乙女ゲームの悪役令嬢と魔王が居候!?〜偽ヒロインは後でゆっくり制裁を下します〜

七彩 陽

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第二章 日常、そして非日常

仲間①

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 腹痛で寝込んだ翌日は土曜日だった。つまり休日。

「美羽、体調は宜しいのですか?」

「うん。午前中はヤバかったけど、今は治まってる」

「原因が分からないのでしょう? 三人ともどうしてしまわれたのでしょうね」

 レイラの食事のせいで体調不良とは口が裂けても言えない。それに兄と魔王は私より先に体調が戻っている。これ以上の追及は不要だ。

「体調も戻ったことだし、魔王様、アイテム探しに行く?」

「勉強の方は大丈夫か?」

「うん。平日の夜に行く方がしんどいことが分かったから、休みのうちに行っときたい」

 私がそう言うと、兄が鞄を背負いながら困った顔で言った。

「僕も付いて行きたいんだけど、ちょっと大学に行かなきゃいけなくなって。その後はバイトだし……」

「良いよ。魔王様と行ってくるから。お兄ちゃん気をつけてね」

 兄を見送って私とレイラと魔王は一旦座ってお茶を飲んだ。

「次はどこ行くの?」

「ダンジョンと離島どっちが良い?」

「どっちが安全?」

 私の問いに魔王が悩んでいる。私は断然ダンジョンが危険だと思っていたが、そこまで悩むと言うことは離島もそれなりに危険が多いのだろう。

「危険なのはダンジョンなのだが、離島のアイテムは島の真下にあるんだ」

「どういうこと? 埋まってるの?」

「いや、崖の下の方の海に深く潜ってな、島の中心部の方に泳いで行った先に鍾乳洞があるんだ。そこにあるらしい」

「それは……私には無理かなぁ」

 泳ぎは苦手だ。潜水など出来た試しがない。なんならそのまま溺れてしまいそうだ。

「魔王様は泳ぎ得意なの?」

「泳ぐことは容易いが、鍾乳洞がな……」

「どうしたの?」

 言いにくそうにしている魔王の代わりにレイラが説明した。

「鍾乳洞のような場所は自然が作り出した神秘的な空間なのですわ。言い換えるならば聖なる場所。魔王様は魔族ですからね、そういった聖なるものに触れたら浄化させられかねないのですわ」

「なるほど……てことは、このアイテムは諦めるしかないってわけだね」

「だが、一つでもあちらの手に渡れば不利になるかもしれん」

「だけど、お兄ちゃんも泳ぎは人並み程度だよ。ひとまずダンジョンに……」

 ピンポーン。

 インターフォンのチャイムが鳴った。

「誰だろう。ちょっと見てくるね」

 私は立ち上がって玄関に向かった。扉を開けるとそこにいたのは……。

「小夜ちゃん。どうしたの?」

「いや、昨日は悪いことしたなって思って。体調も気になったし」

 私が誰に虐められそうになったのか田中に話した事の謝罪だろう。気にしなくて良いのに。でも嬉しかった。体調不良の時に家まで心配して来てくれる友人がいることに喜びを感じた。

「小夜ちゃん、ありがとう! 大好き!」

 感極まって小夜に抱きつくと、小夜もギュッと抱きしめ返してくれた。

「友達って良いね!」

「友達じゃないよ」

 小夜の言葉に私は固まった。しかし、小夜はニコッと笑って言った。

「親友でしょ」

「ビックリさせないでよ。小夜ちゃんに嫌われたら私生きてけないんだから」

「美羽は大袈裟だなぁ。これプリン。みんなで食べて」

「ありがとう」

 小夜は箱の入った袋を私に手渡し、家の中をチラッと覗いた。

「ついでに魔王様拝ませて」

「小夜ちゃん……」

 私の心配よりも、それが本命だったのではないかと疑ってしまう。いけない癖だ。

「せっかくだから上がっていったら?」

「マジで!? やったー! お邪魔しまーす」

 小夜の鞄に一眼レフカメラが入っているのがチラリと見えたが、気にしてはダメだ。小夜はきっと普段から持ち歩いている。うん、きっとそうだ。

◇◇◇◇

「生魔王様だ。生魔王様だよ。顔が良すぎてマジ神だよ。生きてて良かった。美羽と親友で良かった。私魔王様の為なら何でもするよ。貢ぎまくるよ」

「小夜ちゃん、流石の魔王様もちょっと引いてるよ」

 小夜は家に上がるなり魔王を拝んでいる。

「良いじゃん。美羽は毎日この顔見てるんでしょ? 私だって見たいよ」

 小夜の行動を温かい目で見ていたレイラが、閃いたと言った具合に私に言った。

「そうですわ! せっかくですので小夜様にバッドエンドの道筋をお聞きしませんこと?」

「まぁ、せっかくだしね」

「バッドエンドって何の? まさか私と魔王様を引き離そうだなんて考えてるんじゃ……」

 小夜が疑いの目で私とレイラを見ている。そんな小夜に私は言った。

「違うよ。『胸キュンラバーⅡ』のバッドエンドが中々見られないって話。特に逆ハールートが難しいんだって」 

「なんだ。いくつか方法があるけど、その一つは好感度をみんな一緒に揃えるんだよ。各々がヒロインは自分のものだみたいな感じになって、チームワークが崩れていくから」

「へー、やっぱ小夜ちゃん凄いね」

「後はアイテムかなぁ。持つアイテムも相性があるから、合わないやつを持たせると弱いんだよ」

「なるほど」

「バッドではないけど、実はあのアイテム、裏ワザがあって更に強化することも出来るの。それが手に入れば————」

 小夜はそれから楽しそうに乙女ゲームについて語った。とても今後の参考になり、私とレイラと魔王は真剣に聞いた。そして、私はふと疑問を口にした。

「そのアイテムってさ、何個あるの?」

「ヒロインと攻略対象一人一つだから、一応六個だよ」

「一応ってどういうこと?」

「課金アイテムが三つあるんだよ。課金するだけあって結構強いよ」

 てことは、合わせて九個アイテムがあると言うことか。私と兄、レイラに魔王の四人がアイテムを持って戦ったとして……敵に五個もアイテムが渡ることになる。

 私と兄に至っては元々魔法が使えない。圧倒的に不利だ。

「まずいな」

「困りましたわね」

 魔王とレイラも同じことを考えていたようだ。

「どうしたの? みんな揃って怖い顔してるよ」

 小夜がキョトンとしていると、魔王が小夜に言った。

「俺のためなら何でもすると言ったな?」

「キャー! 生魔王様が私に話しかけてる? もちろん結婚だって何だってやります!」

「え……魔王様、良いの?」

「レイラの為だ、致し方ない。美羽の親友でもあるしな。美羽の親友なら信頼できる」

「うん。信頼はできるね」

 魔王は真剣な表情で小夜に言った。

「小夜、俺たちの仲間になってくれ」

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