Leaf Memories 〜想いの樹木〜

本棚に住む猫(アメジストの猫又)

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狂ったモノに生まれる葉

完全で健全で純愛のイカリソウ

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  パシッ!!

 頬を叩かれる音が部屋中に響く。
 あぁ、また、か。


 貴方の手の平の温かさが少し伝わってきた。甘く低い声で、私の耳へ静かに発せられる。


「もっと、いい子でいろ。
 お前は頭は馬鹿だけど、俺の事しっかり分かってる、俺の飼い猫だろ?」

 咄嗟に、コクコクと涙目になりながら「受け入れる」というのを体現する。
 貴方の、普段「僕」と言い、優しく、甘く、私に弱く見せてくれるその姿から一変する、「俺」という一人称は機嫌がよく分かる。

 ただ、惚れた弱みのせいなのか、私の性癖なのか、全てを受け入れてしまって、なんでも許してしまう。その手の平、その指先、その口、その言葉、その足、全てが好き。
 甘い言葉も、その甘い誘いも、甘い愛し方も、日に変わる混ざり方も、全部全部好き。そして、私以外が理解して、愛していける訳なんてない。


 君を許せるのは、私だけなんだよ。


 そう伝えるかのように、優しく私に他のことを話し始める貴方へ柔らかく笑って、ぎゅっと抱きしめる。その私に、私よりも軟弱な雰囲気の貴方は、照れながら抱きしめ返す。

「ごめん。僕、カッとなって…
 許してくれる…?」
 泣きそうな声で言う貴方に、「可愛いなぁ」と思いながら、抱きしめる手を強める。

「何言ってるの?
 全然大丈夫。でも、まだヒリヒリしてるんだけど…もしかして、また内出血してる?」
 「ちょっと見てくれる?」と、言って軽く承諾する貴方は恐る恐る私を見つめる。
 すると、分かりやすく恐ろしくなったように青ざめる。

「ご、ごめんっ!
 内出血してるかも…海麗みれいちゃんの顔、傷つけちゃった…」
「そっか、じゃあ、ごめんって思ってるなら、冷やすものくれる?」
 そう言うと「うん!」と、小走りで冷蔵庫に向かう。そんな姿が愛らしくて、「はぁ。好きだなぁ。」と、再確認するかのように感じた。




 貴方への愛が膨れていく感覚が、今でも残ってる。でも、その愛をどうしたらいいのか分からなくて、何がしたいのか、どうしたらいいのか…。そんな気持ちが膨らんで、破裂する寸前。
 いっその事、貴方に傷つけてもらって、恐怖に包まれればこの愛情は消えるのか。

 いや、そんな事は無い。
 既に大きく内出血した腕を見ても、恐怖へ陥ることなんて無い。
 今日は付き合って3年半。当初は、逃げたくて怖くてどうしようも無かった。でも、今はそんなの全てが好きで堪らない。


 なら、ゴールはあるのか?


 それなら、この感情への最後はあるのだろうか?


 消えないこの想いを、いつかは私一人だけのものになるんじゃないのか?


 貴方が愛してくれるこの日は、本当はこれ以上もう残ってないのではないか。


 「愛してる」そんな言葉を優に超えているこの想いを、私は発散出来ない。


 愛し尽くその気持ちを平らげても、お腹がすいたままの私。


 ずっと、好き?


 違うよね。


 飼い猫を放っておく貴方なんか居ないでしょ?


 手の平のあの感触さえも、恍惚とする私の頬は次第に欲求と化して、貴方をそれ以上に求めてしまう。


 そんな私は、貴方を微塵も怖いだなんて思えない。


 愛情ばかり増えていく中で吐き出し口が無いなら、作ってしまわないといけないよね?



 と、私は1つ行動してみた。
 貴方という、私の全てを誰かの手に渡る事なんてないように。


「もっと可愛くオネダリしな?」
 そう。その甘く低い声。それだけで、私は嬉しくて堪らない。


「ほら、しっかりしろ。」
 そう。乱暴にしたって大丈夫だから。


 だから。



   〖私を見て〗



 最期の光景を、私でいっぱいで感じ取って?
 私の最期も、貴方でいっぱいにするから。


 絶対に、絶対に離させないから。

 1人は嫌でしょ?

 貴方の手の平で泣き叫ばない彼女を、絶対に手放したりなんかしないよね?


 そうでしょう?



 だから、私とずっと一緒にいよ?

 歳のとらない体になって、ずっとずっとこのまま血も細胞も1つにして、繋げて、


絶対に………。




結婚指輪と同じ色をしたそれはきらりと光る。それを見て硬く手に込めた契りを今ここに刻み込む。




【私を、こんな風にしてくれて、ありがとう。
 そして、これからはずっと、ず~~っと、一緒だよ。】




    〖あぁ、幸せだな〗





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