乙女ゲームの悪役令嬢と魔王が居候!?〜偽ヒロインは後でゆっくり制裁を下します〜

七彩 陽

文字の大きさ
上 下
25 / 86
第二章 日常、そして非日常

体調不良②

しおりを挟む
「はぁー、スッキリした」

 結局午前中は保健室で寝た。ぐっすりと。やはり人間睡眠不足は良くない。勉強での睡眠不足ならまだしも、活発に走り回ったのだ。寝ずに二日目を過ごした気分だった。

 異世界に行くにしても時間を考えていかないと体がもたない。受験も失敗しそうな気さえする。

 保健室の先生がカーテンをチラリと開けて聞いてきた。

「斉藤さん元気になった? あなたが来るなんて珍しいわよね」

「もう大丈夫です。ご迷惑をお掛けしました」

 私は制服の皺を簡単に伸ばして、保健室の先生にお辞儀をして教室に戻った——。

 私が教室に戻ると、丁度昼休憩だったので皆がお弁当を持ち寄ってそれぞれグループに分かれて食べていた。

「美羽、顔色戻ったね」

「うん。寝たら治った。小夜ちゃんありがとう」

「ううん。それより、美羽ごめん」

 小夜が手を合わせて謝ってきた。

「どうしたの?」

「田中に話しちゃった。田中のファンが美羽にしたこと」

「そっか」

「ごめんね、なんかめっちゃ怖くてさ。でも、本人達には何も言わないって約束させたからそこは大丈夫」

「ありがとう。まあ、私には小夜ちゃんがいるから良いよ。昔とは違うから」

 そう、今は一人じゃない。小夜もいるし拓海も守ってくれている。家に帰れば兄だけでなくレイラや魔王までいてくれる。あとは自分が強くなるだけだ。

 そして噂の田中は……食堂に行っているのか教室には見当たらない。教室で話しかけられるとどうしても目立つのでちょうど良い。

 私の心配をよそに、それから学校で田中に声をかけられることは無くなった——。

◇◇◇◇

 午後からは何事もなく時が過ぎ、帰宅した。

「レイラ、これ何?」

「昨日も夜中まで頑張って下さって美羽もお疲れのようだったので、僭越ながらわたくしが晩御飯をお作りしましたの。先にご飯にします? それともお風呂?」

 ニコリと笑うレイラはとても可愛い。こんな彼女が晩御飯を作って待っていてくれるなら学校だって仕事だって頑張れるというものだ。

 しかし、そこにあるのはお世辞にも美味しそうとは言えないがあった。そのがそもそもどんな料理なのかも分からない。それ程の見た目なのだ。強いて言うならば黒い炭だ。

「う、うん。ありがとう。先にお風呂にしようかな」

 私一人でその食事は食べたくな……勿体無い。せっかくなので、魔王と兄にも食してもらわなければ。レイラのことが大好きな魔王と兄は、これがどんな味だったとしても美味しいと言って食べてくれるに違いない。

「分かりましたわ。お風呂も沸いておりますので、どうぞお入り下さいな」

「ありがとう。レイラ、お風呂の入れ方分かったの?」

「ええ、ボタンを押すだけでしたわ。最近のお風呂は便利ですわね」

「そっか。じゃあ、先に入ってくるね」

 私は脱衣場で服を脱ぎ、全裸になった。そして、浴室に入った瞬間、目が点になった。

「何、この泡風呂」

 湯船が泡だらけだった。このまま入っても良さそうなくらい泡がてんこ盛りだ。優雅に泡風呂を堪能しろと言うことだろうか?

 いやいや、我が家に泡風呂用の入浴剤は置いていない。隣の五十嵐さんにもらった? あり得る話だ。考えても分からないので湯船まで行って泡を持ってみた。そして匂いを嗅いでみた。

「これは……!」

 泡の正体が分かった。これは、お風呂用洗剤だ。すぐさまレイラを呼んだ。

「レイラー!?」

「どう致しましたか?」

「これどうやったらこんなことになるの?」

 泡風呂を指さして言うと、レイラの目も点になった。

「これは……どうしてこのようなことに? わたくしは、ここに書かれていたようにしただけですわ」

 レイラはお風呂用洗剤の容器に大きく書かれた文字を私に見せてきた。

「ほら、書いてあるでしょう。『シュッとかけてこすらずキレイ』と。わたくしは書いてある通りにしたのですわ」

「レイラ……それは、ブラシでこすらなくても良いってだけで、洗剤は後で流さないといけないんだよ」

「そうなのですか!? 申し訳ございません! もう一度入れ直しますわ。美羽、待っていて下さいませ!」

 レイラが湯船のお湯を抜いて、再び浴槽を洗うところから始めようとしたので私はレイラに言った。

「もう良いよ。私が教えて無かったのが悪いんだし、今日はシャワーで済ませるから」

「ですが、美羽、湯船に浸からないと疲れがとれませんわ」

「このまま裸で待たされてる方が風邪引くよ」
 
「分かりましたわ……」

 レイラは随分と落ち込んで浴室から出ていった。

 失敗したとしてもレイラは私の為に善意でやってくれた事だ。せめて、あの黒い炭……食事だけでも美味しいと言って食べてあげよう。そう心に誓いながらシャワーを浴びた。

 ——そして私と兄と魔王は、その夜お腹を抱えて寝込んだのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔攻機装

野良ねこ
ファンタジー
「腕輪を寄越すのが嫌ならお前、俺のモノになれ」  前触れもなく現れたのは世界を混沌へと導く黒き魔攻機装。それに呼応するかのように国を追われた世界的大国であるリヒテンベルグ帝国第一皇子レーンは、ディザストロ破壊を目指す青年ルイスと共に世界を股にかけた逃避行へ旅立つこととなる。  素人同然のルイスは厄災を止めることができるのか。はたまたレーンは旅の果てにどこへ向かうというのか。  各地に散らばる運命の糸を絡め取りながら世界を巡る冒険譚はまだ、始まったばかり。 ※BL要素はありません  

来世にご期待下さい!〜前世の許嫁が今世ではエリート社長になっていて私に対して冷たい……と思っていたのに、実は溺愛されていました!?〜

百崎千鶴
恋愛
「結婚してください……」 「……はい?」 「……あっ!?」  主人公の小日向恋幸(こひなたこゆき)は、23歳でプロデビューを果たした恋愛小説家である。  そんな彼女はある日、行きつけの喫茶店で偶然出会った32歳の男性・裕一郎(ゆういちろう)を一眼見た瞬間、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。  ――……その裕一郎こそが、前世で結婚を誓った許嫁の生まれ変わりだったのだ。  初対面逆プロポーズから始まる2人の関係。  前世の記憶を持つ恋幸とは対照的に、裕一郎は前世について何も覚えておらず更には彼女に塩対応で、熱い想いは恋幸の一方通行……かと思いきや。  なんと裕一郎は、冷たい態度とは裏腹に恋幸を溺愛していた。その理由は、 「……貴女に夢の中で出会って、一目惚れしました。と、言ったら……気持ち悪いと、思いますか?」  そして、裕一郎がなかなか恋幸に手を出そうとしなかった驚きの『とある要因』とは――……?  これは、ハイスペックなスパダリの裕一郎と共に、少しずれた思考の恋幸が前世の『願望』を叶えるため奮闘するお話である。 (🌸だいたい1〜3日おきに1話更新中です) (🌸『※』マーク=年齢制限表現があります) ※2人の関係性・信頼の深め方重視のため、R-15〜18表現が入るまで話数と時間がかかります。

ストップ!おっさん化~伯爵夫人はときめきたい~

緋田鞠
恋愛
【完結】「貴方の存在を、利用させて頂きたいのです。勿論、相応のお礼は致します」。一人で参加していた夜会で、謎の美青年貴族コンラートに、そう声を掛けられた伯爵夫人ヴィヴィアン。ヴィヴィアンは、恋愛結婚が主流の国で、絵に描いたような政略結婚をして以来、夫に五年間、放置されていた。このままでは、女として最も輝く時期を捨てる事になり、将来的には身も心も枯れ果て、性別不明おっさん風味になってしまう。心の潤いを取り戻す為に、『ドキドキして』、『ときめいて』、『きゅんっとする』事を探していたヴィヴィアンは、コンラートと互いの目的の為に手を組む事に。果たして、コンラートの目的とは?ヴィヴィアンは、おっさん化回避出来るのか?

追放王子の気ままなクラフト旅

九頭七尾
ファンタジー
前世の記憶を持って生まれたロデス王国の第五王子、セリウス。赤子時代から魔法にのめり込んだ彼は、前世の知識を活かしながら便利な魔道具を次々と作り出していた。しかしそんな彼の存在を脅威に感じた兄の謀略で、僅か十歳のときに王宮から追放されてしまう。「むしろありがたい。世界中をのんびり旅しよう」お陰で自由の身になったセリウスは、様々な魔道具をクラフトしながら気ままな旅を満喫するのだった。

勇者がアレなので小悪党なおじさんが女に転生されられました

ぽとりひょん
ファンタジー
熱中症で死んだ俺は、勇者が召喚される16年前へ転生させられる。16年で宮廷魔法士になって、アレな勇者を導かなくてはならない。俺はチートスキルを隠して魔法士に成り上がって行く。勇者が召喚されたら、魔法士としてパーティーに入り彼を導き魔王を倒すのだ。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄達

くらまゆうき
ファンタジー
戦闘には必ず犠牲が出る。 誰もがかっこよく戦えるわけではない。 悩み苦しみ時に励まし合い生きていく。 これは彼らの物語。 鞍馬虎白と共に戦い帰れなかった英雄達の物語

会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。 彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。 亀じゃなくて良かったな・・ と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。 結は吾郎が何度振っても諦めない。 むしろ、変に条件を出してくる。 誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。

処理中です...