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第一章 同居スタート
冤罪
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私は机にかじりついて、ひたすら空欄に文字を埋めている。それを眺めながらレイラが聞いてきた。
「美羽は何をしているの?」
「夏休みの課題。夏休み始まったばかりだけど、早めに終わらせて受験勉強したいから」
そう、私は受験生。お金のない私は特待生枠を狙う予定だ。その為には一分一秒も無駄にはできない。
乙女ゲームをやっていたのは……息抜き、そう、ただの息抜き。そういうことにしておいてほしい。
「受験って何ですの? わたくしも何かお手伝い致しましょうか?」
「ああ、そっか。ゲームの中では学園に通うの三年だけだもんね。ここには更に上の学校に行く為に試験があるんだ。その為の勉強」
「わたくし、勉強は得意ですわよ。美羽、少し見せてちょうだい」
そう言って私の課題をレイラが手に取った。
「これは……」
ゲームの中の世界は中世ヨーロッパ風、読み書きは日本語だとしても内容までは違うのだろう。レイラが見てもちんぷんかんぷんに違いない。
「十歳で習う問題ね。ここ間違ってるわよ」
「え……嘘、十歳?」
「ええ、学園に通う前に家庭教師に教えてもらうのですわ」
「え、じゃあ、じゃあ、これは? これも分かる?」
次々と課題を見せていけば、日本史と世界史以外は全て分かるそうだ。
「レイラ、凄すぎない? 私の家庭教師して……なんてね」
私と兄は二人暮らし。国からの援助と兄のアルバイトの収入だけでは生活は火の車。塾どころか家庭教師なんて雇えるお金はない。
普段は兄に教わっているのだが、夏休みはほぼアルバイト三昧。教えてもらえる暇がないのだ。
しかし、相手は侯爵令嬢。家庭教師なんて引き受けるはずがないと冗談半分で言ってみたのだが、レイラの応えは……。
「良いですわよ。居候させて頂いている身ですものね」
「神だ。いや、女の子だから、女神様か。レイラが女神様に見える……」
「では、分からない所があったら言ってちょうだい。わたくしは、その日本史とやらを読んでみますわ」
◇◇◇◇
「さすがレイラ。教えるの上手だね! 今日の目標どころか、明後日までの目標達成しちゃったよ」
嬉しくて鼻歌まで歌っていると、レイラが日本史の教科書をパタンと閉じて言った。
「日本とは奥が深いですわね。面白かったですわ」
「え、もう全部読んじゃったの?」
「ええ、暗記もしたのでいつでも質問してもらって構いませんわよ」
「え? 読み始めて、まだ三時間しか経ってないよ……」
私の勉強も教えながらなのに、悪役令嬢の集中力は凄まじい。
「レイラはどんな仕事でも就けそうだね」
「仕事ですか?」
「日本では女性も仕事をするんだよ。結婚しても子育てや家事しながら両立してる人沢山いるよ」
「素晴らしいですわね! どのような職があるのかしら。美羽は何になりたいの?」
「私は人を助ける仕事がしたいんだ。ああ見えてお兄ちゃんも医学部に通ってるんだよ」
——それから仕事や夢についてレイラと語り合った。レイラは王太子妃になる教育しかしてこなかった為、日本の様々な職について興味津々だった。そして、レイラは言った。
「わたくし、元の世界に戻るのはやめて、ここで生きていこうかしら」
「え、でもご家族も心配してるんじゃ……?」
「わたくし修道院送りにされてしまいましたので、家族もいないに等しいのですわ」
「レイラ……」
「気にしないで。美羽とこうして会えたのも、違う世界に来られたのも断罪されたおかげなのですから」
そうやって眉を下げながら笑うレイラを見ると、こちらが泣きたくなってきた。私はこの何とも言えない気持ちを誤魔化すように、この世界にはいない王太子に文句を言った。
「でもさ、ヒロインを虐めて殺害を目論んでいたのはレイラが悪いけど、殺害は目論みだけなんだし、断罪までするの酷いよね。注意くらいで良いじゃんね! それにさ……」
「わたくし、虐めなんてしていませんのよ」
「へ……? じゃあ何で?」
「殺害なんてもっての外ですわ。何故か分かりませんが、シャーロットがわたくしの前で急に転けたり、悲鳴をあげるのです。それをわたくしのせいにされたり、わたくしが罵ったと声をあげて皆に言うのです」
「それって……自作自演?」
「そういうことになりますわね。サイラス殿下に何度も説明したのですが、何故かシャーロットの言うことしか聞かないのです」
レイラが我が家に来てから悪役令嬢っぽくないなと感じたのは、元々悪役令嬢ではなかったからなのだと理解した。
「でも、ゲームではわざと転けるとかの選択肢はないんだけどなぁ……」
「わたくしは嘘は言っておりません!」
レイラがムスッとしたので、急いで謝罪した。
「ごめん、そういうつもりじゃなくてシャーロットがおかしいなって思って。ゲームではしっかりとレイラが突き飛ばすシーンもあるの。だけど、レイラ突き飛ばしてないんでしょ?」
「ええ。指一本触れたことはありませんわ」
もしかしたら、レイラの世界はゲームの世界と似て非なるものなのかもしれない。若しくは、故意に誰かがそうなるよう仕向けているのか。
そうだとすれば、ヒロインシャーロットはレイラが悪役令嬢だと知っていてわざと自作自演している。
「シャーロットはゲームの存在を知ってる転生者だったりして……なんてね」
「その通りだ」
「やっぱり? て、誰?」
レイラの肩を抱きながら黒髪黒目の日本人にも見える超絶イケメンが頷いている。レイラはキョトンとした顔でイケメンを見上げながら言った。
「魔王様? 何故ここに?」
「魔王様? え、あなた魔王様なの? 迎えに来るの早くない? レイラ来たの昨日だよ」
「美羽は何をしているの?」
「夏休みの課題。夏休み始まったばかりだけど、早めに終わらせて受験勉強したいから」
そう、私は受験生。お金のない私は特待生枠を狙う予定だ。その為には一分一秒も無駄にはできない。
乙女ゲームをやっていたのは……息抜き、そう、ただの息抜き。そういうことにしておいてほしい。
「受験って何ですの? わたくしも何かお手伝い致しましょうか?」
「ああ、そっか。ゲームの中では学園に通うの三年だけだもんね。ここには更に上の学校に行く為に試験があるんだ。その為の勉強」
「わたくし、勉強は得意ですわよ。美羽、少し見せてちょうだい」
そう言って私の課題をレイラが手に取った。
「これは……」
ゲームの中の世界は中世ヨーロッパ風、読み書きは日本語だとしても内容までは違うのだろう。レイラが見てもちんぷんかんぷんに違いない。
「十歳で習う問題ね。ここ間違ってるわよ」
「え……嘘、十歳?」
「ええ、学園に通う前に家庭教師に教えてもらうのですわ」
「え、じゃあ、じゃあ、これは? これも分かる?」
次々と課題を見せていけば、日本史と世界史以外は全て分かるそうだ。
「レイラ、凄すぎない? 私の家庭教師して……なんてね」
私と兄は二人暮らし。国からの援助と兄のアルバイトの収入だけでは生活は火の車。塾どころか家庭教師なんて雇えるお金はない。
普段は兄に教わっているのだが、夏休みはほぼアルバイト三昧。教えてもらえる暇がないのだ。
しかし、相手は侯爵令嬢。家庭教師なんて引き受けるはずがないと冗談半分で言ってみたのだが、レイラの応えは……。
「良いですわよ。居候させて頂いている身ですものね」
「神だ。いや、女の子だから、女神様か。レイラが女神様に見える……」
「では、分からない所があったら言ってちょうだい。わたくしは、その日本史とやらを読んでみますわ」
◇◇◇◇
「さすがレイラ。教えるの上手だね! 今日の目標どころか、明後日までの目標達成しちゃったよ」
嬉しくて鼻歌まで歌っていると、レイラが日本史の教科書をパタンと閉じて言った。
「日本とは奥が深いですわね。面白かったですわ」
「え、もう全部読んじゃったの?」
「ええ、暗記もしたのでいつでも質問してもらって構いませんわよ」
「え? 読み始めて、まだ三時間しか経ってないよ……」
私の勉強も教えながらなのに、悪役令嬢の集中力は凄まじい。
「レイラはどんな仕事でも就けそうだね」
「仕事ですか?」
「日本では女性も仕事をするんだよ。結婚しても子育てや家事しながら両立してる人沢山いるよ」
「素晴らしいですわね! どのような職があるのかしら。美羽は何になりたいの?」
「私は人を助ける仕事がしたいんだ。ああ見えてお兄ちゃんも医学部に通ってるんだよ」
——それから仕事や夢についてレイラと語り合った。レイラは王太子妃になる教育しかしてこなかった為、日本の様々な職について興味津々だった。そして、レイラは言った。
「わたくし、元の世界に戻るのはやめて、ここで生きていこうかしら」
「え、でもご家族も心配してるんじゃ……?」
「わたくし修道院送りにされてしまいましたので、家族もいないに等しいのですわ」
「レイラ……」
「気にしないで。美羽とこうして会えたのも、違う世界に来られたのも断罪されたおかげなのですから」
そうやって眉を下げながら笑うレイラを見ると、こちらが泣きたくなってきた。私はこの何とも言えない気持ちを誤魔化すように、この世界にはいない王太子に文句を言った。
「でもさ、ヒロインを虐めて殺害を目論んでいたのはレイラが悪いけど、殺害は目論みだけなんだし、断罪までするの酷いよね。注意くらいで良いじゃんね! それにさ……」
「わたくし、虐めなんてしていませんのよ」
「へ……? じゃあ何で?」
「殺害なんてもっての外ですわ。何故か分かりませんが、シャーロットがわたくしの前で急に転けたり、悲鳴をあげるのです。それをわたくしのせいにされたり、わたくしが罵ったと声をあげて皆に言うのです」
「それって……自作自演?」
「そういうことになりますわね。サイラス殿下に何度も説明したのですが、何故かシャーロットの言うことしか聞かないのです」
レイラが我が家に来てから悪役令嬢っぽくないなと感じたのは、元々悪役令嬢ではなかったからなのだと理解した。
「でも、ゲームではわざと転けるとかの選択肢はないんだけどなぁ……」
「わたくしは嘘は言っておりません!」
レイラがムスッとしたので、急いで謝罪した。
「ごめん、そういうつもりじゃなくてシャーロットがおかしいなって思って。ゲームではしっかりとレイラが突き飛ばすシーンもあるの。だけど、レイラ突き飛ばしてないんでしょ?」
「ええ。指一本触れたことはありませんわ」
もしかしたら、レイラの世界はゲームの世界と似て非なるものなのかもしれない。若しくは、故意に誰かがそうなるよう仕向けているのか。
そうだとすれば、ヒロインシャーロットはレイラが悪役令嬢だと知っていてわざと自作自演している。
「シャーロットはゲームの存在を知ってる転生者だったりして……なんてね」
「その通りだ」
「やっぱり? て、誰?」
レイラの肩を抱きながら黒髪黒目の日本人にも見える超絶イケメンが頷いている。レイラはキョトンとした顔でイケメンを見上げながら言った。
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