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幸せを願う葉

かすみ草が導く愛し合う2人

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 この世界は、翼がないといけない。
 その色は、微かにみんな違った。
 ずっと、ずっと僕の翼は大きくて祝福の色をしている。
 祝福の色の翼を持つ者は、人生がもう決められていた。
 安定な収入、そして、大量の富と名声が決められている。
 そんな中、すすり泣く女の子を見つけた。


「どうしたの?」
 そう言って近づくと、僕は凝視した。
 この世界にないその絶望の色は、縮こまった小さな体とは相反して折りたたまれていても大きく見えるほどだった。

「…っ!」
 僕を見て、後ずさりする。きっと、その絶望の色の翼のせいなんだと感じた。
 差別の少ないこの世界には、差別の的になると、それは大きな圧力となって耐えられなくなる。
 そんな僕の思考は、ただの偽善としか言えない言葉を、それでも伝えた。

「怖くないよ。
 僕は何もしないから。
 何があったか聞かせてくれる?」
 大きな透明と言えるほど澄んだ色の瞳は、まるで、穢れの知らない少女そのもので、泣き腫らしたその目は、うるうるとさせて僕に一定の距離を取って座る。
 その女の子は、肌が白くて澄んだその瞳と似合っていた。
 ただ、その絶望の色がとても似合わないな。と、心の中で呟くと、僕は汚い奴だな。と思い知らされてしまったように感じた。

「わ、わた、私は。
 リーシェ。リーシェ・ド・ワルツです。
 えっと、私。こんなっだから、いつも殴られた、り、蹴られたりしてて…。
 お父さん達…にも、もう。見放されてしまってるような気がして…
 出来の悪い私を、商人に売ろうという話をしてて…
 で、でも。そうですよね。こんな色してる私の翼なんて、気味が悪いし、『絶望を呼ぶ』だなんて言われても仕方ないですよ。
 いつか出荷されてしまう前に、えっと……あ、ごめんなさい。その…お名前…いや、言いたくなければ…」
「アレクサンドル・ミファオス。アレクでいいよ。」
 そう言って、笑う。
 きっとその顔が浮かばれる事は無いかもしれない。それでも、僕だけは彼女に…リーシェには少しでも笑える日があってもいいんじゃないかと、感じた。
 たった少し会って話を少し聞いただけの、一見すると変な奴だ。
 周りの人は気味悪がって近づこうとしようとしない。
 それは、僕が変なやつだからではなく、リーシェに向けられたものだった。



「えっと、アレク…さん。
 聞いていただいてありがとうございます。
 こんな私みたいなのに時間を割いていただいて…」
 そう言って、お辞儀するリーシェを見ると、ボロボロの服を着ていることに気がついた。
 差別の対象というのは、こうも当人に苦痛を与えるんだな。そう思って、伝えた。

「明日も!
 ここで会おう!
 食べ物でも持ってきて、お茶でもしよう。」
 そう言うと、リーシェはアタフタして色んな言い訳を伝えてきた。それでも、僕は一貫して「それでも僕がしたいんだ」と、伝える。
 僕の言葉で諦めたのか、埒が明かないと思ったのか、承諾してくれた。




 僕達は幾つの日も笑いあって楽しく話した。それでも、周りの差別は収まりもしない。
 それよりも、増している気がした。
 リーシェは、虐待をされるようになったと僕は知った。リーシェはそんな事当然かのように受けていて、平気そうに話している。
 それでも、その震える手は正直だった。


 いつの間にか、僕はリーシェの事が好きになっていた。
 話し方も、前よりも逞しく、そして芯の強い子で、それでも触ると壊れてしまいそうなそんな心をした素敵な女の子だ。
 外見だって、その絶望の色の翼も、今は愛おしかった。
 月日が流れたおかげで、体の形も段々と女性へと変わっていってる。
 それのせいでもあるのか、リーシェの両親は喧嘩が絶えなくなった。
 リーシェを売りに出す方がいいのか、娼婦として連れ出せばいいのかと、悩んでいるようでもあった。


「私ね、この翼の事嫌いだったんだ。
 差別する周りの人よりも、私が1番嫌だったんだ。
 だから、この翼には少し傷がついてるの。
 消えないその傷は、私への戒め。」
「戒め?」
「うん。アレクが、好きだって言ってくれたから。
 そんな好きって言ってもらった私への戒め。
 本当は、私もアレクのように、綺麗な誰にでも祝福されるような色が良かったって、今でも思っちゃうんだけど…でもね、それよりも、アレクが居てくれるから、私はどんな事だって耐えられる。」
 彼女は、リーシェは、どこか諦めたような笑顔を見せた。僕の直感が、もうリーシェとは会えないんだと言っている。

「もしさ、取替の義をする事が出来るって言ったらどうする?」
「へ?!そ、それって…」
「ううん。何でもない。
 明日も話そうな。」


 僕は、決心した。
 『取替の義』それは、僕の翼をリーシェに片方を送って、僕とリーシェの片方ずつにお互いの羽が付けられる。
 それは、結婚した者さえもする事に躊躇う行為だ。激しい痛みと、自分の象徴でもある翼をもぎ取るというそんな所業を、今では廃止するよう抗議する人が出てきているほどだ。
 それでも、僕はしたかった。

 絶望と祝福の翼を、片方ずつある者には崇高なる神にも等しいとされている。
 その言い伝えを今でも根強く、言い伝えられているこの世界なら、リーシェの差別も無くなるのなら…僕の羽なんてリーシェに贈ることさえ躊躇わない。

 この言い伝えは、学校で習う。
 リーシェのように絶望の翼を持っている物には教えられない授業だ。
 そもそも、学校にすら行かせて貰えない事もある。
 きっと、無作為に差別されてる者が他のものの翼を切り落として色違いの色にしないよう、差別的な考えをしている者達の考えからだった。


 その夜、僕はリーシェの寝室へ行った。
 窓を開けて寝るリーシェは、本当に無防備で心配する程だった。
 術者にしか苦痛がない為、リーシェには何も咎めなんてない。
 これは、僕のエゴでしかない。いや、ずっと僕はエゴイストなのかもしれない。
 それでもいいんだ。
 それが、リーシェの差別の目をされなくなるなら、僕はいいんだ。

 僕は、震える手で大きな剣を背中に当てて、思いっきり切り落とそうとする。
 眠るリーシェの顔が僕の方へ向いて、サッと目を背ける。きっと、リーシェは怒るだろう。
 そう思いながら、翼は骨があるのだろうか…?どこまで力を入れて切ればいいのか…などと、思いながら、リーシェの頭を撫でる。
 安心しきった顔をするリーシェに微笑む僕は、また剣を持って、震える手は今度はそこまで震えなかった。

 声にならない悲鳴と、声に出そうなほどの怒声のような声を抑えて、血がポタポタと落ちてドサッと羽が落ちる。


 震えた声で泣きながら僕は言った。

「っ…愛してるっ」





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