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第六章 二人目の転生者

各々の修行の成果

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 本日も朝からギルドの依頼をこなす為、村里離れた場所にある崖下に来ている。

「誰だよ。ワイバーンの卵で作ったオムレツを食べたいなんて言ったやつ」

「はは……誰だろうね」

 今回の依頼はワイバーンの卵の採取。この崖の上にワイバーンの巣があるらしい。

「だけど、あいつらみたいにこの崖登らなくて良いから楽勝だな」

 ジェラルドは小馬鹿にするように、崖をよじ登っているアーサー率いるパーティを指さした。

「ジェラルド、聞こえてるよ。メガネとマッチョが凄い睨んできてるよ」

「事実だからしょうがないよ」

「リアムまで……」

「何でも良いけど、早く行こーぜ」

 キースに促され、俺は皆を崖の上まで転移させた——。

「問題はここからだね」

 一気に皆の緊張感が高まったのが分かった。

 二体のワイバーンが卵を守るように空を飛び回っている。時折口から火を吹き、周囲を警戒しているように見える。卵に近付こうものなら、一瞬で丸焦げになりそうだ。

「何だかグリフォンとの戦いを思い出すよな」

「あの時は苦戦したよね。もしかして、ワイバーンも赤い色が好きだったりするのかな?」

 皆が上から下まで真っ赤なリアムを見た。リアムは苦笑しながら応えた。

「ワイバーンはドラゴンみたいなものだから大丈夫だと思うよ。反対に今回はこのマントが役に立つかもね」

 リアムは赤いマントを脱いで俺に着せてきた。

「ちょっと大きいけど、似合うよ」

「でもこれリアムの……」

「僕とノエルの周りに結界張ってよ。条件としては……ワイバーンの侵入と火を防ぐことかな。こっちも実戦で使ってみないと本番で上手くいかないかも」

「そうだね。分かった」

「では、宜しくお願い致しますね」

 ノエルが、さも当たり前のように俺とジェラルドの手を繋がせた。

「これ、毎回繋がないと駄目なの?」

「お二人の結界がまだ絡み合っていませんもの。それぞれで出来るようになっても、魔王相手には敵わないかもしれません。より強力な結界にする為ですわ」

「本当に絡みあったりするのかな」

 見た目も形も違う、俺とジェラルドの結界が絡み合うことなどあるのだろうか。疑問は残るが、結界を張ればリアムやノエルのことを心配せずに皆が戦いに集中出来るのは確かだ。

「ボクのこと忘れてない?」

「え? ショーンのことも忘れてないよ……うん」

 疑いの目で見てくるショーンをよそに、ジェラルドが心配そうに言った。

「結界、小さくできるかなぁ」

「ジェラルド様、妹が婚約者のマントを身に纏っていると思えば、寂しさで結界の大きさを小さく出来るはずですわ」

「なるほど」

 納得するのかジェラルド……。

 ジェラルドが俺のマントに付いているフードを被せてきた。と、同時にジェラルドの表情が一変、儚げなものになった。

「リアムばかりじゃなくて、たまには兄貴のことも思い出してくれよ」

 寂しそうに言うジェラルド。とても演技には見えない。しかし、これも俺達の結界が未熟故の兄妹ごっこ。民を守りきれなくて、辛い思いをしないようにとジェラルドの配慮だ。俺も頑張らなければ。

「ジェラルドお兄様のことは嫁いでも忘れません」

「オリヴィア……」

 そして、二人で結界を張った。

 今までで一番上手くいったかもしれない。大きさも丁度良い。

「ねぇ、ジェラルド。オリヴィアって何?」

「可愛い女の子の名前の方が良いかなって。リリーは嫌だろ?」

「うん。リリーは嫌かな」

 ベンとの嫌な思い出しか蘇らない。

「よし、俺達も参戦しようぜ」

「うん」

 結界を張る為の茶番をしている間にも、エドワードとキースがワイバーンと戦ってくれていたのだ。有り難い。


 ◇


「キースの炎凄くない? あんなに炎出てたっけ」

 キースが剣を振るうとワイバーンを丸々包む程の炎が出てきたのだ。それでも、ワイバーンは炎に耐性があるのかあまりダメージは受けていない。

 俺の疑問にエドワードが応えた。

「ワイバーンの火を剣に浴びせてから、カウンターで返してるんだよ。魔石の効果と相まって更に大きな炎になってるみたい」

「なるほど」

「ただ、火を剣だけに浴びせるのって難しいから、キースが火傷しないように僕が魔法でキースの体に水をかけてるんだけどね」

「だから、キースはあんなにびしょ濡れなんだ」

 納得していると、もう一体のワイバーンがジェラルド目掛けて火を吹いた。ジェラルドは氷のシールドを張り、上の方から氷の槍をワイバーンの翼目掛けて放った。

 しかし、氷の槍は容易く避けられた。氷の槍は地面に突き刺さり、地面が槍を中心に半径二メートル程度凍った。

「ジェラルド、地面が凍ったよ! 前はそんな効果無かったよね?」

「凄いだろ。あの槍には二重で魔法がかけられてるんだ。だから、あれが刺さりさえすればワイバーンも凍るはずだ。多分な」

 得意げにジェラルドが言えば、エドワードも剣に水魔法を付与させ、キースと前衛後衛を交代した。

「僕だって……キース!」

「おう!」

 交代する際に、エドワードがキース目掛けて剣に付与された水をかけた。ハイタッチのようなものだろうか。

 エドワードは真正面から防御もせずにワイバーンに突っ込んだ。

「エドワード、危ない!」

 ワイバーンは真正面からエドワードに火を吹いた。俺の心配をよそに、エドワードは火を一刀両断しながら走っている。切ったところから水蒸気が出ているが、エドワードは火傷一つしていなさそうだ。

 ワイバーンの真下まで行くと、エドワードは跳び上がった。そこへ、後ろからキースがエドワードに両手をかざした。

「うわ、跳んだ」

 先程ハイタッチだと思ったのはこの為だったようだ。エドワードの水魔法をキースがカウンターで噴射するように出している。

 更に跳び上がったエドワードは、剣をワイバーン目掛けて振り下ろした。

「ヒギャァ」

 咄嗟に避けられたので急所には至らなかったが、ワイバーンの足を片方切り落とした。

 エドワードは格好良く地面に着地した。
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