24 / 86
第二章 日常、そして非日常
体調不良①
しおりを挟む
古代遺跡から帰ったのは夜中の二時だった。思った以上に長く滞在していたようだ。それからお風呂に入ったりして、結局寝たのは三時を過ぎていた。
「美羽、大丈夫ですの? 今日はお休みされてはいかがですか?」
「大丈夫。今日は午前中で授業終えて、昼から自習の予定だから」
「無理はいけませんわよ。お兄様もですわよ」
「レイラちゃん、心配してくれるの? 僕はしんどいからレイラちゃんの膝枕で休もうかな」
兄はそう言いながらも一番元気そうだ。私は兄の手を引いて学校に向かった。
「お兄ちゃん剣はどうしたの?」
「ん? 部屋に置いてあるよ。あんなの持ち歩いてたら銃刀法違反で逮捕されちゃうよ」
「確かに。家宅捜索なんてされたら終わりだね」
兄が手に入れた剣は、勇者の持つそれのようにしっかりとしており、切れ味も抜群そうだった。
「お兄ちゃん、今度あれで魚三枚におろそうよ」
「良いね。魔王にマグロでも捕ってきてもらって解体ショーでもしたら楽しそうだ」
「お寿司、お刺身、マグロのステーキ、お兄ちゃん良い物手に入れたね! あ、じゃあねお兄ちゃん。行ってらっしゃい」
「うん。美羽、前見て歩くんだぞー」
兄と別れ、兄は大学に、私は高校にそれぞれ行く道を進んだ——。
「そういえば、私あの人の名前聞いてないや」
自分ばかり自己紹介して、美青年の名前を聞きそびれていた。しかも、普通に何も考えず本名を伝えてしまった。
『ミウ・サイトウ』なんて、あの乙女ゲームの世界観では絶対に存在しない名前だ。あちらでは昼間でも、こちらでは深夜二時、ナチュラルハイになっていたのかもしれない。
「まぁ、もう会わないし、いっか」
「誰に会わないんだ?」
「拓海?」
独り言を聞かれるなんて恥ずかしい。それより、いつもは絶対に声をかけてこないのに今日はどうしたのだろうか。私の疑問を感じ取ったのか拓海が言った。
「俺たち、学校では恋人同士だろ。通学中に素通りはまずいだろ」
「確かに」
「あれから虐められてないか?」
「うん。拓海のおかげで何もないよ。ありがとう」
ニコッと笑って見るが、拓海にはお見通しなようだ。
「顔色悪いな。大丈夫か?」
「うん。夜中まで勉強してたからかな。平気平気」
「まだ時間あるんだからあんまり棍詰めるなよ」
「うん、ありがとう」
それから他愛無い話をしながら拓海と学校まで歩いた。
◇◇◇◇
教室に着くと、小夜がやってきた。
「おはよう。美羽、拓海君と来てたね。ラブラブじゃん」
「うん。学校ではね」
「なんか美羽今日元気ないね」
「そんなことないよ。寝不足なだけ」
みんなが口々に心配してくるとは、そんなに顔色が悪いのだろうか。寝不足もあるが、白骨化遺体の山を見たせいもあると思う。夢にまで出てきて怖かった。
小夜にこの恐怖を話したい。異世界転移に古代遺跡なんて小夜の大好物だ。小夜に話したい気持ちを抑えながら教科書を机に入れていると田中が話しかけてきた。
「美羽、ちょっと良い?」
「なに? なんか怒ってる?」
「別に」
明らかに怒っている。どっからどうみても怒っている。メガネの奥にある田中の目が据わっている。私が怯んでいると小夜が私に耳打ちしてきた。
「美羽、まさか田中に話してないの?」
「あ……」
すっかり忘れていた。田中に拓海とのことを伝えるのを。
「あいつとはいつから?」
「えっと……」
「美羽は俺のことが好きなんじゃなかったの? 浮気?」
順を追って説明したいが既に教室にはクラスメイトが席についている。何ならみんなこちらに注目すらしている。
「田中、もう先生来ちゃうよ」
「逃げる気?」
「逃げるとかじゃなくって……」
いよいよ頭が痛くなってきた。眩暈までしてきた。小夜が異変を感じ取ってくれたようで田中に言った。
「ちょっと田中。美羽体調悪いんだから責めないであげてよ。元はと言えば田中が悪いんだしさ。美羽ばかり責めるのは親友として見過ごせないよ」
「どういうこと? 俺のせいって」
「田中のファンが……」
ガラガラガラ。
「ホームルーム始めるから座れよー。お、そこ何か揉め事か?」
「いえ、斉藤さんが気分が悪いそうなので保健室に連れてってきます」
田中が猫を被った。先生の前ではいつもこの調子で、特に髪色を黒にしてからは優等生を演じている。
「斉藤大丈夫か? 午前中が自習で午後から授業に変更になったからゆっくり休め」
それを聞いて安心した。それなら午前中は保健室で寝ていよう。そう思って先生にお辞儀をして教室から出ると、田中まで付いてきた。
「一人で行けるから」
「先生に連れて行くって言ったから。それに体調悪いなんて知らなくて、ごめん」
田中がやけに素直だ。先程までの威圧は見られない。
「私、拓海とは付き合ってないから」
「え? でも女子達が……それに朝も一緒に登校してたって」
やはりクラスの一軍にいる人は違う。噂がすぐに耳に入るようだ。私なんて隣の席の子が話しているのを聞いて、随分経った頃に初めてその噂を耳にしたりするのに。
「学校では恋人同士のフリをしてもらってるだけ。虐められないように」
「は? 虐めってなに?」
「……」
私はそれ以上は話さずに保健室へと歩いた。
「おい、虐めって何だよ」
田中がそう言って私の腕を掴んだ。私は田中の顔を見ずに言った。
「関係ないでしょ。とにかく拓海とは付き合ってないんだから」
「俺がそいつらに言ってやるから」
「そんなことしないで! マジでやめて。そんなことしたら嫌いになるから」
「美羽……」
「私、一人で保健室行くから」
私の腕にある田中の手をそっと離して、私はその場を後にした。
「美羽、大丈夫ですの? 今日はお休みされてはいかがですか?」
「大丈夫。今日は午前中で授業終えて、昼から自習の予定だから」
「無理はいけませんわよ。お兄様もですわよ」
「レイラちゃん、心配してくれるの? 僕はしんどいからレイラちゃんの膝枕で休もうかな」
兄はそう言いながらも一番元気そうだ。私は兄の手を引いて学校に向かった。
「お兄ちゃん剣はどうしたの?」
「ん? 部屋に置いてあるよ。あんなの持ち歩いてたら銃刀法違反で逮捕されちゃうよ」
「確かに。家宅捜索なんてされたら終わりだね」
兄が手に入れた剣は、勇者の持つそれのようにしっかりとしており、切れ味も抜群そうだった。
「お兄ちゃん、今度あれで魚三枚におろそうよ」
「良いね。魔王にマグロでも捕ってきてもらって解体ショーでもしたら楽しそうだ」
「お寿司、お刺身、マグロのステーキ、お兄ちゃん良い物手に入れたね! あ、じゃあねお兄ちゃん。行ってらっしゃい」
「うん。美羽、前見て歩くんだぞー」
兄と別れ、兄は大学に、私は高校にそれぞれ行く道を進んだ——。
「そういえば、私あの人の名前聞いてないや」
自分ばかり自己紹介して、美青年の名前を聞きそびれていた。しかも、普通に何も考えず本名を伝えてしまった。
『ミウ・サイトウ』なんて、あの乙女ゲームの世界観では絶対に存在しない名前だ。あちらでは昼間でも、こちらでは深夜二時、ナチュラルハイになっていたのかもしれない。
「まぁ、もう会わないし、いっか」
「誰に会わないんだ?」
「拓海?」
独り言を聞かれるなんて恥ずかしい。それより、いつもは絶対に声をかけてこないのに今日はどうしたのだろうか。私の疑問を感じ取ったのか拓海が言った。
「俺たち、学校では恋人同士だろ。通学中に素通りはまずいだろ」
「確かに」
「あれから虐められてないか?」
「うん。拓海のおかげで何もないよ。ありがとう」
ニコッと笑って見るが、拓海にはお見通しなようだ。
「顔色悪いな。大丈夫か?」
「うん。夜中まで勉強してたからかな。平気平気」
「まだ時間あるんだからあんまり棍詰めるなよ」
「うん、ありがとう」
それから他愛無い話をしながら拓海と学校まで歩いた。
◇◇◇◇
教室に着くと、小夜がやってきた。
「おはよう。美羽、拓海君と来てたね。ラブラブじゃん」
「うん。学校ではね」
「なんか美羽今日元気ないね」
「そんなことないよ。寝不足なだけ」
みんなが口々に心配してくるとは、そんなに顔色が悪いのだろうか。寝不足もあるが、白骨化遺体の山を見たせいもあると思う。夢にまで出てきて怖かった。
小夜にこの恐怖を話したい。異世界転移に古代遺跡なんて小夜の大好物だ。小夜に話したい気持ちを抑えながら教科書を机に入れていると田中が話しかけてきた。
「美羽、ちょっと良い?」
「なに? なんか怒ってる?」
「別に」
明らかに怒っている。どっからどうみても怒っている。メガネの奥にある田中の目が据わっている。私が怯んでいると小夜が私に耳打ちしてきた。
「美羽、まさか田中に話してないの?」
「あ……」
すっかり忘れていた。田中に拓海とのことを伝えるのを。
「あいつとはいつから?」
「えっと……」
「美羽は俺のことが好きなんじゃなかったの? 浮気?」
順を追って説明したいが既に教室にはクラスメイトが席についている。何ならみんなこちらに注目すらしている。
「田中、もう先生来ちゃうよ」
「逃げる気?」
「逃げるとかじゃなくって……」
いよいよ頭が痛くなってきた。眩暈までしてきた。小夜が異変を感じ取ってくれたようで田中に言った。
「ちょっと田中。美羽体調悪いんだから責めないであげてよ。元はと言えば田中が悪いんだしさ。美羽ばかり責めるのは親友として見過ごせないよ」
「どういうこと? 俺のせいって」
「田中のファンが……」
ガラガラガラ。
「ホームルーム始めるから座れよー。お、そこ何か揉め事か?」
「いえ、斉藤さんが気分が悪いそうなので保健室に連れてってきます」
田中が猫を被った。先生の前ではいつもこの調子で、特に髪色を黒にしてからは優等生を演じている。
「斉藤大丈夫か? 午前中が自習で午後から授業に変更になったからゆっくり休め」
それを聞いて安心した。それなら午前中は保健室で寝ていよう。そう思って先生にお辞儀をして教室から出ると、田中まで付いてきた。
「一人で行けるから」
「先生に連れて行くって言ったから。それに体調悪いなんて知らなくて、ごめん」
田中がやけに素直だ。先程までの威圧は見られない。
「私、拓海とは付き合ってないから」
「え? でも女子達が……それに朝も一緒に登校してたって」
やはりクラスの一軍にいる人は違う。噂がすぐに耳に入るようだ。私なんて隣の席の子が話しているのを聞いて、随分経った頃に初めてその噂を耳にしたりするのに。
「学校では恋人同士のフリをしてもらってるだけ。虐められないように」
「は? 虐めってなに?」
「……」
私はそれ以上は話さずに保健室へと歩いた。
「おい、虐めって何だよ」
田中がそう言って私の腕を掴んだ。私は田中の顔を見ずに言った。
「関係ないでしょ。とにかく拓海とは付き合ってないんだから」
「俺がそいつらに言ってやるから」
「そんなことしないで! マジでやめて。そんなことしたら嫌いになるから」
「美羽……」
「私、一人で保健室行くから」
私の腕にある田中の手をそっと離して、私はその場を後にした。
11
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
幸子ばあさんの異世界ご飯
雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」
伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。
食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる