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第一章 同居スタート
延命活動
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推し活から帰宅すると拓海が必死に兄と戦ってくれていた。
「拓海、レイラちゃんを渡すんだ。もう少ししたら美羽が帰ってきてしまう」
「何度言ったら分かるんですか! レイラは渡しません!」
「拓海様……」
レイラは拓海の背後に隠れて安全なようだ。安堵していると、皆が私と魔王の帰宅に気が付いた。
「おかえりなさい。美羽。推し活とやらはどうでしたか?」
「美羽、約束は果たしたからな。お前、美羽と一緒だったのか」
レイラと拓海は口々に出迎えてくれたが、兄だけは非常に残念がっていた。
「レイラちゃん、次の推し活の日は必ずやレイラちゃんを夢の花園に連れて行ってあげるからね!」
「お兄ちゃん、次からはレイラも連れて行くから。拓海ありがとう。レイラも無事で良かったよ!」
レイラの手を取って、私はレイラの無事を喜んだ。
「じゃあ俺はこれで」
「え? もう帰っちゃうの? 拓海も晩御飯食べていきなよ」
拓海があっさり帰ろうとしたので、私は拓海を引き止めた。
「今日はもう帰るよ。美羽の兄ちゃんの相手してたら疲れた」
「はは、ごめんね……また御礼させてね」
「拓海様、ありがとうございました。とても楽しかったですわ」
レイラが拓海に微笑みかけると、拓海の頬が赤く染まった。レイラの微笑みは拓海をも虜にするのかと感心した。
そして、そんな拓海と魔王がすれ違い様に睨み合っていたことには気付かなかった。
◇◇◇◇
晩御飯の支度をしながら、私は隣で火を操っている魔王に聞いた。
「魔王様、どうして今日迎えに来てくれたの?」
「お前の兄から聞いてな。お前が男共にうつつを抜かしに行っていると」
「間違ってはいないけど、なんか言い方が嫌だな」
「俺の顔は叩く程に嫌いなのだ。お前がうつつを抜かしている男がどれ程の男か見定めてやろうと思ってな」
やはり魔王は私が頬を引っ叩いたことを根に持っているようだ。
「魔王様、ほら味見」
機嫌を直してもらおうと、出来上がった肉じゃがを魔王の口に放り込んだ。もちろん少し冷ましてから。
「なんと! これはまた美味だ。素朴な見た目に反して絶品だ」
「でしょ」
魔王は日本食が大好きなようだ。一口食べればみるみる機嫌が直る。
私はご飯を作ることで魔王にメリットがあることをアピールせねば。このままでは、魔王に殺されかねない。
「明日からお弁当も作ってあげるからさ、ここに入り浸らずに魔界に戻ってやることちゃんとやりなよ」
「それは本当か!? それなら仕事が捗ると言うものだ」
「だから、いちいち肩掴まないでよ」
魔王は嬉しい事があると人の肩を掴む癖があるようだ。顔が近い。そして、その力強さにドキリとしてしまう。
「すまない。嬉しくて、つい。弁当の件、レイラに自慢してくる」
「いや、自慢する程のことじゃ……ま、いっか」
お弁当くらいで命が助かるなら安いものだ。これからも魔王の胃袋を掴んで延命活動に取り組もう。
そして、これをいつまで続ければ良いのか。レイラは純粋で可愛いから良いけれど、魔王は早く帰って欲しいと願うばかりだ。
そんな事を考えていたら、魔王と入れ違いに兄がやってきた。
「美羽、拓海とまた付き合い出したのか?」
「えっと……この間、街で偶然会って」
兄はやはり拓海を良く思っていないようだ。私が虐められるようになったそもそもの原因が拓海だから。拓海は何も悪いことはしていないのに。
「でも、それだけだよ。今日はお兄ちゃんがレイラと二人きりで変なことしようとしたから仕方なかったんだよ」
「それは悪かった」
やけに素直な兄に内心焦ってしまう。兄は続けて言った。
「だけど、美羽には辛い思いはして欲しくないんだ。ただでさえ母さんも父さんもいなくなったのに……」
「お兄ちゃん……私は拓海とはこれっきり、もう関わらないから安心してよ」
「美羽はそう思ってても拓海はどうかな」
「どういうこと?」
「ううん。何かあったらいつでも言えよ。お兄ちゃんがいつでも美羽を助けてやるからな。さぁ、ご飯できたなら食べよう」
「うん、ありがとう」
なんだかんだ兄は私のことを考えてくれている。久々に兄が頼もしく見えた瞬間だった。
「拓海、レイラちゃんを渡すんだ。もう少ししたら美羽が帰ってきてしまう」
「何度言ったら分かるんですか! レイラは渡しません!」
「拓海様……」
レイラは拓海の背後に隠れて安全なようだ。安堵していると、皆が私と魔王の帰宅に気が付いた。
「おかえりなさい。美羽。推し活とやらはどうでしたか?」
「美羽、約束は果たしたからな。お前、美羽と一緒だったのか」
レイラと拓海は口々に出迎えてくれたが、兄だけは非常に残念がっていた。
「レイラちゃん、次の推し活の日は必ずやレイラちゃんを夢の花園に連れて行ってあげるからね!」
「お兄ちゃん、次からはレイラも連れて行くから。拓海ありがとう。レイラも無事で良かったよ!」
レイラの手を取って、私はレイラの無事を喜んだ。
「じゃあ俺はこれで」
「え? もう帰っちゃうの? 拓海も晩御飯食べていきなよ」
拓海があっさり帰ろうとしたので、私は拓海を引き止めた。
「今日はもう帰るよ。美羽の兄ちゃんの相手してたら疲れた」
「はは、ごめんね……また御礼させてね」
「拓海様、ありがとうございました。とても楽しかったですわ」
レイラが拓海に微笑みかけると、拓海の頬が赤く染まった。レイラの微笑みは拓海をも虜にするのかと感心した。
そして、そんな拓海と魔王がすれ違い様に睨み合っていたことには気付かなかった。
◇◇◇◇
晩御飯の支度をしながら、私は隣で火を操っている魔王に聞いた。
「魔王様、どうして今日迎えに来てくれたの?」
「お前の兄から聞いてな。お前が男共にうつつを抜かしに行っていると」
「間違ってはいないけど、なんか言い方が嫌だな」
「俺の顔は叩く程に嫌いなのだ。お前がうつつを抜かしている男がどれ程の男か見定めてやろうと思ってな」
やはり魔王は私が頬を引っ叩いたことを根に持っているようだ。
「魔王様、ほら味見」
機嫌を直してもらおうと、出来上がった肉じゃがを魔王の口に放り込んだ。もちろん少し冷ましてから。
「なんと! これはまた美味だ。素朴な見た目に反して絶品だ」
「でしょ」
魔王は日本食が大好きなようだ。一口食べればみるみる機嫌が直る。
私はご飯を作ることで魔王にメリットがあることをアピールせねば。このままでは、魔王に殺されかねない。
「明日からお弁当も作ってあげるからさ、ここに入り浸らずに魔界に戻ってやることちゃんとやりなよ」
「それは本当か!? それなら仕事が捗ると言うものだ」
「だから、いちいち肩掴まないでよ」
魔王は嬉しい事があると人の肩を掴む癖があるようだ。顔が近い。そして、その力強さにドキリとしてしまう。
「すまない。嬉しくて、つい。弁当の件、レイラに自慢してくる」
「いや、自慢する程のことじゃ……ま、いっか」
お弁当くらいで命が助かるなら安いものだ。これからも魔王の胃袋を掴んで延命活動に取り組もう。
そして、これをいつまで続ければ良いのか。レイラは純粋で可愛いから良いけれど、魔王は早く帰って欲しいと願うばかりだ。
そんな事を考えていたら、魔王と入れ違いに兄がやってきた。
「美羽、拓海とまた付き合い出したのか?」
「えっと……この間、街で偶然会って」
兄はやはり拓海を良く思っていないようだ。私が虐められるようになったそもそもの原因が拓海だから。拓海は何も悪いことはしていないのに。
「でも、それだけだよ。今日はお兄ちゃんがレイラと二人きりで変なことしようとしたから仕方なかったんだよ」
「それは悪かった」
やけに素直な兄に内心焦ってしまう。兄は続けて言った。
「だけど、美羽には辛い思いはして欲しくないんだ。ただでさえ母さんも父さんもいなくなったのに……」
「お兄ちゃん……私は拓海とはこれっきり、もう関わらないから安心してよ」
「美羽はそう思ってても拓海はどうかな」
「どういうこと?」
「ううん。何かあったらいつでも言えよ。お兄ちゃんがいつでも美羽を助けてやるからな。さぁ、ご飯できたなら食べよう」
「うん、ありがとう」
なんだかんだ兄は私のことを考えてくれている。久々に兄が頼もしく見えた瞬間だった。
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