乙女ゲームの悪役令嬢と魔王が居候!?〜偽ヒロインは後でゆっくり制裁を下します〜

七彩 陽

文字の大きさ
上 下
13 / 86
第二章 日常、そして非日常

恋人ごっこ①

しおりを挟む
 私は魔王に土下座をしている。

「魔王様お願い! 一日だけだから」

「何故俺が美羽の恋人役をせねばならんのだ。俺はレイラが好きなんだ」

 ——私はよく分からない内に田中の彼女に仕立て上げられそうになっていた。

 私は田中に向かって嘘を吐いた。

『田中、ごめん。私、付き合ってる人いるの』

『は? 付き合ってる人いないって言ってたよね。俺に嘘吐いたの?』

『ごめん……』

『どこの誰? クラスの奴?』

 私は小夜の鞄からチラリと見えた一枚の写真を取り出して田中に見せた。

『この人、今も一緒に暮らしてる』

 しかし、田中は私から写真を奪い取って怪訝な顔で聞いてきた。

『こんなやつ実在すんの? 芸能人とかじゃないの?』

 写真には爽やかな笑顔でピースをしている魔王が写っている。容姿端麗な魔王の顔が裏目に出たようだ。全く信じてもらえなかった。

 田中に信じてもらう為、私は意を決して魔王を田中に会わせることにした。彼氏として——。

 そして今、必死に魔王を説得している。

「彼氏役してくれたら、魔王様の大好物の天ぷら沢山作ってあげるから。お願い!」

「海老も入れてくれるか?」

「入れる入れる。奮発しちゃう」

「良いだろう」

「やった、ありがとう。魔王様大好き!」

 私は両手放しで喜んだ。だって、田中の彼女になんてなりたくない。私は田中とは真逆の陰キャ女子。どう足掻いたって釣り合わない。拓海の時のように虐められて孤立するのが目に見えている。そもそも田中は嫌いだ。

「魔王様、どうしたの? 顔が赤いよ」

「そうか? それよりレイラ、すまない。例え一日だとしても美羽の恋人になるなんて……」

 魔王が切な気な表情でレイラに話しかけるが、レイラは淡々と言った。

「いえ、わたくしは何とも思っておりませんので、しっかりと美羽に恩返しして差し上げて下さいませ」

「レイラ、気丈に振る舞って……健気なやつだ」

 レイラと魔王の会話を聞いていると、レイラから全く相手にされていない魔王が少しばかり可哀想に思えてくる。だからと言って、私は魔王の味方をするつもりはさらさら無いが。

 そんなことより今は田中だ。田中に偽のカップルだとバレないようにしなければならない。

「魔王様、恋人の練習しとこう。ボロが出て田中にバレたら困る」

「そうだな。レイラ、少しばかりリビングに行っててくれるか? いくら偽といえど俺が美羽の恋人を演じているのを見るのは辛いだろう」

「分かりましたわ。辛くはないですが、わたくしはリビングで掃除機の特訓をしてまいりますので、魔王様と美羽は頑張って下さいませ」

 掃除機の特訓とは果たしてどのようなものか、見たい気持ちを抑えつつ、私はリビングと自室を隔てている襖が閉まるのを眺めた。そして魔王の方に顔を向けた瞬間、体がふわっと宙に浮いた。

「え、魔王様? 何してんの?」

「恋人の練習をするんだろ?」

 私は魔王に横抱きにされている。いわゆるお姫様抱っこだ。

「ちょ、重いから、魔王様早くおろして」

「そうか? 軽すぎて逆に心配になるぞ」

 人がいないのが幸いだが、恥ずかしすぎる。抱っこなんてコタツでうっかり寝た時に兄に抱っこされた以来だ。しかも魔王の顔が近すぎる。

 私が魔王の腕の中でジタバタしていると、魔王はゆっくりベッドの上に私をおろした。安堵したのも束の間、魔王が私のすぐ隣で肘を付いて横になっている。

「え、魔王様? ちょっ、恋人の練習するんだよね? 何してんの?」

「だから、恋人の練習だ。ああ、部屋を暗くした方が良いか? 少し待ってろ」

 そう言って、魔王が何やら呪文のようなものを唱えるとカーテンがシャッと閉まり、部屋の灯りが消えた。

「え、なに? 魔王様? 暗くする必要ある?」

「俺は明るくても良いが、日本の女性はこういうことをする時は明るいと恥ずかしいらしいじゃないか」

「何の話をしてるの?」

「恋人役をやるのだろ? 俺は初めてだが、兄の動画でしっかり勉強してるから安心しろ。優しくしてやる」

「え、それって……」

 私は瞬時に理解した。魔王が今から何をやろうとしているのか。そして、魔王の右手が私の胸に置かれようとしていることを。

 その手から逃げるように、私は思い切りゴロンと横に転がった。

「いてて……」

 ベッドはシングルなので、案の定私はベッドから転げ落ちた。その瞬間、部屋が明るくなった。魔王が灯りを付けてくれたようだ。

「美羽、大丈夫か?」

「もう、魔王様は何を田中に見せるつもりよ」

「日本人の恋人同士がすることと言えばこれだ! と兄に教わっていたからな」

「お兄ちゃん……」

 危うく恋人ごっこで貞操を魔王に捧げるところだった。危ない危ない。

「では、美羽。恋人役とは何をやれば良いんだ?」

 魔王に言われて気が付いた。恋人とは何をやるのだろうか。恋愛経験ゼロの私には到底答えに辿り着けない。

「こういう時はネットで調べてみよう」

 こうして私と魔王はインターネットの情報を頼りに恋人の練習に励んだ。勉強もせずに。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風
ファンタジー
気がついたら、俺は乙女ゲーの悪役令嬢になってました。 こいつは悪役令嬢らしく皆に嫌われ、周囲に味方はほぼいません。 完全没落まで一年という短い期間しか残っていません。 この無理ゲーの攻略方法を、誰か教えてください。 ライトオタクを自認する高校生男子・弓原陽が辿る、悪役令嬢としての一年間。 彼は令嬢の身体を得て、この世界で何を考え、何を為すのか……彼の乙女ゲーム攻略が始まる。 ※書籍化に伴いダイジェスト化しております。ご了承ください。(旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

かあさん、東京は怖いところです。

木村
ライト文芸
 桜川朱莉(さくらがわ あかり)は高校入学のために単身上京し、今まで一度も会ったことのないおじさん、五言時絶海(ごごんじ ぜっかい)の家に居候することになる。しかしそこで彼が五言時組の組長だったことや、桜川家は警察一族(影では桜川組と呼ばれるほどの武闘派揃い)と知る。 「知らないわよ、そんなの!」  東京を舞台に佐渡島出身の女子高生があれやこれやする青春コメディー。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

処理中です...