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追求する想いの葉
溺ろげのモニター
しおりを挟む貴方の水の中で寄りかかった私に何を伝えたって届かない。それでも、私の心は貴方の中ではなくて貴方の背中にそっといるんだよ。
あの日、あの時の貴方の顔が忘れられない。
私が貴方の傷ならば、随分前からの大きな古傷だ。
貴方に預けたはずのこの身体には、本物の温かさがあったのかさえ疑問に思ってしまうけれど、これが私の幸せと言えば貴方は安心した顔で私をそばに置いてくれるでしょう?
私はその優しさという苦しみを利用してしまったの。
許して欲しいと思いながらその許しを乞う心すらあやふやな気持ちでいる。
本当の幸せを最初から与えられていた私は、貴方のことを独占し続けたことでより幸せを貪欲に貪ってしまったの。
貴方が私を忘れ老いていくのをそばでひっついて見ている私は、その忘れる頭を私が貪って正しいあの初めて会った貴方に変わってしまえばいいのにと切実に求めてしまう。
こんな寒い夜よりも冷たい私の手は、貴方の温かさで2人して火傷してしまうね。
貴方と同じ私であれば、私は貴方を独占せずいられたのかもしれない。
でも、もう遅いの。
遅すぎてしまったから。
貴方が悪い訳じゃないわ。
私だけが悪いはずなのだから。
それなのにも関わらず、貴方は私が悪いのだと一度も言ってはくれない。
貴方が何を考えているのか今まで一度も当てられたことがない。それなのに、貴方のその言葉の意味が分からなくて、それでも分かってしまっている私が消えてしまえば2人して救われる気がしたのに、それを拒んで今のこの温かい貴方の水の中で呼吸するのが心地よくて貴方を蝕むことになってしまう。
それが、まるで…
まるで、
私がいるという証明であるように感じて停滞してしまうの。
おぼろげになる貴方の視界が私いっぱいに映し出されれば、私でいっぱいになるんじゃないかと思ってしまうの。
貴方のその震える温かい手のひらに私の手を押し付けて握りしめてしまえば、少しは私を見てくれるのかな?
私にこうして喋り続けてくれる貴方が、一度も私の質問には満足する答えを出してくれない貴方の唇に私の唇を押し付けてみれば私のことをもっと見てくれるの?
姿をその瞳に映し出せない私を愛していることに苦しんでいる貴方のその背中に抱きつけば貴方の震えは止まってくれるの?
これが疾患なら私は、たちの悪い病原菌よね?
私が植物なら、貴方だけを養分にする貴方だけの食虫植物よね?
無いはずの私の温もりで笑う貴方を、一度も怖いと思えたことがないの。それがいけないことだなんて誰も教えてくれなかった。それなら、もう誰も私たちに構わないでほしいの。
どうせ、私のことを毒だと言って離させようとしてきて貴方を傷つけるのなら、私という毒をこうやってずっと感じていれば何もないのだから何もして来ないでほしいの。
どうしていけないのか。
なんて、私には容易に分かってしまうけれど、私はそれを知らないフリをするの。
知ってて分からないフリをしたって私のことなんて分からない人は気づくはずないのだから。
それくらい許されるはず。よね?
だから、お願い。
私を見てよ。
貴方だけが全ての私は、ここにいるのに。
貴方の中で私は揺れながら溺れて息をしているのに。
貴方のその真っ黒な瞳に私を一度でもいいから映し出してよ。
偽物の私の温かさでいいから、私をもう一度。
『愛してるって、言ってよ。マスター』
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