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掴めそうで掴めない葉
地平線で取り残された霖
しおりを挟む『秋村君私ね、アイドルになりたいんだ。
変、かな?』
君の不安そうにする顔に少し頬を赤くしてるのを見て、自然に僕は心を奪われていた。
君を応援する第一人者になれた事がとても嬉しくて、支えたいと心に誓った。
君はどんどん色んな人を惹き込んで、大きな存在になっていった。
僕はというと、結局君にしてあげる事なんて一つもなかった。1人で進んで行く君を見ながら、心の中で「頑張れ」「すごい」「無理してないかな?」と言うばかりで、君の周りには僕が入って支えに出る隙間もなかった。
きっと、僕の事なんて忘れてるんだろうと自覚してからはもう手の届かない場所へ行ったんだと、諦めという言葉が似合っていた。
『みんな~!
今日もありがとう!』
そう言ってステージから手を振る君を眺める。もう何もかも違っているんだと自覚してしまった。
初めから違っていたはずなのに、自然と僕達は一緒なんだと思っていた事に痛感した。
僕よりも見た目が陰気で暗くて、僕が君を外の世界へ連れて行ったはずなのに、逆に僕が置いてけぼりにされてるようだった。
好きなんだと自覚した頃から、君はアイドルになっていて、僕は心を見せないように厚い雲で隠していた。
気持ちを真っ直ぐに伝えた所で、君に迷惑がかかるなんて知っていた。だから、隠す選択は自信を持って正しいんだと思ってる。
なのに…
君を見てみんなの瞳が心を掴まれた所を見ると、「違う。僕が先に由夏を見つけたんだ。」そう独占欲が溢れ出す。
もう届きやしない僕の手は空を切って羨望する様に君を眺めるだけの存在がこんな事を想い続けるなんて不毛だと思いながらそう思いたくなかった。
輝いている君は、まるで透明なイルカのように感じて、届きやしない雲の上を楽しそうに進む君に追いかけても追いかけても届かない。
今君は、何を見ているのかも分からない。僕はその透き通る透明な君がまた好きで、いつの間にか僕の方が不釣り合いで…。
どんなに人に好かれても、結局誰にも魅せるイルカのような君に辿り着けやしなくて、背中を追いかけていたと思ったのに結局その背中すら見えない。
『ね、ねぇ。
あき、むら…く、ん?』
戸惑いながら僕を呼ぶその声はよく知っていて、もう忘れてしまっていた言葉に僕は歩みを止める。
『秋村君だよね?』
「え?由夏?
ごめん、可愛くなってるから気づかなかった」
震える体と声を隠しながら見え透いた嘘をつく。手を首に回して少し笑ってみせると、安心したように笑い返してくれる君が本当に好きだなと感じた。
『あの…さ、私…』
その時、君を呼ぶ声が聞こえてその先の言葉は聞けなかった。
今日じゃなくていいから。僕が追いつくのを待っていて。そう言いたいのを我慢しながら、ただただ君を下から見上げる様に憧れる。
君を支えたのは僕なんだと自信を持って言いたいのに、その支えになれた事なんて1度もない。そんな僕なんかが言っても頭がおかしいんじゃないかと思われるだけだ。
「行かないで」「置いていかないで」そう伝えれるなら伝えたかった。そんな言葉なんて言えるはずなんてないから、君との日々を妄想するしかなかった。
マネジメントなんかしてみて、影から支える人になりたかった。「あのマネージャーじゃなくて僕だったら…」「あの友達が僕だったら」そんな妄言ばかり考えてはやめる。
きっと僕が君と同じアイドルになったって、何も変わらないんだろう。そう確信があるからこそ、僕は何も出来ないでいる。
弱虫だと自覚しているけど、直そうとはしないからきっと僕はたちが悪い。
君の隣にいる資格が出来た僕は絶対に君に会いに行く。きっとビックリするだろうと思って足早にそこへ向かう。
もう少しでアイドルを卒業する君へ友達からでいい。そばに居たいんだとそう言いたくて…。
結論として、僕は言えなかった。
君は不慮の事故にあった。即死した君の体すら見る事もどうする事も出来なくて、世界は一層君の事を惜しんだと思う。
僕は1人取り残されたように追いかけるものがなくなって、何もする事が出来なかった。
ただ、頭の中で叫ぶ。
あと少し、あともう少しで届きそうだったのに、どうして…
やっと君と対等に始まりが出来るはずだったのに…
なんで君はいつも…
僕を置いていくんだよ。
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