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第五章 人類滅亡一歩手前

レナ

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 翌朝、俺は帰宅した。

「お義兄様! 体調は大丈夫ですの!?」

「フィオナ、ごめんな」

 フィオナには体調不良でアレンのところに泊まると言ってあったようだ。嘘ではない。嘘ではないのだが、この居た堪れない気持ちは何だろうか。まるで浮気をして帰って来たときのような気分だ。
 
 フィオナと目が合わせられない。まだ体調が万全ではないと勘違いされ、学園は休むよう言われた。

「嫌だ。学園は行く」

 部屋でじっとなんてしていたら罪悪感に押しつぶされそうになる。何かをしていないと。

「お義兄様……」

「分かった。今日一日だけ休むから」

 フィオナの心配そうな顔を見たらこれ以上何も言えなかった。

◇◇◇◇

 初めて学園を休んだ。俺がいなくても誰も何とも思わない。クリステルとステファンの姿がツーショットで見られて最高、とでも思っているはずだ。

 そういえば、あの後ステファンはどうなったのだろう。転移でアレンと帰ったのでステファンには何も伝えていないはず。

「ルイ、ステファンはどうしているか知ってるか?」

「それでしたら、何やらデートしていた女性が体調不良になられたようなのですが、目を離した隙に馬車から失踪したと仰っていましたよ」

「そうか」

「それから、捜索願いを出して今も屋敷中の使用人総出で探しているんだとか」

 俺のせいではないが、悪い事をしたな。

「手紙でも書くか」

 流石にもうクララになってステファンに会うつもりはない。そんな気力もない上、これ以上心優しいステファンを振り回したく無い。

 早速、便箋と封筒を用意して、先日の謝罪と結婚は出来ない旨、探さないで欲しいこと等、思いつく限りの謝罪を文に記した。

「ルイ、これステファンに出しといてくれ」

「承知致しました。これって……」

 迂闊だった。クララの名前を書いてそのまま渡してしまった。

「ステファンには秘密だぞ。あれは俺だ」

 ルイは驚いていたが、そこは執事の鑑、深掘りして聞いてくることはない。だが、言い訳をしたくなってくるのが人というものだ。

「別に揶揄っていた訳じゃない。言い出せなかっただけだ」

「分かっておりますよ。クライヴ様はお優しい方ですからね」

 優しくなんてない。優しかったらフィオナがいるのに、応急処置だとは言えあんなこと……。

 ダメだ。やはりすぐネガティブ思考になってしまう。

「ルイ、ちょっと付き合ってくれ」

「承知致しました」

◇◇◇◇

 俺は再び、占いの館の前にいる。今度は普通にクライヴとして。念の為ルイも連れてきた。

 情けない話だが、一度行ったとしてもお化け屋敷のようなあの館に一人で乗り込む勇気はない。

 前回同様、薄暗い廊下を歩いていくと占い師がいた。

「いらっしゃい」

「聞きたい事がある」

 水晶越しに俺を見て、直ぐに誰か分かったようだ。占い師は言った。

「どうでしたか? 効果抜群だったでしょう」

「最悪だ。何故あんなものを渡した」

「上手くいかなかったのですか?」

「どういう意味だ」

 占い師は不思議そうに言った。

「あの方と結ばれたかったのでしょう? だから精神に干渉する方法を聞いてきたのでは?」

「違う。あいつとはただの友人だ」

「だって、あんなに腕をギューッて握ってたではありませんか」

「そ、それは……」

 ただ、この館の雰囲気が怖かったからだとは恥ずかしくて言えない。

「とにかく、俺からしたら迷惑でしかなかった」

「うぅ……そんなに言わなくても良いじゃない。私、良かれと思ってやっただけなのに」

 この事件は、占い師の余計なお世話が招いた出来事だったのかもしれない。

 それより、この占い師、フードを被って顔は見えないが、初めは年配の方かと思っていた。しかし、話す度、話し方が徐々に変わってきて幼く感じるのは気のせいか。

「悪気が無かったのなら良いです。それでは」

「え、今日は占って行かないの?」

「占うことありませんから」

 そう言って立ち去ろうとすると、俺の近くまで来て頭を下げた。

「この間はごめんなさい。謝るからもう少しここにいてくれませんか?」

 俺はルイと顔を見合わせ、占い師に向き直って言った。

「謝罪は受け取りました。何故呼び止めるんですか?」

 すると占い師はガバッと顔をあげた。その瞬間フードがズレて顔が出てきた。そこには十歳くらいの黒髪の少女の姿があった。

「私、ここで独りぼっちなの。寂しいの」

「えっと……」

 何から突っ込めば良いのだろうか。ひとまず椅子に座り直して、向かい合って座った。そして迷子センターで聞くような質問をしてみる。

「お母さんかお父さんは? 名前は? 何歳? ここにはいつから一人なんだ?」

「私はレナ。母と二人暮らしだったけど、二年前に死んだの。それからずっと一人。今年十二歳よ」

 てことは十歳の頃から一人で暮らしているのか。ルイも同じ事を思ったようで俺に言った。

「孤児として施設に保護してもらった方が良いのでは」

「嫌よ。嫌だからここで大人のフリして働いていたのよ」

「占いは本当に出来るのか? 詐欺とかじゃないよな」

 疑いの目を向けると、レナはムッと頬を膨らませて言った。

「占いの腕は確かよ。常連さんだっているのよ」

「そうか。それなら良い。身の回りのことはどうしてるんだ?」

 この館を見る限り、清潔とは程遠い。

「占いで稼いだお金は大体食事に回るわ。他は二の次ね」

「ルイ、一旦この子を連れて帰ろう」

「ですが……承知致しました」

 こうして、孤児のレナを一人連れ帰ることとなった。
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