上 下
62 / 71
幸せの前後に出来る葉

ずっと枝分かれが出来なかった、ある男女の愛歌

しおりを挟む


プルルルルルル

 携帯の着信音とバイブ音が部屋に響く。
 ベッドに寝ていた私はゆっくりと起き上がって、着信元を確認すると元彼だった。

 別に未練なんてないから、溜息をつきながら電話に出てしまう。


《ごめん、寝てた?》
「別に起きてたよ?」
 少し嘘をついた。元彼の懐かしい声と外にいるのか風の吹く音がした。

《そっか、俺今お前の家近くにいるんだけど、今日泊まりたい。》
「そう。なら、準備してる。」
 馬鹿だな。と、自分に言いながら、(これは友達としてだから。)(未練があって、そういう事をしたい訳じゃないから。)と、言い訳を心の中で言い続ける。

「はぁ……。馬鹿だな…」
 そう言いながら、お風呂の用意をして服を着替える。綺麗な服を着ながら、あの頃着たTシャツのワンピースを着た。
 そういう気はしてない。つもりでいて、私はまだ復縁を心のどこかで感じてるのを分かってた。
 あれだけ傷付けて、あれだけ縛り付けた元彼は、あっさり三股して私を捨てたやつだ。
 私はそれでもまだ、好きなのかもしれない。そう思いながら、冷蔵庫に何が入ってるか確認した。
 おつまみ系もお酒も、普通の料理も出来そうなものが入ってるのを確認して、部屋を少し片付けた。
 散らかってはあまりないからいいけど、馬鹿な私は何か期待をしてしまってる気がした。


《来た。》
 それを見て、無言でドアを開ける。

「来た。酒、飲むだろ」
「いいよ、あたし今日は飲みたい気分じゃないし。」
「ふーん」
「今日どうしたの?」
「…はぁ。別に、疲れたから」
「彼女は?待ってるんじゃない?」
「はぁ…別にいいだろ」
 そう言いながらネクタイを少し下げて、部屋に入っていく。
 すると、私の狭い部屋の中で1番落ち着くベッドに座って、私を隣に座るようこっちを見てくる。

「……何してるの?」
「え、別にいいだろ」
「いや、良くないから。」
「ほら。こういうの好きだったろ?」
 そう言いながら私の背中に回って後ろから抱きしめてくる。

「やめてよ。」
「ん~?こういうの嫌いだった?」
 優しく言いながら、私を強く抱きしめつつもっと密着する。
 これで流された事は何度もあった。また流されるのは嫌なのに…

「だ、だから、泊まるんでしょ?
 ベッド使っていいから、あたし下で寝るから。」
「どうしたんだよ
 一緒に寝たらいいだろ?」
 少し笑いながら、誘ってくる。

「ほら、あの頃みたいに愛し合お?」
「い、いゃ…」
「ん~?いいじゃん」
 そう言う彼は、本当に嫌い。




「あの頃に戻らないか?」
 そう言って、家から出ていく彼を見て、(あぁ、そういう所。本当にやだ)そう思いながら否定出来ない言葉しか出てこなかった。

「…ごめん、考えとくね。」
「ん、好きだよ。」
「うん、好き」
 彼と、私の言ってしまった言葉は、私の思考を止めてしまうのを彼は知ってるかのように、彼は軽々しく「好き」なんて言うんだろうな。


 もう、あの頃のような2人になれない。そんな事を分かってて、あの頃のようにキラキラした感情も湧かないのを知ってて、それでも一時の2人の居心地が良いだけのこの関係は、本当に辞めたいのに辞められなくて…、どう動けばいいのかも分かってるのに動き出せない馬鹿な私は、早く消えてしまいたい。



《もう、家に来ないで》
 苦悩の末にやっと出た文字。通話なんてしたら、丸め込まれるから。

《なんで?》
 その言葉が私の胸へ突き刺さる。

《いや、もうこんな関係嫌だから。》
《だから、あの頃に戻るんだろ?》
 分かってるよ。そんな事。

《あの頃に戻りたいって言ってもさ、結局変わりなんてないんでしょ?》
《は?何言ってるか分からない。》
 ふと、私の語力のない文面で、怒らせた事を思い浮かべる。それなら、笑って馬鹿にしてくれれば良かったのに。まぁ、馬鹿にしてはいたんだろうな。

《だから、結局今と変わる様なことは無いんでしょ?》
《当たり前じゃん。》
 狼狽える様子のないその文字は、私をこの話をするのを諦めさせようとしてるように感じた。

《なら、もういい。
 もう来ないで。》
《は?意味分からない。》
《あの頃のような、あの日のような私達になんかなれないんだよ。》
《は?なれるって。》
 イライラしてるのを感じて、私は怖くなった。

《もう無理だよ。》
《無理じゃない》
 《傷つけられてる私を》と、打って一気に文字を消した。

《いっくんと居ても、幸せを感じる事なんて出来ないの。
 きっと、これからも》
《そんなの分かるわけないだろ!
 先の事なんて、お前だって分からないだろ!》
《分かるよ。
 付き合ってた時だって感じてた。
 もう、私の家にも私の近くにも来ないで。》
 そう伝えて、彼の連絡先も全部消した。


 何故か涙が溢れて、(あぁ、こんなのでも好きだったんだ。)そう思って、枕を握りしめてベッドに叩きつけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

愛する義兄に憎まれています

ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。 義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。 許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。 2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。 ふわっと設定でサクっと終わります。 他サイトにも投稿。

処理中です...