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幸せの前後に出来る葉
前兆の苦悩
しおりを挟むあなたと奇跡のような日々が待ってたなんて、知らなかったの。
だから、ここでこの懺悔を認めてもいいですか。
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
「君を守り続けることを、許してくれないかい?」
手を絡めて手を繋いだまま、ゆっくり道を歩きながら言うあなたの顔は決意を固めたような表情をしていて、胸が苦しくなるほどに心が絞られて何かが溢れるような感覚がしたのを憶えてる。
「ごめん。
急だったよね…」
「うん。
とっても。」
そう言って私たち二人の手が震えていたのは、同じ気持ちで震えてはいないことを私だけは知ってたの。
ごめんなさい。
今なら、そう言える。あなたとの幸せを考えるなんて、おこがましくて私がそれを勝ち取るなんてしちゃいけないのだと、してしまったらきっとわたしたちは幸せになんかなれないのだと思ったの。
「ねえ。」
「なぁに?」
「君が、応えをなかなか出してくれないなんて、初めてだからさ…応え、聞いても…いいかな?」
正直、息が一瞬できなかった。
緊張もそうだった。でも、幸せを目の前にして緊張したわけじゃない。
これは、私が思ってること。
あなたと共にいて幸せになれるとは思えなかったから。
だってそうでしょう?
あなたはいつ死んでもおかしくない人で、私とは違う人なんだから。これは悪い意味じゃなくて、あなたが素敵すぎてこんな私とは比べてしまうのもおこがましいという意味なの。
それに、あなたの周りには私よりも魅力のある人ばかり。
それなら、私が退けば私がするよりもあなたを幸せにしてくれる人がすぐに来るに決まってる。そう思って、あなたに純粋に応えたい答えが出せないの。
私の気持ちの答えが見えなくて、苦しすぎて…どこまでも見えない光のように感じてしまったの。
そう、あなたが眩しい光じゃなくて、弱くて優しい光のせいだから。でも、それがいけないわけじゃないの。私が怖気付いてしまったせいだから。だから、あなたがいけないわけじゃない。
「応えは…まだ出せない。
ごめん。」
「いいんだよ。
ボクが早とちりしてしまっただけだから」
その優しく微笑む言葉が、私の胸を締めつけて心からまた何かがドロドロと絞り出ていく気がした。
「ねえ。」
「なぁに?」
「ごめんね」
「な…に?」
「…ううん。
なんでもない。」
弱いあなたの震えた手が、私の手を掴む。
それだけで涙がこぼれ落ちてしまいそうで、怖くなってしまった。
こんなにも弱くて優しいあなたにお見舞いすら来ない女性達を私は心から喜んでしまって、そんな心と対照的にとても怒りを覚えてしまった瞬間を今でも覚えてる。
私しかあなたにはいないんだと、安心してしまったの。そんな浅ましい私をきっとあなたは笑って許してくれることを知ってるの。
「忘れないでね」
「忘れないに決まってる。」
「…そうかな。」
「そうだよ」
「ボクは、君のように美しくないから、忘れ去られるかなと思って」
「あなたが美しくなければ、この世の中は誰も美しくなんかないわ。
私を美しく感じてくれるあなたが、1番優しくて美しくて…綺麗で、それで…それで…っ」
あなたの言葉を聞いて1番初めに強く思ってることを言い放った私は、段々と思考が止まってしまったのか、言葉が出てこなかった。もっと…もっと、言いたいことがあるのに、言葉が詰まって声が出なくなる。
それを優しく眺めてくれるあなたが、本当に優しくて私のことを好きでいてくれて、愛してくれてるんだと分かってしまうの。
だから、あなたの言ってくれたあの言葉の応えを出してしまいそうになるの。それを踏みとどまるように私は手を強く握りしめる。
幸せを、あなたから貰える全ての幸せを独占してしまっていいのかもっと分からなくなってしまうの。
私の、私だけの気持ちだけで返事を返していいのか、そんなことをして悪いことをしてしまってるのではないかと思ってしまうの。
「あなたがいなければ、誰が私を守ってくれるの。」
「……」
「なんで…なんで。
なんで、何も言ってくれないの」
「…………」
「わた…わたし…は」
喉が締め付けられるように言葉が出てこない。言葉が出てこないけれど、確かに言いたい言葉。一つの、たった一つの言葉。
「大丈夫。」って「私はあなたがいなくても大丈夫だから」と言えばきっと、あなたは私を諦めてくれる。安心してくれる。私を重荷と思わなくていい。
私を残して逝ってしまうことに苦しまなくてすむんだ。そう納得させようとしても、私はあなたを前にしては何度も言えないでいる。
言ってしまえば、もうあなたの愛を、あなたからの優しい愛を貰えなくなってしまう。そんな浅ましい私が出てきてしまうの。心の中で自嘲してしまう程に、あなたの甘い蜜を求めてしまってることに気づく。
「私は、あなたがいないと…
わたしは、あなたが…いないと、」
だめだ。
言っちゃいけない。
そう頭ではわかってる。だけど、勝手に出てくる私の声と口が、頭でとまれと警告を出しても聞いてくれない。
「生きて、いけないの」
「……っ」
あなたの息を呑むのが見える。優しいあなたはきっと怒ってはくれないのを何となく分かってる。でも、何を言ってくれるかは分からない。もしかしたら、拒絶されるんじゃないか。と思ってしまう。
いや、いっそ拒絶してくれれば、あなたを私が茨のように閉じ込めてしまうということがなくなるんだ。
でも…、それが、とても私は〈嫌〉だと、〈怖い〉と思ってしまった。あなたのことを思って身を引きたい気持ちと、あなたを求めてずっとあなたの唯一でそばにいられる人でありたいと思ってしまう。
「ねえ。
ボクとそばにいてくれる?」
「……む、り…だよ」
「なんで?」
言えない。
言えないと思った。これを言えば、あなたは私を幸せにしてくれるのが分かってる。
あなたもいってくれることを望んでるのかもしれない。
分かってるけど…それでも、思うの。それと同じように私が幸せにできるのかなんて、自信がない。
あなたの病気が落ち着いて、完治したのではないかと思われるくらい落ち着いた今、阻む者なんてきっとない。けど、言えないと思ってしまうの。
私よりも幸せにできる人がいつか出てくるのではないかって。
私はきっとこれを伝えてしまえば、あなたを確実に捕まえてしまって、私の茨で閉じ込めてしまうに決まってる。そうしてしまえば、あなたはもう出られない。私があなたの自由を奪ってしまうから。離れられなくなってしまうから。
だから、言えないの。
私のものになってしまったら、あなたを幸せにできる人が来ても茨のトゲで入らないようにしてしまうから。あなたが懇願しても私は聞き入れることはなく、あちらに行かせないようにしてしまうから。
だから、怖いの。
あなたを拒絶してるわけじゃない。
あなたを信用してないわけじゃない。
あなたを壊したいわけじゃない。
ただ、怖いの。
私があなたといていい権利があるのか分からないから。
あなたならそんな権利なんて関係ない。そう言ってくれる。そんなことを言ってくれるのも容易いほどに分かる。
でも、怖いの。
「ボクさ、君のことが好きだよ」
「うん。」
「ごめんね」
「…どうして?」
「好きでいて、ごめん。」
「そんなことない」
「でも、ボクの気持ち、嫌じゃないの?」
「そんなの、嫌なんかじゃないに決まってる。」
「でも……」
「私には、あなたを幸せにできる自信がないの」
「そんなの…」
「そんなのじゃない。
私はあなたの気持ちを受け入れられるけど、わたしのはあなたじゃ、耐えられっこないよ。」
「そんな事ないよ」
「じゃあ。
…じゃあ、………」
「…?」
また言葉が詰まってしまった。
また胸が苦しくて締め付けられて、ドロドロと心が絞られて溢れていく感覚になる。
私はふと気づいた。
胸が苦しくて心から絞り出された液体が、なんなのか今やっと分かってしまった。
これは《愛》。
でも、そんなのに今更気づいてもどうしようもない。なくなってしまった。
言葉に詰まったひょうしに咳が何度か出る。止まらなくて、いつの間にか血を吐き出した私は息をするのが上手く出来なくて、背中を優しくさすってくれたあなたをきっと困らせてしまった。
あなたはお医者さんまで呼んでくれて、こんな私を心配してくれるなんて、幸せで涙が止まらなかった。
「あの…さ」
「どう、したの?」
意を決してあなたの手を握って伝える。
「私のこと守ってくれるって、本当に?」
「……?」
「もう、忘れちゃった?」
そりゃそうだ。色々あったから、忘れちゃったかもしれない。
でも、言うんだ。
今なら言える。
「こんな私だけど、あなたを幸せに出来ないかもしれないけど、私の愛であなたを私も守ってもいいかな?」
告白し返したようになってしまった。でも、これが私の応え。
あの時から、考えてたこの応え。
他の子の気配のしない、私だけに見せてくれてるあなたをもう迷わない。本当はとっくの昔から決まっていた気持ちだけど、私の覚悟が決まらなかったせいで沢山回り道をしちゃったよね。でも、確かにあなたへの愛情もあなたからの愛情も自覚できることが出来たから、回り道も悪くないのかもしれないね。
だから、受け止めてくれるよね。
私のエゴで、私の気持ちだけで、あなたのことを閉じ込めてしまうことをもう躊躇わない。
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