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春風に揺られる若葉
終わりを知らない温もり
しおりを挟む『貴方が捧げた私への愛はいつの間にか消え落ちていたの。』
貴方を待ち続けた愚かな私はずっとずっと幸せという仮初の愛情を貰っていて、幸せとは遠い場所にポツンと1人立ち止まっていた。
「寂しいな」
そう口にすると、幸せになれる言葉を投げかけてくれる貴方は、義務的に心配をしてくれる。
疲れた様子も見せず私を気遣ってくれる貴方はきっと演技派で、きっと私じゃない誰かでも私の様な関係を持つ女ならいいんのでしょう?
卑屈になる私を貴方に悟られない様に取り繕ってその場に居座る。
「ありがとう。
こんな私を選んでくれて。」
そう口にした言葉は、本当に思っているのか分からない。それでも私はその言葉をそう思い続けている様で、優しく撫でてくれる貴方に顔を上げて少し照れながら伝える。
「なんだよ急に」と苦笑する貴方は本物の婚約をして恋仲になっている様にも感じた。
そんな事を思ってるのは私だけなんだ。そう思うとなんだか悲しくて寂しかった。
愛を信じた私を誰も止めてくれはしなくて、誰を信じたらいいのかも分からない私には貴方だけを信じ続けていた。いつの間にかそうでなければいけないのだと感じて、八方塞がりになる私自身に嘲笑うのを必死に隠した。
「私、幸せよ。
貴方のような方が婚約者で。」
これは心の底から思っていた事だった。そう口にするのがいつの間にか責務のようになっている私を貴方に気づかれないように淑やかに笑いかける。
貴方の言葉が毒のように感じて、苦しみを感じない幸せな毒の様で…。
きっと信じ続ければ私は幸せでいられるのではないかと信じてしまう。信じ続ければきっと貴方の心もまた、私の所へ優しく戻ってきてくれるのではないかと哀しく思ってしまう。
「どうして貴方は私を繋ぎ止めてくれるのかしら。」
そう1人疑問を口に出して櫛で髪をとかしていく。貴方と釣り合う女性になりたいが一心で身なりを整える習慣は今でも抜けずに健在している。例え私に気持ちが無くなったとしても、この婚約が解消されなければ私はまだ努力をし続ける事が出来るから。
『もう死んでしまいたいと思ってしまう事は無くなってしまった。
貴方が私を変えてしまって、怖いと教えてくれたから。』
何をしていても空っぽだった抜け殻のような私をすくい上げて、甘やかして心を溶かして柔らかく棘が刺さると抜けない身体にしてくれた貴方に、責任を取ってくれと私には言えない。言いたくもない。
きっと、すでに貴方の毒が回ってしまってるから。
「貴方のお陰よ。
私をこうして変えてくれて、救ってくれて、本当に幸せよ。」
この言葉は本当に思ってる言葉。貴方が私を変えてくれたから。だから貴方から貰った分だけでも返したいと思っている程に貴方の毒に侵されてしまってる愚かな私で本当に貴方を愛しているんだと感じる。
貴方以外にも貴方にも盲目になった私に嘲笑っている声すら聞こえないフリをして、貴方の事で一喜一憂しながら1人で悲しくなって泣くのを我慢する。
そんな私を「幸せにしたい」と甘い言葉を伝える貴方にやっと岸へと這い上がってきた私に、また溺れさせる貴方を憎む事すら出来なくて、つらつらと意気地の無い事ばかり考えてしまう。
「貴方がいなくなってしまったら、きっと私は消えてしまいそうになるわ。」
「大袈裟だよ」と貴方は笑いながら私を撫でて抱きしめる。貴方の匂いに包まれて深く落ち着きながら、「一時のものでしかないのならいっそ突き放したら良いのに」と心の奥底から私の声が聞こえて知らないフリをする。
ただ今は抱きしめてくれる貴方の匂いに包まれていられる事だけを考えたくて、貴方の服を両手で少し握る。
『きっと本物の幸せを掴める人なんていないはず。
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