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第一章 幼少期

二と三を間違える

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 あっという間に二週間が経ち、第二王子イアン・ウィルモット十歳の誕生日パーティーが開かれた。

 早々に俺とノエルは王家への挨拶を済ませた。

「ノエル、これ以上は近づくのは難しそうだよ。祝われる人はあそこから動かないんだから」

 遠回しにこれ以上王家に近づくなと言っているのだが、ノエルは得意げに言った。

「大丈夫ですわ。お兄様が主人公であるならば必ずや出会いのチャンスがあるはず」

 つまり、主人公でなければ出会わないということだ。

「お兄様、こちらですわ」

「どこ行くの?」

 ノエルが辺りを見渡しながらコソコソと歩いているので、その後ろを俺は堂々と歩いた。

「終始あそこに座っている人なんていませんわ。一度は休憩に入るはずなのです」

「でも何でこんな裏に回るの? パーティー会場あっちだよ」

 パーティー会場とは離れた場所にある回廊に辿り着いた。

「漫画やアニメでは、こういった回廊が背景に描かれているのですわ。出会いイベントがあるとすればきっとここに違いありませんわ」

 まんが? あにめ? 

 ノエルは、また新たな言葉を考えだしたようだ。その発想力はすごいと思う。ただ、やっていることがしょうもない。

 俺とジェラルドの結婚、つまり同性同士の結婚を認めてもらおうと、王家の人間とお近づきになる作戦。正直早く帰りたい。

「こちらに隠れて待ってみましょう」

 俺とノエルは柱の影に隠れて人が通るのを待った。

 数十分後——。

「誰も通らないよ」

「おかしいですわね」

「ノエル、パーティー会場戻ろうよ」

「そうですわ! わたくしがいるからいけないのかもしれません。こういうのは二人きりで出会うものなのですわ」

 閃いたとばかりにノエルは言うが、一人になったからといって出会えるなら苦労はしない。

「はいはい。俺が一人で歩いたら良いの?」

「はい! そこはかとない表情で歩いて下さいませ」

 そこはかとない表情とはどんな表情だろうか。いざしろと言われれば分からない。

 こんな感じかな? それっぽい感じの表情を作って端の方から回廊を歩いてみた。十歩くらい歩いたところで、俺は一体今何をしているのだろうかと自分の行動に呆れていると、前の方から少年が歩いてきた。

 嘘、本当に? 

 逆光になって顔が見えずらいが、服装が先程見たイアンの服装とは違った。

 なんだ。一瞬本当に自分は主人公なのかと錯覚してしまった。

 そのまま何食わぬ顔で軽く会釈をして通り過ぎてみると、名前を呼ばれた。

「ねぇ、もしかして、オリヴァー・ブラウン?」

「え?」

 驚きの余り振り返ると、そこには赤髪の目がクリッとした可愛らしい少年が立っていた。もちろん知らない人だ。

「どうして俺の名を?」

「ピンクの髪は珍しいから」

 そうかもしれないけれど……もしかして外で俺は有名人だったりするのだろうか?

「君の名を聞いても?」

「リアムだよ。リアム・ウィルモット」

 どこかで聞いたような……ウィルモット……この国の名前だ。

「え? 王族? あ、申し訳ございません」

 俺は咄嗟に謝罪した。するとリアムは困った顔をしながら応えた。

「良いよ。僕は表に出ないから顔が知られてないんだ。一応、この国の第三王子だよ」

「お初にお目にかかります」

「かしこまらないで良いよ。歳も同じなんだし」

「ありがたき……いえ、ありがとうございます」

 しかし、何故俺の名前と年齢まで知っているのか。聞いても良いものだろうか。

「あのー」

「君度胸あるよね。顔も知らないのに手紙寄越すなんて」

「は? 手紙?」

「君じゃないの? これ」

「少々拝借しても?」

 リアムから手紙を受け取り、封筒の裏を見た。宛名にはしっかりと書いてあった。俺の名が。しかし、この字は俺ではなくノエルの字だ。

 そして、中の便箋を出して開いて見ると長々と名前から好きな食べ物、趣味など事細かに俺の自己紹介が書かれていた。そして、今日この日に回廊で待っていることも書かれている。

「なんでこんな手紙送ってきたの?」

「あ、えっと……」

 リアムの顔はやや怒っているように見える。不敬で罰せられるのかもしれない。ノエルが勝手に送ったと言えば、ノエルだけが悪者になってしまう可能性もある。妹のしたことは兄の責任。

「申し訳ございません。リアム殿下と親しくなりたかったものですから」

「顔も知らなかったのに?」

「はい、駄目でしょうか?」

 恐る恐るそう言うと、リアムはふっと笑った。

「良いよ。僕の側近にでもなる?」

「そんな……畏れ多いです」

「冗談だよ。とりあえず来週遊びに行くね」

 リアムはニコリと笑って去っていった——。

 何とか乗り切ったが心臓に悪い。何だったんだ今のは。

「お兄様!」

 ノエルが柱の影からヒョコッと嬉しそうに出てきた。

「ノエル駄目じゃないか! 勝手に便りなんて出したら。しかも知らない人に」

 俺が叱るとノエルは口を尖らせながら言った。

「知らない人ではありませんわ。わたくしはしっかりと第二王子様宛にお手紙を出しましたわ。本日挨拶を済ませたので、もう知り合いも同然ですわ」

「さっきのは第三王子だったよ。挨拶も済ませてないから知らない人だよ」

「え、マジ? いえ、それは本当ですの?」

「ノエルのことだ、二と三を書き間違えたんでしょ。まぁ、過ぎたことはしょうがない。来週うちに遊びに来るそうだよ」

 その言葉を聞いた瞬間、ノエルの顔がパァッと明るくなった。

「つまりは、王族の方とお近づきになれたというわけですわね! 二と三は違えども計画成功ですわ」

 手放しで喜ぶノエル。

 ——このリアムとの出会いは今後俺の人生を大きく左右することに。
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