Leaf Memories 〜想いの樹木〜

本棚に住む猫(アメジストの猫又)

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想い残した遅れた葉

夢想進行

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 もう私の元へ還らないあなたでよかった。

 そう言えたのはあなたがいなくなってから50年生きた私で、幸せも不幸せも感じてこれて、それでもあなたの面影を追い続けてしまっているのをやっと諦める勇気が出たからだった。

 もう幸せを象るあなたがいないことに苦しまなくて済む訳ではなくて、やっと気持ちを切替える事が出来るだけ。
 それでも、私の中では大きく1歩前に出たこと。
 それが確かだ。

 ずっとずっと、あなたを幸せにしたかった私を置いて知らない所へ逝くあなたに私は何を伝えられるのだろう。

 頬に伝う涙がとても醜く見えて仕方がない。


 諦める勇気が出ただけで、諦められるとは言えない。それくらい私が弱いんだと知らしめられてるように感じて、辛くて苦しい。

 新しい人に出会えたら良かったのに、あなたがチラついて踏みとどまってしまう。


「ねぇ。
 あなたは、なぜ私をここまで苦しめるの?」

 そう呟いてしまえば言葉はスラスラと言えてしまう。

「私を置いていくなんて、許さない」

 思ってない言葉なはずなのにそれでも言葉は止まらなかった。

「こんなに寂しく感じるほど私を置いていい度胸してる」

 そんな事ない。
 理由があって、ギリギリまで私といてくれたあなたは最期まで謝ってくれた。
 きっと今もそう。

「あなたがいない間、私とても空虚な毎日だったの知ってるでしょ?
 どうして姿を現してくれないの。」

 仕方がないことなのは分かっている。
 分かっているのに、どうしても言ってしまう。

「未練なんて私には縁がないと思ってたのに、あなたのせいで私はめちゃくちゃになった。
 どうしてくれるのよ。」

 段々とあの頃の私が蘇ったのか言葉遣いが幼くなる。
 涙が止まらず目を擦り続ける。

「あぁ…。なんで、あなたなんかで…
 最初から私と同じ種族であればよかったのに」

 短命なあなたへどうする事も出来ないことを当てる。
 もう当たるあなたはいないのに、どうしても何かに当たらなければ心がおかしくなってしまう気がした。

(愛してる)

 言葉が出なかった。

 声が出ず涙が止まらない。
 その言葉をもう言えるのも、言う相手もいないことに気づいてるのか普段言い慣れてないのか分からない。
 ただ、口からその言葉を発する事が出来ないのだ。




 短命なあなたの記憶を思い出す。

 とても窮屈だったけれど、それでも幸せだと感じた毎日だった。
 種族が違うせいなのか、あなたと私の価値観はあまり似てなかった。
 それでも一緒にいて喧嘩のようなものはなかった。
 私が一方的に言ってしまうことはあったのだけれど、それでも全て受けいれてくれたあなたは最後抱きしめてくれる。それだけで私は幸せに包まれるような感覚がした。
 暖かいあなたの体温で私は溶かされる気がして、心が弱くなってしまったのかもしれない。

 あなたなしで生きていけた。
 でも、それだけ。
 ただそれだけだった。

 生きていけただけ。

 暖かさも、心地良さも、安息も、幸せも、何もかもが薄いスープを無理やり飲まされてるような感覚で、あなたとの記憶を思い出してハリボテの幸せを感じるだけ。

 あなたがいつか言っていた「君は強いから」その言葉、本当は強くなんかない。
 私はあなたがいたから強く見えるだけだった。
 それだけで、何も強いわけではない。

 柔らかい指と指を絡ませて歩く事なんて恥ずかしくて出来なかったけれど、でもあなたの隣で笑っていられた私はきっと、幸せな少女だったと思う。


 そこに種族というものは一切ない。
 そのせいで、ずっと一緒だと思ってしまった私のせいでもあったのだけれど、あなたのその言葉一つ一つが私を幸せにしてくれたせいで、弱くなってしまったの。

 だから、出来れば責任を取って欲しかった。


 もう今の私は本当にあなたが還って来て欲しいなんて思わない。
 そう思うことはもうないと思う。
 出来ることならまだあの日々を続けていたかったというのはあるけれど、でもそれだけだ。
 強がりではあるけれど、でもこれも本心だ。

 もうあれから50年経つのだから、それくらい成長してなくてはならないでしょう?
 きっとあなたはそれを聞いて褒めてくれるのだろうけれど、遅すぎる成長なのは分かってる。


 でも、エルフの中では私は成長が早いのよ?


 あなたが普通の人間ではなくて、短命な種族なのは知っていたけれど何の種族かは教えてくれなかったことはまだ根に持っているのよ。

 あなたはメスだったから、親族たちにはやく子を作れと急かされていたのに頑なに拒否していたところ、本当に私は尊敬してる。


『あなたの代わりはいないのは知ってるけれど、きっと私の代わりはいくらでもあったのに、私と最期までいてくれてありがとう。』


 あなたが生きているうちに言えるように練習したのに、結局言えなかった事もあってあなたの面影を追ってしまったのかもしれない。

 それでも確かに今は言える。
 やっと言える。
 でも、今はもっと違うことを伝えたいかもしれない。



『変わらない愛も変わらない命もないこの世界に、あなたが生きてくれたこと。
 あなたが私の隣にいてくれたこと。
 その全てが幸せだった。
 あなたが蘇ってこないかと強く願ったこともあったけれど、それでも今は私の元へ還らないあなたでよかったと思えるようになった。

 だってそうでしょう?
 そんな事をして、あなたを縛り付けてしまうのは嫌だ。
 それにあなたはそれを願ってないでしょう?
 こんな事をして喜んでしまう私なんか、醜くて仕方がないに決まってる。

 だから、


 だからね。





 愛してた愛してる


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