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第二章 日常、そして非日常

女子会②

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 女子会と言えば恋愛トーク!

 レイラも恋バナをしたがっていたし、きっと恋愛の話題から始まって、最初から最後まで終始こういった類の話で終わるのかと思いきや、流石集まったのがオタクと悪役令嬢。恋愛は二の次だった。

「へー、では握手をする時は最後尾に並ぶ方がよろしいと言うことですわね」

「ふふ、レイラちゃんはまだまだだね。考えが生ぬるいよ。鍵閉めは顔を覚えてもらう為。推しに認知されないと始まらないからね。認知してさえ貰えれば鍵開けの方が断然良いよ。誰にも触れていない、まっさらな手で私の手を優しく握ってくれる……まさにそれは恋人と同じなのよ!」

「なんと! 奥が深いですわ。わたくし、何故だかそこにいるだけで皆が道を開けてくれるのですわ。鍵開けのお手伝いが出来るかもですわ」

「レイラのそれはちょっと違うかなぁ。見た目が悪……高貴なお嬢様だから道を開けてくれるだけで、ファンの中に入ると問答無用で叩き出されるよ。握手会とは言わば戦場なのよ」

 小夜がドルオタトークを炸裂し、レイラが真剣な眼差しでそれを聞いて返している。そして私がレイラに補足して説明する。これが小一時間程続いている。

「でもさ、小夜ちゃんは魔王様に推し変したんでしょ? もうライブ行かないの?」

「行くわよ。本命は魔王様で二推しが健斗よ」

「ふふ、魔王様は愛されていらっしゃいますわね」

「良かったー。小夜ちゃんが推し活一緒にいってくれなくなったら寂しいもん」

 小夜が来れない時に何度か一人で行ったこともあるが、あの感動を誰とも共有せずに帰るのは思いの外寂しいものがあるのだ。

「今度わたくしも御一緒しても宜しいかしら? 小夜様と美羽の話を聞いていたらとても楽しいところのようですし」

 レイラの言葉に小夜が前のめりになって応えた。

「もちろん。私の本命は魔王様になったから、健斗推しても良いよ! 顔は魔王様には劣るけど、あのグループの中じゃ一番だと思ってる」

「一番はリクだよ! あの切れ長な瞳に知的なメガネ。神だよ」

「田中そっくりだけどね」

「うっ……やっぱ私も推し変しようかな」

 トントントン。

 私達三人が口々に話をしていると、扉をノックする音が聞こえた。視線が一斉に扉へ集中し、小夜が返事をした。

「はーい」

「……」

「あれ? 入ってこないね」

 今、小夜の家にいるのは私たちを除いて小夜の弟の悠馬だけだ。いつもならノックもせずに入ってくるのにどうしたのだろうか。

「ちょっと見てくるね」

 そう言って小夜が立ち上がって扉を開くと土下座をした悠馬がそこにいた。しかもフォーマルなスーツに身を包み、髪もワックスで塗り固められている。

「げ、悠馬何してんの? 頭でも打ったの?」

「まさか。ぼくは元々こんなんだよ。お姉様」

 悠馬が顔をあげてニコリと笑えば、小夜が一歩後退りした。

「お姉様ってなに……? キモいんだけど、ガチで。しかも、『ぼく』は格好悪いからって六年生でやめたんじゃなかったの?」

「そんな事を言っていた頃もあったかな……。だけど、ぼくは決めたんだ」

「な、何を?」

 悠馬はゆっくりと立ち上がり、部屋に入ってきた。そしてレイラの前に跪いた。どこからともなく薔薇の花を一輪取り出し、レイラに向けて言った。

「ぼくと結婚して下さい」

「は? 悠馬なに言っ……」

「まぁ。どう致しましょう。こんなストレートに求愛されるなんて初めてですわ」

 悠馬の行動に、小夜と私は驚きを通り越して呆れを感じていたが、レイラは違った。本気で嬉しそうだ。

「本来だったらお父様に相談してってなるのでしょうが、今はいないのでどういった手順が宜しいのでしょうか。美羽、教えて下さらない?」

「え……わ、私?」

 まさか私に振ってくると思わなくて戸惑いが隠せない。だが、聞かれたからには応えねば。

「えっと……とりあえずお互いの事をもっと良く知ってからの方が良いんじゃないかなぁ。友達からとか」

「分かりましたわ」

 レイラは一輪の薔薇の花を悠馬から受け取った。

「では、悠馬様、今日からわたくしと悠馬様はお友達と言うことで宜しいでしょうか?」

「はい! よろしくお願いします」

 悠馬はとても嬉しそうにレイラと握手をした。そして、悠馬は立ち上がると、私と小夜に向き直って手を振った。

「では、お姉様、美羽様もごきげんよう」

 パタンッ。

 悠馬は満面の笑みで退室していった——。

「よく分かんないけど、弟がごめんね。レイラちゃんも私に構わず嫌なら嫌って言って良いからね」

「いいえ。真摯に向き合ってくれる方には、わたくしもきちんと向き合いたいのです。それに、歳下男子と言うものは存外可愛いものかもしれませんわ」

 薔薇の花を見て微笑むレイラ。私と小夜は目を見合わせて頷いた。

 私たちは、一つの恋の始まりを目の当たりにしたかもしれない。

 そして、女子会はまだまだ続く——。
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