32 / 71
強まる想いが光る葉
夏の終わり、光の闇へ誓った
しおりを挟む秋風が夏の匂いを攫っていく匂いがする。
「鈴夏。
まって!」
「えぇ、早く行かないとお祭り終わっちゃうよ~?」
俺のとなりで歩いていた彼女は走っていく。
新しく買った可愛い浴衣を着てパタパタと突っ込むように走る姿は可愛らしい。
「ねぇ、見てみて~!」
そう言って彼女は俺の元へ帰ると、俺の手を引っ張って連れていく。
香水も何も付けてない彼女の匂いが、俺の鼻をくすぐった。
連れていかれたのは屋台を抜けた先の神社だった。
俺が驚いて彼女に目をやると、彼女は美しく消えそうな笑顔で笑う。
「私ね、前世があるんだ」
「え?」
「前世があるって言っても、少し不思議な感じで…
この世界とは別の世界で生きてたの。」
「え…」
何故か、言葉が頭に入らなかった。
でも確かに頭に入ったのは、異世界での転生をしたこと。でも、俺は頭に入らないだけでどこか冷静な自分がいた。
話を聞き終わった俺は、頭の中で整理がつかないまま口走るように言う。
「それで、鈴夏はどうするの?」
嫌な予感がした。
鈴夏が消えてしまうのではないかと。
「───────」
「え…?」
「─────」
「な、にを言って…」
「────」
「だ、だから」
何かを伝えようとする彼女は、悲しそうで辛そうな顔をする。
俺はそんな彼女を見て、この世界の住人ではないのが明白になったような気がして、どういう感情でいたらいいのか分からなかった。
「ごめん」
辛そうにそう言った彼女は、神社の奥へと走っていった。
追いかけることを忘れて彼女の背中を見つめていると、風が強く吹いた。
冷たくて恐ろしいくらいに寂しくなる匂いに包まれる。やっと今の現状に気づいて俺は彼女を追いかける。
「待って!
まって、鈴夏!」
俺の声だけが響く神社は、とても寂しさと怖さが増幅させる。
鈴夏の声が聞こえた気がして、暗い神社の中、それを頼りに向かう。
「鈴夏っ!」
「っ?!
な…んで」
酷く驚いた顔をした彼女の瞳には涙が零れ落ちていっていた。
俺は何も考えず彼女へ走りよると強く抱きしめた。
「ごめん。」
「なに、が?」
「ごめん。」
「やめてよ。」
「一緒にいよう。」
そう強く言うと、彼女は固まった。
「一緒には、できない。」
「どうして」
「もう、帰らないといけないから。」
「ごめん」そう言った鈴夏は震える。俺からは顔が見えないけど、泣いてるのは確かだ。
「どうして、急に?
さっきまで祭りに行くって嬉しそうだったじゃないか」
「本当は、こんな予定じゃなかったの。
転生者なんだって言うだけだと思ってた。
だけど、急に帰ってくるように命令された、から…」
「そんな…」
鈴夏は俺の胸に手を置いてシャツを握りしめ震えると、顔を埋めた。俺は意を決して伝えることにする。きっとこれは、間違いだ。
間違いではあるけど、これが俺たちの正解だと思うから。
「一緒に行く。」
「え」
「一緒に行くよ。
鈴夏が行くのなら、俺も行く。
離れ離れは嫌だろ?」
「……馬鹿。」
そう言った鈴夏は俺の唇にそっとキスをすると不気味な程に淡く光る渦へとゆっくり歩いて行く。
俺の手を引っ張って行く彼女の手をしっかりと握る。
そこに最悪な結末が起きようと、辛い目にあったとしても、彼女と支えあっていくと決意したのだから。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる