Leaf Memories 〜想いの樹木〜

本棚に住む猫(アメジストの猫又)

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強まる想いが光る葉

遅咲きの愛してるを君に

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「ずっと待ってたのに。」

 そう言った君の目には涙が溜まっていて潤んだその目が綺麗だと僕はただ感嘆を心の中でこぼした。

「愛してるって、もっと早くに聞きたかったのに、あなたは酷いのね」

 眉を寄せて悲痛を堪える君の顔は美しくて、それでも僕は自分が言った言葉ともう遅かったんだという悔しさのやるせない気持ちで両手に拳をつくって歯を食いしばる。
 君の肩が震えている。
 それでも僕はそれを止めることも抱きしめて背中を撫でてあげることも許されない立場だ。こんな事になるなら愚図な僕をなんとか叱咤しながらでも行動に移せたならこんな結果にならなかったのだろう。

 もっとそばにいられればよかった。
 今までを満足しなければよかった。
 君がずっと待ってたのを知ってたのに時期をみはかると言って動こうとしなかった自分にムチを打って行動すればよかった。

「あなたは私があなたに想ってたこと知ってたくせに、なんで今になって言うの」

 こぼれ落ちる大粒の涙を両手で乱暴に拭いながら僕に当てつける言葉が僕の胸を貫いていく。それなのに僕は何も出来なかった。
 いや、何も出来ないと思った。
 きっと優しくすれば2人どこまでもあらぬ方向へ堕ちてしまう。零れる涙を拭ったとしても、きっと君を辛くさせるだけだ。
 それなら、僕は君が蓄積した想いを全て受け入れることが一番の償いだ。

「あなたのせいよっ
 ずっとこんなに待っていたのに、決まってしまった後に言うなんて…っ」

 君が言う「決まってしまった」はおそらく縁談の話だ。
 貰い手もない恋人もない君を見兼ねた両親に決められた縁談のことだ。
 きっと、その左手にある薬指の指輪は相手がどれほど君のことを気に入ってくれてるか痛いほどわかる。

「あなたが嫌い…」

 そう伝えた君の声はやけに震えて辛そうに笑った。
 自然と歯を食いしばった僕は視界がぼやけるのを自覚した。きっとこれは涙だ。
 それでもこの涙を流せば君がもっと辛くなる。そんな事わかってる。わかっているんだ、それなのに息が震えた。

「あなたがそんなに辛そうな顔をしたら、だめよ
 あなたはせめて、平気な顔をしてないと、だめ」

 君が僕に近寄って優しく指で拭ってくれる。
 きっと涙が流れたのだろう。
 君はこんなに傷ついているのに僕のことを気にかけてくれる。
 そう、いつもそうだ。

 僕のことを第一に考えてくれて泣いて笑ってくれる君が好きだ。
 「嫌い」と言ったその顔に偽りなんだとわかってしまうほど嘘が下手なところが好き。
 高嶺の花だと言われ周りから距離を置かれてることに傷ついてるところが好き。
 僕にさえなかなか頼れなくて頼るのが下手なところが好き。

 好きだ。
 君が好きだ。

 いっその事、君を連れ去ってどこか知らない所で幸せに暮らしたい。
 君のことを幸せにするのは僕がいい。
 1番近くで君を見るのは僕がいい。
 それなのに、僕は…

「あなたがもっと早くに私を選んでくれれば…きっと」

 言葉が途切れた。
 「きっと」その意味はわかった。わかる。
 わかる理由はそれが僕だからだ。
 僕に君が伝える言葉はいつも優しくて僕に愛情を込めて伝える。

 僕はクズだ。
 それをわかってながら知らないフリをするんだから。

「いつも無口なあなたがどう思ってるのか、私ならわかるのよ?
 でも、私は知らないフリばかりしてた。
 ごめんなさい。そんなことしなければよかったのかもしれないのに」

 違う。
 とめどなく流れる君の涙は静かに落ちていくばかり。こんな思いをさせたのは紛れもなく僕だ。
 君の想いを踏みにじって行動しなかった僕が君を狂わせてしまったんだ。君ばかり負担をかけたのに、君がもっと頑張る必要はないんだ。
 これは僕のせいだ。

「ずっと、ずっと待ってた私がまいた種よ。
 あなたのせいじゃない。
 私が痺れを切らして受けてしまったんだから。」

 目をそらす君を見つめた。
 きっと目を合わせようとはしないだろう。
 後ろめたいことや自分が悪いと思ってることになるとこうして目をそらす君の癖を知ってるから。
 そう、こんな些細な君の癖を知ってるほど君のことが好きで沢山知ってるのに、こんなことになるなんて少し考えればわかったはずだ。
 君がいけないわけじゃない。
 僕が愚図だからいけないんだ。
 君が悪いわけじゃない。

 でも、
 でも、僕が本当に君を幸せにできるのだろうか?
 君の相手は僕よりも好きでいるかもしれない。
 僕よりもお金を持っていて不自由なく暮らせるかもしれない。
 それなら…

「私、お相手の人をあなたより愛せる気がしないの
 あなたの方がずっとずっと、素敵に見えるの
 可笑しいでしょ?
 こんなに寵愛されてるのに、空っぽに見えちゃうんだから」

 だめだ。
 こんなの、ダメに決まってる。
 その言葉で僕は自覚した。
 君を幸せにするのはこの僕だ。
 僕じゃないとダメだ。
 いくら君を愛してたって君が相手を愛してないと君は幸せになんかなれやしない。
 辛そうに笑う君がこんなにも辛くなるのは自業自得だと思われる。それでもいい。
 僕がそうさせたなら、僕がそれを払拭して君を幸せにしないといけないに決まってる。
 その権利がある。

 それなら、君を連れ出す。
 それが君を苦しめるのなら僕がそうならないように一生をかけるつもりで君を護ると誓うよ。
 だから、今度こそ言う。
 遅いかもしれない。
 それでもいい。
 君を幸せにできるのならそれでいいんだ。

『あのさ、』
「っ…どう、したの?」

 僕が君に今日初めて話しかける。それに驚いた君は震えた声で僕の目を見つめた。

『遅いかもしれないけど、僕が君を幸せにしたい』
「……っ」
『僕が、君を護りたいんだ』

 目をそらす君の頬を両手で優しく持ち上げて僕の目を見つめさせる。
 今まで言えなかった分を全て言うつもりで君に伝える。






『僕を選んで』




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