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幸せの前後に出来る葉

アルストロメリア。見え辛かった想い

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夢百合ゆめゆりって、めんどいよね』


 下校間近、休憩時間中のトイレでその言葉を耳にした。立ち聞きなんて、ダメだと分かってたけど、だけど…身体が動かなかった。

 〖夢百合〗その苗字は、この学校で私一人だ。そうそう他の学校にも居るはずがない。
 その続く言葉とその声の主が、恐ろしく怖くてその場から逃げる事も、耳を塞ぐことも出来なかった。


『夢百合って、自分の体が弱い事を良いように使って色んなの避けてんじゃん?』


 その言葉に同意する女の子達。私のクラスで仲がやっと良くなって遊びに行こうと話しかけようと思ってた人達。
 もう、聞きたくなかった。
 私は、うずくまる事がやっとだった。聞かなきゃ良かった。トイレになんか行かなければよかった。そんな事ばかり考えて、その子達への罵倒は私の頭にはなかった。

 自問自答ばかりで、どうしたらいいのか…これから、どう過ごせばいいのか分からなくなった。



 そう。私は、生まれつき体が弱い訳じゃない。言うなれば、中学をあがった頃に体が弱くなった。
 自分の体に鞭を打ったわけでもない。ただひたすらに、ストレスと気持ちへの過剰負荷のせいで、いつの間にか身体は色んな所に不調がきたしてた。

 だから、皆がそう言うのは当たり前だ。
 だって、急に体が弱い。色んなものを優先で考えてもらう。そんな事をされてる私に不満を持つ人なんて、ごまんといる。ただ、その声に運悪く耳に入っただけ。
 そう。私は、何食わぬ顔でそこにいればいいんだ。


 いつしか、涙は零れてたようで、スカートに涙の染みが付いていた。
 もう、その子達は居なくなったみたいだった。
 私の泣き声聞こえてなければいいんだけど…。と、考えながら教室から勢いよく出ていく人達に流されないよう、人の流れがいてきた時に教室へ戻った。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

はなちゃん。どうしたの?」
「へ?!あ、大丈夫。なんでもないよ。」
 ご飯中なのに、食欲がいつもよりも無くて、匂いでお腹いっぱいになってしまった。なんて、言えるはずない。
 何とか無理やり食べようとしても、すぐ吐き戻して、お母さんに泣かれてしまったのを思い出した。

「……花ちゃん。無理しないでね」
「え…?」
「花ちゃん、最近ずっとボソボソ話してるし、ちゃんとご飯も食べてくれない。」
「そ、そんな…」
「なのに!なんで、こんなに…」
 お母さんの突然な大きな声で、体が震えた。怒られてる…のか、どうなのかさえ分からない。
 視線は自然と下に向いてしまう。

「もう。疲れた。」
「えっ…」
 静かにその言葉は軽く放たれて、でも…私には重くのしかかる刺すような恐怖を感じた。

「花ちゃんを見てると、疲れる。」
「え、あ…」
「ちゃんと、言葉話せない。ちゃんと、ご飯も食べれない。ちゃんと、朝起きれない。ちゃんと、夜寝れない。」
 言葉一つ一つが、体の中にドロドロと黒いものが入って言って、心が潰されていく感覚がした。

「なら、もう要らないでしょ。」
「な、なんで?」
「花ちゃんがご飯全然食べないなら、もう要らないんでしょ?」
「そんなこと」
「そんなことあるの!
 私が毎日、どんな思いでっ、毎日毎日過ごしてきたか!
 学校に遅れる電話をかけるの、どれだけ疲れるか知らないでしょ!」

 それから、私はお母さんの膿を出し切るまでずっと聞いていた。
 自然と涙は出なくて、右手で左手の甲をガリガリと跡がつくくらい握りしめていた。






「何が、正解か、不正解か…そんなの、分かんないよ。」
 部屋に入った私は、ベッドに倒れた。

「ずっと、ずっと、我慢してきたのはお母さん達なのに…」
(違う。ずっと我慢してたのは私。)
 自然と心の声は頭に響いて、何度も何度も否定する。

「何も出来ない私のせいだ。」
(違う。何も出来なくしたのは皆。だから、皆のせい)

「生きてる価値が見いだせない。」
(ずっと、頑張ってるのに誰も認めてくれないから。)

「みんなの方が頑張ってるもん」
(私を見てくれないほどに)

「私を求めてくれる人なんて、どこにも…」

 段々と涙声になってきて、枕を濡らしてたのを気づいた。
 心の声は自然と聞こえなくなった。

「ただ、ずっと…っ、みとめ、て。くれ、る…だけで、よ、かった……のっにぃ……っ」
 しゃくりを上げて声が響かないように枕に顔を埋めて泣いた。


 数分ほど時間が経って、顔を上げて体制を変える。
 スマホを取り出して、音楽を探す。楽しい音楽よりも、もっと…何か違うものを聴きたくて探していると、文字だけのMVの物に目をとめた。


 聴こえてきたのは、全部嘆いてるような戒めのような曲だった。
 出来なかったこと、後悔したこと、疑問…沢山の負の言葉が溢れてるのに、何故か暖かくて…その言葉一つ一つが、私の気持ちを現してくれてるように感じた。


 「愛して欲しい」そんな言葉じゃなかった。「褒めて欲しい」そんなのじゃない。
 「助けたい」その言葉が似合う曲だった。ずっと、求めていた曲のように感じて、私はダムの決壊のように泣きじゃくった。



 生きてたい。


 そう、その一言が言えなかった。


 死にたい。


 その一言ばかり考えてたから。


 全然、見つけられなかった。


 私の本当の気持ち。



 私はいつの間にか眠っていた。
 幸せに、なれる。そう願う夢を見た気がした。



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