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第二章 日常、そして非日常

古代遺跡①

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 私と兄と魔王は乙女ゲームの世界に転移した。日本は夜のはずなのにこの世界は昼間のように明るい。時間にズレがあるようだ。

 ちなみにレイラには留守を任せた。『胸キュンラバーⅡ』は、レイラを奪う戦いでもあるため、アイテム回収中にうっかり敵に捕まりでもしたら溜まったものではない。

「お兄ちゃん良かったの? バイト休んじゃって」

「一回くらいは大丈夫だよ。それに魔王がいるからって異世界なんて美羽だけ行かせられないよ」

「お兄ちゃん……」

 兄妹愛に感慨深いものを感じていると、兄が嬉しそうに言った。

「それにこういう異世界って、美男美女揃いって相場は決まってるんだ」

「それが一番の目的だね。お兄ちゃん……」

 兄の目的が邪なものだとしても、私は一緒に来てくれて心底安心している。魔王が付いているとは言え、ここは異世界。言葉が通じるだけマシかもしれないが、未知な世界に一人放り出されたら不安でしょうがない。

「で、魔王様。ここは?」

 見るからに古代遺跡のようではあるが、確認のため聞いてみた。私は乙女ゲームの無印しかプレイしていない。続編のことは知らないのだ。

「この古代遺跡に例のアイテムがあると思うんだ。ゲームの背景にそっくりだ」

「じゃあ、パパッと回収しちゃおう。シャーロットはまだアイテムのこと知らないだろうし。早い方が良いよね」

 そう、乙女ゲームの続編が出たのはつい最近。シャーロットが日本でいつ死んだのかは不明だが、きっと私と同じで無印しかプレイしていないはず。だよね? 多分……きっと……。不安になってきた。

 もしかして続編もプレイしてから死んでたりして? そうなるとまだ日本に前世のシャーロットは存在するのだろうか。頭の中が混乱してきた。

「どうしたんだ?」

「いや、転生ってややこしいなって。一度死んで未来に転生したなら分かりやすいけど、シャーロットは過去に転生した感じになるってことだよね? シャーロットは続編のことも知ってるのかな?」

 兄が顎に手を当てながら暫し考えて言った。

「確かにね。でも、続編のこと知ってたらレイラちゃんが修道院に行く途中で魔王が連れ去ったことも知ってるはずだよ」

「ああ、そっか。だったらわざわざ怪しい薬を使ってまで魔導師から居場所を聞き出さないか」

「そういうこと。きっとシャーロットちゃんはアイテムのことまだ知らないよ」

「ありがとう。お兄ちゃん! よし、行……」

 頭の中がスッキリしたので、いざ古代遺跡へと足を一歩出した瞬間、体がふわっとした感覚に襲われた。まるでジェットコースターに乗った時のような感覚。

「「美羽!?」」

「キャーーーー!」

 落ちてる! 落ちてる! 落ちてる!

 何でかわからないが落ちている。先程まで穴など無かったのに、急に現れたのか。ベターなトラップに引っかかってしまった。そしてこういう場面では、落ちた先には髑髏が……。
 
「いやーー! 落ちたくない、落ちたくない! あれ?」

 ぽよんッ。ぽよんッ。

「何これ?」

 水のような風船のような、まるでウォーターベッドに乗っているかのような心地よさ。そんな、ぽよんぽよんした何かの上に着地した。

「大丈夫か?」

「へ? 誰?」

 そこには私と同じくらいの年頃だろうか、青い髪に青い瞳の超絶イケメンがいた。

「変わった身なりだな。なんか地味だし」

「よ、余計なお世話よ」

 地味なのは置いておいて、高校の制服を着てきたのでこの世界では変わった服装なのだろう。なんせここは日本語が通じて学習は進んでいる割に文明は遅れている中世ヨーロッパ風だ。

 何故か凄い見られている。穴が開くほど見られている。その顔に見覚えがあるようなないような……。

「お前こんなところに何しに来たんだ?」

「えっと……」

 本当のことを言っても良いのだろうか。私は何の力もないただの女子高生。アイテムを横取りされる可能性大だ。誰かは分からないが、初対面の人を信用してはいけない。

「探検しに来たの。こういうとこ入るのドキドキワクワクするでしょ?」

「お前は、ああなりたかったのか?」

 美青年の指さす方を見れば髑髏が……。

「いやーー!!」

「ちょ、離れろ。鬱陶しい」

「ご、ごめん」

 私は恐怖のあまり美青年に抱きついてしまった。だって、怖すぎる。お化け屋敷も入れないくらい怖がりなのに、大量の髑髏が目の前にあるのだ。この絵面はキツい。

「謝ったなら離れろよ」

「私だって離れたいよ」

 分かってくれるだろうか。本当に怖いのだ。知らない人でも何でも良い、誰かにくっついていないと不安すぎる。私は涙目になりながら聞いてみた。

「ここから出られないの?」

「さぁ。オレも初めて来たから」

「え、うそ……」

 私はこんな所であっけなく死んでしまうのだろうか。

「こんなことなら焼肉とかステーキとかお金気にせず食べとけば良かった。ああ、お寿司も捨て難い。なんで最後が里芋の煮っ転がしなのよ。いや、美味しいけどさ、美味しいんだけど最後くらい……」

「お前、大丈夫か?」

「あ、ごめん。死ぬのかと思ったらつい」

 食い意地を張ってまるで魔王みたいだ。魔王……そうだ、ここには魔王と兄が来ている。きっと助けに来てくれる。

 そんなことを考えていると、美青年が立ち上がった。もちろんくっていている私も一緒に。

「とりあえず、出口探すか」

「まさか……この上歩くの?」

 美青年が当たり前だろ、と言うような顔で見てきた。それでも私は髑髏の上なんて歩きたくない。このぷよぷよしたモノの上に乗ったまま移動したい! と目で訴えた。必死に。すると思いが通じたのか美青年が溜め息を吐いた。

「しょうがないな。ここを出るまでだからな。それから先は自分で歩けよ」

「ありがとう……て、え?」

「歩きたくないんだろ? だったら大人しくしてろ」

「うん」

 私は美青年に山賊抱っこされた状態でその場を後にした。
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