88 / 104
87話 神々の雑談 SIDE( )
しおりを挟む次の日まだまだ足りないものがあるからと、シズとジャモンと一緒に買い物に出た。祭りは終わり、街の人はシズがこっちに来た日よりずっと少なかった。
「シズの服とかもかわないとね。いつまでもその格好だと」
上下ジャージ姿のシズを見てジャモンが言った。すれ違う膝丈のワンピースを着た女性を目で追う。
「ここの女ってあんな格好が主流?」
ジャモンもワンピースを見るとスカートが多いかなと言った。
「けどズボンをはいてる女性も結構いるよ。とりたてて珍しいことではない」
「へえ」
思ったほどは窮屈じゃなさそうではなく、よかったとシズはほっとする。
「城人も男女問わず制服ズボンだしね」
ジャモンはついでに教えた。ジャモンにお金を貰うとジャモンが食材を買っている間に、シズは服屋に入って適当に服を買った。下着を買うときにまた男に間違われ、乳を揉むかといえば謝ってくれ、さらにまけてくれた。
「あ、靴下買わなきゃ」
シズが独り言を零した時、背後から強烈な悲鳴が聞こえた。
「なんだ? 」
悲鳴が聞こえた方をみると人々が上の方を見ていた。その先は紫アパートの三階のベランダだった。
「子どもが! 」
「おい! 落ちるぞ! 」
五歳ぐらいの子どもがベランダの柵の上にまたがっていた。
「ぼうや! 落ちるぞ! 」
そう叫んだ白い髭のじいさんにシズは見覚えがあった。そのじいさんの言葉を喜ぶように子どもは下に手を振った。
「手を離すな! 落ちるぞ! 」
「おい、じいさん」
シズが声をかけるとじいさんは目を見開いた。
「あんたは城人さんともめて橋から飛び降りて華麗なる着水を決めさらに見事な泳ぎを見せたこの間の……! 」
「なげーよ。それよりこれ持ってて」
シズは買ったものをじいさんに押し付け持たせた。
「くれるのか? 」
「あげねーよ。ちょっと持ってて。盗むなよ」
シズはじいさんから離れ、十分な助走距離をとる。いけても二階まで。そこから一気に三階の柵を掴もう。シズはイメージをして走り、跳んだ。右足で踏み切り、壁を二歩歩くと二階の柵の上を蹴ってどうにか三階の柵の下を掴んだ。足をあげ柵の間に足をかけると、シズは子どもと目があった。
「すごいあの子! 飛んだわよ」
下から歓声が聞こえた。子どもはシズのことを喜び、両手を上げてこっちにこようとした。
「ちょっ! 」
子どもの体重が外側に倒れる。歓声が悲鳴に変わる。傾く子どもにシズは腕を伸ばし飛びついた。子どもを掴んだ感触を確かめると内側に引っ張りこんだ。そして背中からベランダにドスンと落ちた。人の気も知らず胸の上で子どもがきゃっきゃはしゃいでいる。
「なに? 」
ベランダに子どもの母親らしき人が現れた。母親は飲み込めない状況を見て絶句していた。シズは苦笑いをした。
「お、お邪魔してます」
子どもは楽しそうに笑い続けた。
事情を知ると母親は何度も何度もシズに頭を下げた。シズは気にしないでとしつこくいうと階段で下におりた。
「やっぱあんた、ただもんじゃないな! 」
じいさんがシズに駆け寄ってきた。
「それはどうも。荷物ありがとう」
シズはじいさんから荷物を受け取るとジャモンを見つけた。
「ジャモン。もしかして見てた? 」
「見てたよ。三階まで行くなんて信じられないよ。シズは凄い身体能力の持ち主なんだな」
「言っただろ。体が弱い設定は無理があるって」
ジャモンは本当にな、と笑った。
「足速いんだ。泳ぐのも得意。あと喧嘩も」
シズが自慢気に言えばジャモンは急に閃いた、と大声を出した。
「何を? 」
「突破口をだよ」
「え? 」
シズは首を傾げる。
「シズが元の場所に帰るにはカーネスさんを捕まえてしかるべきことをすることだ。それができる可能性があるよ! 」
「え! なんだよ! 」
シズは食い付いた。
「シズがヨンキョクになればいいんだ」
「……は?」
「お疲れ様です、ストム副局長。学校の方に来るのは久しぶりですな」
城の敷地内にある「アベンチュレ青少年学校」の事務室に七局副局長のカル・セドニはいた。
「呼ばれてきた帰りだ。来月は入学試験だからな」
「試験官するんですってね」
「今年はクラスを持つ」
セドニがうんざりした顔を隠さず出すと事務長はおかしそうに笑った。
「仏頂面にしては正直者ですな、セドニ副局長」
「よけいなお世話だ」
無愛想に言ってセドニは事務室を後にした。
学校は右棟、左棟の二つに分かれており二階にある渡り廊下で繋がれている。左棟の二階にある事務室を出たダズは渡り廊下のあるところで足を止めた。
渡り廊下には歴代の学校の入学者の集合写真が飾られている。スペースの関係上飾られているのは過去十五年分だ。学校は終戦後に設立され終戦記念日と同じく今年で百周年を迎える。そのため今年の入学者達は記念すべき百期生だ。
セドニは九十七期生、三年前の集合写真を見入った。そしてある男の顔を見つける。
「同じ顔か」
セドニは眉間に皺を寄せ、写真の前から立ち去った。
177
お気に入りに追加
769
あなたにおすすめの小説

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!
小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。
しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。
チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。
研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。
ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。
新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。
しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。
もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。
実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。
結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。
すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。
主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。
転生少女、運の良さだけで生き抜きます!
足助右禄
ファンタジー
【9月10日を持ちまして完結致しました。特別編執筆中です】
ある日、災害に巻き込まれて命を落とした少女ミナは異世界の女神に出会い、転生をさせてもらう事になった。
女神はミナの体を創造して問う。
「要望はありますか?」
ミナは「運だけ良くしてほしい」と望んだ。
迂闊で残念な少女ミナが剣と魔法のファンタジー世界で様々な人に出会い、成長していく物語。

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ
犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。
僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。
僕の夢……どこいった?
黒の創造召喚師
幾威空
ファンタジー
※2021/04/12 お気に入り登録数5,000を達成しました!ありがとうございます!
※2021/02/28 続編の連載を開始しました。
■あらすじ■
佐伯継那(さえき つぐな)16歳。彼は偶然とも奇跡的ともいえる確率と原因により死亡してしまう。しかも、神様の「手違い」によって。
そんな継那は神様から転生の権利を得、地球とは異なる異世界で第二の人生を歩む。神様からの「お詫び」にもらった(というよりぶんどった)「創造召喚魔法」というオリジナルでユニーク過ぎる魔法を引っ提げて。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる