「何言ってるか全然わかんねぇ……」
「小夜ちゃんが喋ってる間は皆、時が止まるってことだよ」
こうして、結局みんなこの異世界に残ることにした。
◇◇◇◇
「と、言うわけなのだ。すまんがレイラ、美羽の危機だ。一緒に来てくれ」
「もちろんですわ。アルバイトの内定が決まったことも早く美羽にお伝えしたいですし、一刻も早く見つけ出しましょう」
魔王は事の経緯をレイラに説明し、レイラを連れて乙女ゲームの世界に転移した——。
「久しぶりですわね。懐かしいですわ」
「戻りたいか?」
「いえ、わたくしは美羽のいる世界の方が自由で好きですわ」
「そうか……」
魔王はレイラに対して思うところがあるようだが、口にはしなかった。
「それより、美羽がいなくなったのはここなんだ。レイラ頼む」
「分かりましたわ」
レイラが目を瞑って耳を澄ませていると、周囲の木々や花々がキラキラと輝きだした。とても神秘的な光景だ。魔王には草木が揺れているようにしか見えないが、レイラ曰く、この草木は普通にお喋りをしているらしい。
「では、その男性に美羽は連れて行かれたのですね。ありがとうございます」
草木との会話が終わったようなので、魔王はすぐさまレイラを質問攻めにした。
「どうだった? やはり誘拐か? どっちに行ったか分かるか?」
「魔王様、心配なのは分かりますが落ち着いて下さいませ」
「すまん」
「誘拐かは分かりかねますが、どうやら美羽とは面識のある男性に連れていかれたようですわ」
「美羽と面識のある男性などこの世界にいるのか……?」
魔王は顎に手を当てながら過去の記憶を辿って行った。そしてある人物に辿り着いた。
「いた……二人程。一人は攻略対象の一人コリンだ。もう一人は、名前は知らんが青い髪の男。あやつはどこかで見たような……」
「魔王様、その男は美羽と馬車に乗り込んでこちらの方角に進んだようですので向かってみましょう」
——それからレイラが要所要所で草木の声を聞きながら先に進むと、魔王とレイラは一つの屋敷の前に辿り着いた。
「ここは……」
「レイラ、知っているのか?」
「ええ、ブレイン公爵の屋敷ですわ」
「ドレスを購入してから、この屋敷に来たとはどういうことだ。公爵ともあろう者が誘拐などせんだろう?」
「とりあえず正面から入ってみましょう。美羽の身内のフリをすれば怪しまれませんわ」
魔王とレイラは屋敷の門を叩いた。
「ヤバいよ! お兄さん、美羽がどこにもいない」
「こっちもダメだ。小夜ちゃん、とりあえず魔王を呼ぼう」
二人は魔王を呼んだ後、事情を説明すると、ダンジョンにいた拓海と田中もすぐさま合流した。
「やはり俺も付いて行くべきだった」
「俺達が弱いばっかりに……」
「ここで後悔しててもしょうがないよ。早く美羽を探さないと!」
小夜の言葉で皆が顔を上げた。そして、魔王は真剣な顔で言った。
「皆、元の世界に戻っていてくれ。ここは俺が探す」
「でも……」
「この人数の安全を確保しながら動くのは難しい」
「だけど、あてはあるのか? 大事な妹だ。家でじっとはしていられない」
美羽の兄が沈痛な面持ちで言えば、魔王も悩みながら応えた。
「レイラがいてくれればすぐ見つかるんだがな……」
「どうしてレイラちゃんが?」
「レイラは土魔法の使い手の中でも特別なんだ。植物と対話ができる。だが、こちらの世界に連れて来てシャーロットに見つかりでもしたら……」
「魔王様、それなら大丈夫かもしれません。シャーロットは今ダンジョンでアイテムを取りに行っているはず」
「なんだって!? 小夜、それは真か?」
小夜の言葉に魔王だけでなく、拓海と田中も驚きの表情を見せた。美羽の兄は暫し考えながら提案した。
「僕はダンジョンに行ってシャーロットちゃん探すよ。で、足止めしとくからその間にレイラちゃんと魔王は美羽を探して欲しい」
「それならレイラを連れて来られるか。よし……」
魔王が美羽の兄だけ置いて美羽の家に転移しようとすると、拓海が前に出てきた。その瞳には強い意思が込められていた。
「お兄さん、それ俺達も行かせて下さい! 足手纏いになるかもしれないですけど、美羽の為に何かしたいんです! な、田中?」
「おう。それにアイテムがあっちに渡ったらヤバいんですよね? 先に俺らで階層のボス倒しましょ」
「お前たち……死ぬかもしれないんだぞ。俺はそこまでしてアイテムはいらん。あいつらにくれてやれ」
魔王は拓海と田中の意思を尊重したいが、命には代えられない。そこまでしてこの戦いに巻き込みたくはない。そんな気持ちで言ったのだが、田中は困った顔で返した。
「拓海は知りませんけど、俺、この間十八歳になったんです。成人なんですよ。自分のことは自分で責任持ちますから」
「右に同じです。あ、左にいるから左に同じか?」
「拓海、お前本当はバカなのか? そういう時は右で良いんだよ」
田中が拓海に突っ込むと、張り詰めていた空気が若干和らいだ。
「しょうがないなぁ、そんなんじゃ私だけ帰れないじゃん。魔王様と離れ離れになるのは寂しいけど私もお兄さんと一緒にシャーロットを引き止めるよ」
「小夜まで……」
「お前は帰れよ。戦力にならないだろ」
田中が呆れたような顔で小夜を見るので、小夜は悪戯に笑いながら田中に早口で言った。
「ふふ、ガチ恋勢の実力を分かっていないようね。私は『胸キュンラバー』の中で最推しは王太子なのよ。シャーロットは確実に王太子を連れて来ている。魔王様に出会うまでは王太子にガチ恋してるガチ恋勢。ホンモノに出会えば私のマシンガントークが炸裂するわ。故に、魔物は倒せなくてもあんた達より十分戦力になると言えるわ」
「何言ってるか全然わかんねぇ……」
「小夜ちゃんが喋ってる間は皆、時が止まるってことだよ」
こうして、結局みんなこの異世界に残ることにした。
◇◇◇◇
「と、言うわけなのだ。すまんがレイラ、美羽の危機だ。一緒に来てくれ」
「もちろんですわ。アルバイトの内定が決まったことも早く美羽にお伝えしたいですし、一刻も早く見つけ出しましょう」
魔王は事の経緯をレイラに説明し、レイラを連れて乙女ゲームの世界に転移した——。
「久しぶりですわね。懐かしいですわ」
「戻りたいか?」
「いえ、わたくしは美羽のいる世界の方が自由で好きですわ」
「そうか……」
魔王はレイラに対して思うところがあるようだが、口にはしなかった。
「それより、美羽がいなくなったのはここなんだ。レイラ頼む」
「分かりましたわ」
レイラが目を瞑って耳を澄ませていると、周囲の木々や花々がキラキラと輝きだした。とても神秘的な光景だ。魔王には草木が揺れているようにしか見えないが、レイラ曰く、この草木は普通にお喋りをしているらしい。
「では、その男性に美羽は連れて行かれたのですね。ありがとうございます」
草木との会話が終わったようなので、魔王はすぐさまレイラを質問攻めにした。
「どうだった? やはり誘拐か? どっちに行ったか分かるか?」
「魔王様、心配なのは分かりますが落ち着いて下さいませ」
「すまん」
「誘拐かは分かりかねますが、どうやら美羽とは面識のある男性に連れていかれたようですわ」
「美羽と面識のある男性などこの世界にいるのか……?」
魔王は顎に手を当てながら過去の記憶を辿って行った。そしてある人物に辿り着いた。
「いた……二人程。一人は攻略対象の一人コリンだ。もう一人は、名前は知らんが青い髪の男。あやつはどこかで見たような……」
「魔王様、その男は美羽と馬車に乗り込んでこちらの方角に進んだようですので向かってみましょう」
——それからレイラが要所要所で草木の声を聞きながら先に進むと、魔王とレイラは一つの屋敷の前に辿り着いた。
「ここは……」
「レイラ、知っているのか?」
「ええ、ブレイン公爵の屋敷ですわ」
「ドレスを購入してから、この屋敷に来たとはどういうことだ。公爵ともあろう者が誘拐などせんだろう?」
「とりあえず正面から入ってみましょう。美羽の身内のフリをすれば怪しまれませんわ」
魔王とレイラは屋敷の門を叩いた。
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