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第二章 日常、そして非日常

仲間②

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 小夜に乙女ゲームのこと、レイラと魔王のことを全て話した。良かったのか悪かったのか……。

「レイラちゃん、動かないで!」

「申し訳ありません」

「ここをこうすれば……どうよ! 私、美術だけは成績良いんだから」

「小夜ちゃん、化粧って美術なのかな……」

「美術でしょ。美しい術って書くんだよ。化粧だって美しくなる為に施されるものでしょ」

「なるほど……」

 レイラは小夜の手によってキツめの化粧を施され、髪の毛はツインテールの縦ロールに仕上げられた。つまりは悪役令嬢レイラの完成だ。

「化粧は久しぶりなので少し楽しいですわ」

 ほほほ、と笑うレイラ。何故だろうか。化粧をして悪役顔になったレイラが笑うと普通に笑っているだけなのに高笑いをして他人を見下しているようにすら見えてきた。

「服装がいまいちね」

「そりゃあ、現代の服だからね」

 そして、小夜に全てを話した結果が、どうしてこのような事態になっているかと言えば——。

『え、何その設定! めっちゃウケるんだけど。ラノベでも書いたら? ローファンタジー良いじゃん』

 初めは小夜に信じてもらえなかった。これが普通の反応。兄がすんなり信じたのが異常だったのかもしれない。

 信じないのなら仲間に引き入れることも、一緒に異世界に行くことも諦めるしかない、そう思って話を切り上げようとしたその時……。

『じゃあさ、レイラちゃんに問題』

『わたくしですか?』

『悪役令嬢の本名と誕生日は?』

『レイラ・ブリストン、アルバーン暦六五四年三月二日』

『王太子の名前と好きな食べ物は?』

『サイラス・アルバーン。分厚いステーキと皆様に仰っていますが、実はその油の部分が大好物なのですわ』

『やるわね』

 小夜は麦茶を一口飲んでから、再びレイラに質疑応答を始めた。

『じゃあ、レイラと王太子が出会った時に飲んでいた飲み物は?』

『確か、レモン水ですわ。夏の暑い時でしたので、さっぱり爽やか身体にしみ渡りましたわ』

『レイラの愛読書は?』

『海と月』

『じゃあ、じゃあ————』

 それから、小夜の質問はなんと軽く五十問は続いた。そして、小夜とレイラは手を取り合った。

『レイラちゃん、あなたを悪役令嬢のレイラと認めるわ。仮に設定だったとしても、私は本物だと思って接するわ』

『小夜様、ありがとうございます』

『じゃあ早速始めるわよ!』

『何をでしょう?』

『撮影会に決まってるでしょ。生レイラよ! 生魔王様よ! ゲームでは手に入らないスチルだって手に入るわ!』

 ——という具合に信じたのか信じていないのか分からない小夜は、今現在レイラを悪役令嬢レイラへと変身させようとしているのだ。

 ちなみに、魔王は元々素顔の魔王のままなので何もしていない。質疑応答についても、魔王についての情報は少なすぎて数問で終わった。

「レイラがここに来る時に着てた服があるよ。それ着る?」

「うん。着る着る!」

 返事をしたのはレイラ……ではなく、ノリノリの小夜だ。

「レイラ、あっちいって着替えよ」

「分かりましたわ」

 数分後——。

「きゃー! 美羽、これは正にレイラよ! 信じるわ。どっからどう見てもレイラにしか見えない! じゃあ魔王様も本物? 闇の魔法で縛られてみたいわ」

「小夜ちゃん興奮しすぎ……って、魔法、そうだよ。魔王様もレイラも魔法見せたらあんな質疑応答しなくてもすんなり信じてもらえたんじゃない?」

「確かにな、じゃあ望み通り縛ってやるか」

 魔王が呪文を唱えると小夜が黒い何かに縛られた。

「え、これガチなやつ?」

「だからそうだって言ってるじゃん」

「きゃー! 私、生魔王様に縛られてるわ。ちょっと美羽、写真、写真撮って」

「う、うん」

「あ、レイラちゃんと魔王様もちゃんと入れてよ」 

 私は言われるがまま、その光景を写真に残した——。

 これでようやく小夜も魔王とレイラのことを信じたようだ。それからは撮影会が開かれ、小夜が撮影に満足すると、小夜はやっと事の重大性に気がついたようだ。

「でもさ、レイラちゃんはこのままだと偽のヒロインに連れて行かれて断罪の続きってこと? ヤバいじゃん……」

「だから小夜ちゃんに協力仰いだんじゃん」

「そういうことか」

「小夜、力を貸してくれるか?」

 魔王が小夜に手を差し出すと、小夜はキラキラした目で魔王の顔と手を交互に見つめて、その手を取った。

「私に出来ることなら! なんならそのまま魔王城でレイラちゃんの代わりに一緒に住みます」

「レイラの代わりは困るがな。住むのは構わんぞ」

「魔王様、小夜ちゃん本気にしちゃうから」

「でもこれで、アイテムが五つ手に入れば敵は四つ。ついでにアイテムを強化させることができれば少しだけ有利ですわね」

 こうして、少しばかり遠回りになったが私たちに一人仲間が増えたのだった。
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