Leaf Memories 〜想いの樹木〜

本棚に住む猫(アメジストの猫又)

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狂ったモノに生まれる葉

毒聖愛

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神様、僕が愛してしまったあの子を許してください。

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もう死んでしまった君を愛してもこの部屋は1人きりだ。

あの子が持ってた本に書かれてるものが、あの子自身なら僕はなぜあの子を生きてる内に知れなかったのだろうか。

あの子を知った時点で、全てが過ぎ去った後でも僕が必ず覚えてるから。

あの子を置いてこの世を生きる僕を許しておくれ。

寄れたシャツを洗いに出した後、あの子が置いていったこの部屋を僕はなぜあの子が居ないのに1人たたずんでいるのだろう。

あの子が一人ぼっちであったことを知ることが、せめてもの手向けであろう。

あの子が生きていたらどんな人になったのだろう。

僕を見つめてくれたのだろうか。

僕は神様に愛された人間だから、愛した人がいつもどこかで排除されていく。

あの子もきっとそうなのだろう。

僕は、神様以外を好きでいてはいけないのだろう。

そんなことを知っておきながら、僕はあの子を、人を好きになってしまう。

僕はやはり人間なのだろう。

愚かで下賎だ。

手に持ったあの子の服を抱きしめる。

独特な匂いがする。

これがあの子がこの世に居た証明だ。

目を閉じてあの子を思い描く。

葬式すら呼ばれなかった僕が知り得る情報はあの子の遺したこの部屋でしかない。

い草のにおいが蔓延する中、この部屋はあの子の匂いがちゃんと染み付いている。

あの子の記憶がこの部屋には刻まれている。

嫉妬する自分に自嘲しながら、目を開けて息を吐く。

もう一度この部屋を見渡すとやはり小さい。

この小さな世界があの子の頭には大きな世界が広がっていることに胸が大きく跳ねた。

やはりあの子は死ぬべき人じゃない。

僕が愛したばかりに、僕と逢えず消え去ってしまった僕の想像家。

洗濯機に入っている洗濯物は当たり前だが歪な形に固まって乾いていた。

食器がきちんと片付けられた食器棚には、この汚くも綺麗でもない生活味のある部屋とは異質に感じた。

あの子はきっとこの食器のように完璧でありつつもこの部屋のように、汚い人間性と何者にも染ってしまうような心の内の綺麗さがある人物だったのだろう。

作品から広げられた世界観に、毒にも薬にもなるこの独特な世界が時代には追いつけなかったのだろう。

あの子を知っている人は僕だけでいいのに。

きっと誰かはあの子の作品を読んで、この独特な世界に魅了されるだろう。

あの子の服を力いっぱい握りしめる。

おそらく僕は嫉妬と独占欲の憎しみを感じているのだろう。

この気持ちをあの子の目の前に差し出せば、あの子は僕に染まるのだろうか。

1人寂しく死んでいったあの子を、僕色に染め上げる快感をこの目と手で今ここで感じたい。

苛立ちと焦燥感に満ち溢れる所を奥底にしまうと、もう一度あの子の匂いが染み付いた服の匂いを吸い込んで体の内側から感じ取る。

こんな僕をなぜ神様は愛したのだろう。

こんな汚れきった人間は、称えられる神様が独り占めしようなんて、とんだおかしな奴だ。

人間には理解できない領域なのだろう。

僕が人を愛せないのなら、人を愛せなくさせる事だってできたはずだ。

やはり神様は狂っている。

やはりあの子の方が聖人で称えるべきだ。

汚れきった僕を生かしたいのなら、どうか愛する人をあの子で最後にさせてください。

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