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第四章 光魔法と闇魔法

女装させる理由

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「やっと普通の格好に戻れたよ」

「はは、災難だったね」
 
 今日はエドワードと同室なので良かった。ジェラルドかリアムなら夜中まで女装を強要されかねない。まさか、二人共そんなに妹が欲しかったなんて。

 エドワードはベッドに寝転がって言った。

「捜索依頼とか出てなかったから良かったね」

「だね。孤児を探すメリットなんてないもんね。灯り消すよ?」

 俺は灯りを消すと、布団に潜った。

 ——そして時は経過し、宿泊者が皆寝静まったであろう時間帯。

「眠れない」

 昼寝をし過ぎて一向に睡魔が押し寄せてこない。目を瞑って寝返りを打つと、シンとした部屋に甘い匂いが漂っていることに気が付いた。

 匂いの正体を考えていると、僅かではあるが足音が聞こえた。その足音はゆっくりと確実にこちらに向かって来ている。

 俺は警戒し、隣で寝ているエドワードを起こした。

「エドワード、起きて」

「んん……」

 寝ぼけたような声を出すエドワードだったが、こちらに向かってくる何かの気配を察知し、完全に覚醒したようだ。ベッドサイドに置いてある剣に手をかけた。

 何かが近づいて来るにつれ、甘い匂いは強くなってくる。

 あれ、頭がボーッとする。

 カタンッ。

 エドワードが剣を落とした。

「オリヴァー、これ、嗅いじゃダメだ」

 エドワードは袖で口元と鼻を押さえるが、既に剣も持ち上げられない程に力が入っていない。俺も力が入らず、起き上がれない。

「リリー、あれ程男の子の部屋に入ったらいけないと教えたのに。それに、こんな男みたいな格好をして」

 この声はベンだ。何故ここに?

「頭がぼーっとするんだろう? 無理に喋らなくて良いから。さぁ、帰るよ」

 ベンはそう言って俺を抱き抱えた。

「待て、オリヴァーを何処へ……」

 エドワードが俺のシャツを掴んだ。しかし、その手に力は殆ど入っていない。ベンによって軽く払われた。

「汚い手でリリーに触るな。さぁ、もう大丈夫だよ」

 狂気的な笑みを浮かべたベンを見ながら、俺は意識を手放した——。


 ◇


 ビリビリビリ、ビリビリ。

 薄っすらと目を開けると、見覚えのない天井が目に入った。視線を音のする方へ移すと、そこにはベンがいた。

 俺は宿での出来事を思い出した。俺はどうやらベンに連れ戻された。いや、誘拐された? どっちにせよ、ベンの元にいるようだ。

「あ、それ」

 ベンが俺の服を手で引き裂いていた。ビリビリという音は、衣服が引き裂かれている音だった。

「リリー、起きたのかい?」

「何で?」

 俺の引き裂かれた服をベンは乱暴にゴミ箱に突っ込んだ。

「こんなのいらないだろ? リリーは女の子なんだから」

 俺は自身が着ている服を見た。そして髪を触った。

 またか……。

「俺をどうしたいんだ?」

「ダメじゃないか。俺なんて。ちゃんと教えただろう?」

 ベンは張り付けたような笑みを見せてきた。

 内部調査も終わったし、もうベンの変な趣味に付き合う必要はない。帰らせてもらおうと起き上がると、カチャッと金属の音が聞こえた。

「何これ」

 よく見ると、俺の首には首輪が付けられ、鎖で繋がれていた。鎖の先はベッド柵に繋がっていた。そして、部屋に窓はない。完全に監禁されている。

「リリーがまた攫われないようにだよ。こうしてたら、誰も連れていけないだろう」

「いや、あれは……」

 攫われたのではないと言おうとした時、壁にかけられた肖像画が目に入った。

 ベンは俺の視線の先に気付いたようだ。優しい口調で言った。

「覚えてるかい? これは家族旅行に行った時に描いてもらったやつだよ」

 覚えてるも何も、ベンとは数日前に知り合ったばかりだ。

 それよりも、そこに描かれている黒髪の女の子の服、今俺が着ている服と同じだ。顔も似ているような似ていないような……俺の方が可愛く見える。

 いや、決して自分の顔に自信があるというわけではなく、素直な感想……じゃなくて、きっと絵のせいだ。この肖像画を描いた人が下手だったのだろう。ノエルが描けばもっと可愛いお姫様になるはず。

 後半どうでも良いことを考えてしまったが、俺は恐る恐るベンに質問してみた。

「えっと、その子の名前は?」

「自分の名前も忘れたのかい?」

 嫌な予感が胸をよぎる。

「リリーだよ」
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