乙女ゲームの悪役令嬢と魔王が居候!?〜偽ヒロインは後でゆっくり制裁を下します〜

七彩 陽

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第二章 日常、そして非日常

恋人ごっこ②

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 ある日の放課後、田中に魔王を紹介する時がやってきた。

 今は、田中が進路指導の先生に呼ばれているので、それが終わるまで私は小夜と教室で待機中。

「美羽だけずるい! 私も魔王様に彼氏役やってもらいたい!」

「小夜ちゃん……私の気持ち知ってるでしょ。私は小夜ちゃんに代わってもらいたいよ」

 そして、早く受験勉強に専念したい。田中のせいで勉強に集中できない。今日の授業も全然頭に入らなかった。帰ったらレイラに聞こう。溜め息を吐いていると、小夜が悪戯な笑顔で言った。

「最悪、田中と付き合っちゃえば? ちょっとおかしい奴だけど、黒髪にメガネにしてからリクに見えるよ。名前も同じ陸だしさ、アイドルと付き合ってるつもりでさ」

「付き合わないけど、それは私も思ったよ。田中がリクにしか見えないんだよ。これじゃ、私が田中の生写真を御守り代わりに持ってるみたいじゃん」

「確かに。これ田中に見られたらヤバいね。絶対勘違いするやつだね」

 小夜とこそこそ話をしていると、廊下の方から田中とその友人の話し声が聞こえてきた。

「うわ、やば」

「美羽、早く隠して隠して」

 急いでリクの生写真を財布に戻し、私は何食わぬ顔で勉強をしている振りをした。

「じゃあな、田中。頑張れよ」

「おう。絶対負けねぇ」

 田中とその友人は口々に別れの挨拶らしきものを済ませ、田中が私の元までやってきた。

「待たせて悪かったな。美羽」

「ううん。大丈夫。それよりさ、名前で呼ぶのやめてもらって良いかな?」

「えー、良いじゃん」

「だってこれからに会うんだし」

 私が彼氏を強調して言えば、不愉快そうな顔をして田中が言った。

「じゃあ、今だけな。俺が彼氏って認めなかったら名前で呼ぶから」

 彼氏とは、他人から認められなければならないものなのか甚だ疑問だが、魔王との特訓の成果を見せる時だ。

「好きにしたら。小夜ちゃん、バイバイ」

「うん。頑張ってね」

 私は田中と共に魔王の元へと向かった。

◇◇◇◇

 向かった先は家の近くのファミレス。流石に友人でもない田中を家には呼べない。

 私はファミレスに入って、魔王を見つけるなり駆け寄って言った。

「遅くなってごめんね、マー君」

「何処かで事故にでも遭ったんじゃないかと心配したよ。無事で良かった。ミーちゃん」

 もちろんマー君とは魔王のこと。そしてミーちゃんとは私だ。恋人とはあだ名で呼び合うものだとネットに書いてあったから。

 ちなみに話し方もいつもの偉そうな態度は控えてもらっている。恋人とは対等でなければならないから。

 田中が冷めた目で見ているが気にしない。今日一日は魔王の彼女。彼女になりきってみせる!

 私は魔王の隣に座ってメニュー表を開いた。

「マー君は何にしたの?」

「まだ頼んでないよ。ミーちゃんが好きなもの半分こにしようと思ってたから」

「良いの!? じゃあ私は……このケーキのセットとチョコのパフェ食べたい!」

「相変わらずミーちゃんは甘いものに目がないんだから」

 魔王もしっかりと練習通りにしてくれている。魔王に感謝だ。この調子ならきっと田中も信じてくれるはず。

「田中分かってくれた? 私にはマー君という彼氏がいるの」

 私の言葉に田中は余裕の笑みを見せながら応えた。

「実在するのは分かったよ。でもまだ付き合ってるかまでは認められないね」

「なんでよ」

「それよりさ、彼氏さん何歳なの? 俺らより歳上っぽいけど」

 確かに何歳なのだろうか。その辺の設定は考えていなかった。魔王の顔を見ると、魔王自身悩んでいるようだ。

「うーん……途中で数えるのやめちゃったんだよね。五百は越えてると思うんだけど」

「は? 五百って何?」

「もう、マー君ったら冗談ばっかり言っちゃって。二十五歳でしょ。ははは」

 笑って誤魔化すが冷や汗ものだ。この手の質問は危ない。田中も信じはしないだろうがすぐにボロが出そうだ。

 注文の品が机に並び、私は早速魔王の口元にケーキを差し出した。

「マー君、あーん」

「はむっ……んん! これは絶ぴ……凄く美味しいね。ミーちゃんも食べてごらん」

 美味しさのあまり素の魔王が見えたが、少しくらい大丈夫だろう。それからはお互い食べさせあいこをして時間が過ぎた——。

 田中が飲んでいたコーヒーをそっと机の上に置いて、私に言った。

「もう良いよ」

「えっと、それはつまり……」

「付き合ってるかどうかはさて置き、そこまで俺と付き合いたくないってことだろ」

 儚げに俯く田中がリクに見えて一瞬ドキリとした。そして、田中が真摯に私を好きだと言ってくれたのに、それをこんな形でなかったことにしようとしていることに罪悪感を覚える。

 私が黙っていると魔王が私の肩を抱き寄せて言った。

「分かってもらえたんだ。もう帰ろう」

「うん、そうだね。田中ありがとう」

 田中は立ち上がって伝票を手に取った。

「今日は割り勘だからな」

「分かってるよ」

 私は財布を取り出し、千円札を二枚取り出した。田中はそれを受け取ると、何かに気付いたようだ。

「斉藤、なんか挟まってる……ぞ」

 田中の顔が真っ赤になった。どうしたのだろうかと田中が持っている物を覗いた。

 そして私の顔は一気に青ざめた。

「た、田中違うから! これはリクの生写真で。いや、リクって陸のことじゃなくて……」

 田中が持っていた物は田中そっくりのリクの生写真だった。必死に説明するが、田中の名前が同じリクなので上手く説明が出来ない。

 私が軽くパニックに陥っていると、田中が満面の笑みで私に言った。

「斉藤の気持ちは分かったよ。受験があるから俺のこと諦めようと思ったんだろ?」

「いや、違っ」 

「無理しなくて良いよ。受験が終わったら改めて告白するから、そしたら付き合おうな」

 そう言って、田中は千円札二枚とリクの写真を私に手渡した。

「今日は俺が奢るよ」

「え、良いの?」

「バイト代入ったばっかだし。演技するの疲れただろ? そっちの彼氏さん役のお兄さんも。バレバレだよ」

 田中は嬉しそうに鼻歌まじりに店を出て行った。

 私の苦労は何だったのだろうか。ひとまず今現在田中と付き合うことはなさそうなので良かったと言うべきか。


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