Leaf Memories 〜想いの樹木〜

本棚に住む猫(アメジストの猫又)

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春風に揺られる若葉

優しい変質者

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 君との出会いは隣の人の荷物の置き忘れからだった。



「あの、これ忘れてますよ」



 その言葉が重なった奇跡的な出会いだ。君と僕の言葉が重なった瞬間、驚きと恥ずかしさと複雑な気持ちで僕はサッと顔を逸らした。
 荷物は無事持ち主と帰れたようで安心したけど、僕はそんな安心をする気まで頭が回らなかった。声がハモった時の乗客の人達、そして君の表情が怖くなって顔があげられなかった。


 これが、君と僕の始まりだ。


 次に会ったのは信号の待ち時間だった。声をかけたのは何故か僕だった。



「あの、これ落ちましたよ」



 さっき買ったものなのか雑貨屋の小さい紙袋(?)が落ちていたから、仕方ない事だ。声をかけるのは仕方ない事だったんだ。と僕は自分に言い聞かせた。
(いや、こんな事覚えてる僕が気持ち悪いのは分かってる。けど、何故か恥ずかしくて鮮明に覚えてしまっただけ。だから、僕はキモくなんかない。)
 そう何度も言い聞かせた。


「あ!この間の!」

 そう言いながら僕が拾って渡そうとした手を握ってキラキラとした顔で僕を見つめる。
 悪い人ではないのは分かってる。けど、なんだか僕には眩しくて前が見られなかった。


「あ!信号渡れるね!
 ありがと、じゃあね!また会える日に!」

 そう言って走って渡って行った君は、何故か僕に「また会える日に」なんて言ったのか分からないけど、何となく僕もまた会えるんじゃないかって思った。




「あ!また会えたね!」

 何となく海に来た時、君の声が後ろから聞こえた。「やっぱり会えた♪」なんて言う君はやっぱり眩しくて、目を合わすことが出来ない。

 
「会えると思ったんだ~♪」
「これはもう、何かの縁だね!」

 そう言って僕を引っ張る。アイスを奢るからと無理やり引っ張る君の足の速さに足がもつれそうになりながら追いかける。
(なんでまた会えたんだろう。)
 なんて一つも思わなかった。きっと、本当に何か縁があるのかもしれない。そう思えて仕方なかった。




「ねぇ!
 もしかして、あの時の君?」

 そう言って叫んで呼び止める声は、「また、やっぱり」なんて独り言を言いながら振り返る。


「こんな山奥に!
 偶然じゃないか~!」

 なんて言いながら、また僕の腕を引っ張る。まるで、「ここは危ないから」と引き止めるみたいに僕を連れてコーヒーを飲んだ。








┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 僕は死にたがりだ。

 だから、今日も死に場所を探した。

 不思議と君と会った場所は避けて死んでしまおうと思って模索するのに、何故か君がやってくる。

 死に場所を見つけて向かうのに、何故か君に会えてしまって、今日はやめておこうって思ってしまう。


 なんだか、君はエスパーみたいだね。

 僕が死にたいと、死に場所に向かった日には必ず後からやってくる。




 どうしてなんだろうな。







┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 君に出会わない場所を探して、僕はもう使わなくなった学校へ向かった。
 列記とした不法侵入だ。
 でも、もう僕は死んでしまう身。不法侵入とかそういうものにはもう僕は縛られない。はず。

 もし、君がここに来て止めに入っても、僕はきっと止まらない。
 もう、止まれやしないから。
 ここまで来たんだ。
 僕にはもう、後なんて無い。

 そう思って、屋上の端に立つ。
 何故か足音が聞こえる気がした。でも、僕の心臓の音がそういう風に感じるだけだと思って心を決める準備をする。




「あ!また会えたね!」

(なんだ、僕は君に止められたいのかな。
 幻聴まで聞こえる。
 僕の体の自己防衛なのかな。)
 そんな事を考えてると、足音は僕の後ろまで来て止まる。


「なんでそんな所にいるの?」

 やけに幻聴は大きくて鮮明で聞き馴染んだ声が聞こえる。
 風が吹くのと同じくらい、心が揺れた。


「もう僕は後がないんだ。
 静かにしてよ。」

(放っておいて。なんて、幻聴相手でも君には言えない。)
 僕は臆病なのか、足が震える。




「じゃあさ、ほんとに死にたいならさ。
全裸になってここから飛び降りてよ。
もし、ここに恥ずかしい気持ちが少しでもあるなら、そんなちっぽけな覚悟で命捨てないで」

 そう言われた僕は、ひねくれ者だから、


「別にいい」

 なんて言ってしまった。

 そんな僕を見た君は焦りもせずにクスクス笑う。
 笑いながら僕を抱きしめる。


「本当は怖いの丸わかりだよ」

 なんて言うから、ムッとしたのに、少しだけ楽になれた気がした。


「君のことが好きって言ったら止めてくれる?」

 そう言った君の腕が震えてる事を気がついた。
 きっと、風が冷たいから震えてる訳じゃない。


 僕は少し呼吸した。







本当、君はすごいね。
ありがとう






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