65 / 71
幸せを願う葉
いつか、深い闇に2人ぼっちの2人に差し出す光を【二等星】
しおりを挟む
この箱庭に入って、1日経った。
あの男は、姿を現さなかった。
本当に、生きてるのか分からないほど、この箱庭はスピカの声が響くだけで、スピカは気が狂わないのかと、心配するほどの静かさだった。
「なぁ。スピカは、今まで何をしてきたんだ?」
「何がですか?」
「え~と…この箱庭でどういう事をしてきたのかなと思ったんだ。」
少し笑いながら、シチューを食べた。
「……彼と、おしゃべりです。」
「それだけ?」
「はい。」
「あんな奴と、会話なんて弾まないだろ?」
「そんな事ないですよ。
ディザイアさんは、本物の世界…太陽の無い世界出身だから、悪い印象があるのかもしれませんが…、彼は、十分すぎる程の優しさの塊なんですよ?
馬鹿正直で、とても、危なかしい。そんな人。」
「……。」
信じられない言葉だった。とても、愛おしそうに、大切な者として、その気持ちが溢れ出るほどの声色と、表情に偽りも、洗脳も見えなかった。
「そんな奴が、俺たちの世界を壊したのか?」
「……私が、壊したとも言えますから、私も本当は罰せられると、思ってたんです。
でも、彼だけが、そういう風に伝わってしまったみたいなんですね。」
悲しそうに、悲痛な声を出して、泣き出しそうになりながら笑うスピカに、俺はどうしたらいいのか分からなかった。
「……スピカが、なんで関わってるんだ?
ただの、召使いなんだろ?」
「そう…ですね。
昔は、監視役と、呼ばれてました。
彼を、監視するという名目で。」
「そうか。」
監視役…。もうあの記述を見られないが、そんなものは書かれてなかった気がする。
「監視役とされたものは、どういう事を目的だったんだ?」
「彼が、逃げ出さないように。です。」
「そうか。」
それもそうか。こんな、死なない体でどこにも行けないなら、逃げ出すに違いない。
「私は、自ら立候補したんです。
彼のそばにいたいと。」
「それは、何故だ?
犯罪者が好きになるという、あれなのか?」
「そんな事ないです。
私は、彼とずっと一緒にいて、恋人。
だったんです。」
「え…」
恋人…?恋人なんて…、あの男にこんな、優しくて儚いこの人の、恋人…。
にわかに信じられなかったが、本当のようだった。
「そう。ですよね。
もう沢山の時間が流れているようだから、大罪を犯した人という。
有名な歴史上人物ですよね。
そんな彼ですが、本当に優しいんですよ?
なんで、パンドラの箱が開いたのかも、パンドラの箱と知らなかったのも、とても優しくて、普通の青年だったから。なんですよ?」
「……もう。いい。」
気持ち悪くなった。
それは、あの男を憎んでいた俺自身にもだが、色んな情報のせいでもあった。
俺の知っていた、あの男の概念が大きく違いすぎたからだ。
「そう…ですか。
ごめんなさい。
えっと、じゃあ、食べ終わった所ですし、お風呂入りますか?」
「え、あ。
じゃあ、入ることにするよ。」
ずっと、優しいスピカは、少女の姿をしているが、何百年も生きているんだと、考えると、とても苦しくなった。
感謝を伝えると、風呂に入った。
風呂に入っていると、また、スピカの楽しそうな声がしたが、次は聞き慣れない、青年の声が聞こえた。
優しそうな…、でも、何かが欠けているような…そんな雰囲気がした。
「スピカ。風呂ありがとう。
来客?」
「え、あ。」
そこには、少し虚ろな目をした優しそうな綺麗な青年だった。
机に置かれたシチューを、見つめていたのをやめて、俺を見つめる。
「スピカさん。この方は?」
「あ、昨日から一緒に暮らし始めた、ディザイアさんです。
フェウス。大丈夫?」
「うん。
ありがとう、スピカさん。」
そう微笑んで、俺に近づこうと、ゆっくり歩む。
その光景を見て、すぐ気がついた。あの男だと。それなのに、何故か、とても…悲しく、辛く、苦しい気持ちになった。
だが、そんなのは気にしない。こいつは、俺たちを。俺たちの世界を…壊した男。
「ディザイアさん。僕は、ケフェウスって、いいます。
ごめんなさい。
僕、何故か大切に、大事に思ってるものは必ず忘れちゃうみたいで…、また、聞いてしまうこともあるかもしれないけれど、なるべく覚えているように、頑張るから。」
「え………?あ、お、俺…は…」
何故か、この男が話した瞬間怒りが、消えてしまった。拍子抜けになったような…、こんなに、寂しくて、本当に優しい、スピカと同じくらい、優しいと、感じるほどに…。
俺たちの思っていた、あの禍々しい人物じゃなかった。銅像も、絵画も、間違っていた。
こんな、綺麗で、優しそうな表情をして、初めてあった俺に対しても、自分の事を話しながら、俺を気遣うように、困り顔に言うその姿は、青年よりも、少年のようにも感じる。
「スピカさん。えっと、ディザイアさんは、どうしてこんなに、泣いているのかな?僕、変なこと、言ってしまったかも…」
「え、あ。」
溢れ出す涙が、止まってくれなかった。何もかも、痛々しかった。
こんなにも、しっかりしている容姿が、幼い子供のように…、まるで、記憶が…。
俺は、今。やっと、気づいた。
大切な記憶が消える。その呪いは、この男の自我を支える。作る物も消えてなくなるということ。
俺は。俺は、何も、分かってなかった。
「ごめんなさい。
僕、何も分からなくて…傷つけてしまったなら…ごめんなさい。」
「いやっ、本当っ、大丈夫。
だから、謝るなよっ」
謝り続ける、彼は、俺の涙を止める事が出来なくさせる。
その様子を、スピカは、どういう風に見ているのかも分からなかった。
俺を、彼を毛嫌いして憎み続けた俺を、どんな顔をしているのかも分からなかった。
あの男は、姿を現さなかった。
本当に、生きてるのか分からないほど、この箱庭はスピカの声が響くだけで、スピカは気が狂わないのかと、心配するほどの静かさだった。
「なぁ。スピカは、今まで何をしてきたんだ?」
「何がですか?」
「え~と…この箱庭でどういう事をしてきたのかなと思ったんだ。」
少し笑いながら、シチューを食べた。
「……彼と、おしゃべりです。」
「それだけ?」
「はい。」
「あんな奴と、会話なんて弾まないだろ?」
「そんな事ないですよ。
ディザイアさんは、本物の世界…太陽の無い世界出身だから、悪い印象があるのかもしれませんが…、彼は、十分すぎる程の優しさの塊なんですよ?
馬鹿正直で、とても、危なかしい。そんな人。」
「……。」
信じられない言葉だった。とても、愛おしそうに、大切な者として、その気持ちが溢れ出るほどの声色と、表情に偽りも、洗脳も見えなかった。
「そんな奴が、俺たちの世界を壊したのか?」
「……私が、壊したとも言えますから、私も本当は罰せられると、思ってたんです。
でも、彼だけが、そういう風に伝わってしまったみたいなんですね。」
悲しそうに、悲痛な声を出して、泣き出しそうになりながら笑うスピカに、俺はどうしたらいいのか分からなかった。
「……スピカが、なんで関わってるんだ?
ただの、召使いなんだろ?」
「そう…ですね。
昔は、監視役と、呼ばれてました。
彼を、監視するという名目で。」
「そうか。」
監視役…。もうあの記述を見られないが、そんなものは書かれてなかった気がする。
「監視役とされたものは、どういう事を目的だったんだ?」
「彼が、逃げ出さないように。です。」
「そうか。」
それもそうか。こんな、死なない体でどこにも行けないなら、逃げ出すに違いない。
「私は、自ら立候補したんです。
彼のそばにいたいと。」
「それは、何故だ?
犯罪者が好きになるという、あれなのか?」
「そんな事ないです。
私は、彼とずっと一緒にいて、恋人。
だったんです。」
「え…」
恋人…?恋人なんて…、あの男にこんな、優しくて儚いこの人の、恋人…。
にわかに信じられなかったが、本当のようだった。
「そう。ですよね。
もう沢山の時間が流れているようだから、大罪を犯した人という。
有名な歴史上人物ですよね。
そんな彼ですが、本当に優しいんですよ?
なんで、パンドラの箱が開いたのかも、パンドラの箱と知らなかったのも、とても優しくて、普通の青年だったから。なんですよ?」
「……もう。いい。」
気持ち悪くなった。
それは、あの男を憎んでいた俺自身にもだが、色んな情報のせいでもあった。
俺の知っていた、あの男の概念が大きく違いすぎたからだ。
「そう…ですか。
ごめんなさい。
えっと、じゃあ、食べ終わった所ですし、お風呂入りますか?」
「え、あ。
じゃあ、入ることにするよ。」
ずっと、優しいスピカは、少女の姿をしているが、何百年も生きているんだと、考えると、とても苦しくなった。
感謝を伝えると、風呂に入った。
風呂に入っていると、また、スピカの楽しそうな声がしたが、次は聞き慣れない、青年の声が聞こえた。
優しそうな…、でも、何かが欠けているような…そんな雰囲気がした。
「スピカ。風呂ありがとう。
来客?」
「え、あ。」
そこには、少し虚ろな目をした優しそうな綺麗な青年だった。
机に置かれたシチューを、見つめていたのをやめて、俺を見つめる。
「スピカさん。この方は?」
「あ、昨日から一緒に暮らし始めた、ディザイアさんです。
フェウス。大丈夫?」
「うん。
ありがとう、スピカさん。」
そう微笑んで、俺に近づこうと、ゆっくり歩む。
その光景を見て、すぐ気がついた。あの男だと。それなのに、何故か、とても…悲しく、辛く、苦しい気持ちになった。
だが、そんなのは気にしない。こいつは、俺たちを。俺たちの世界を…壊した男。
「ディザイアさん。僕は、ケフェウスって、いいます。
ごめんなさい。
僕、何故か大切に、大事に思ってるものは必ず忘れちゃうみたいで…、また、聞いてしまうこともあるかもしれないけれど、なるべく覚えているように、頑張るから。」
「え………?あ、お、俺…は…」
何故か、この男が話した瞬間怒りが、消えてしまった。拍子抜けになったような…、こんなに、寂しくて、本当に優しい、スピカと同じくらい、優しいと、感じるほどに…。
俺たちの思っていた、あの禍々しい人物じゃなかった。銅像も、絵画も、間違っていた。
こんな、綺麗で、優しそうな表情をして、初めてあった俺に対しても、自分の事を話しながら、俺を気遣うように、困り顔に言うその姿は、青年よりも、少年のようにも感じる。
「スピカさん。えっと、ディザイアさんは、どうしてこんなに、泣いているのかな?僕、変なこと、言ってしまったかも…」
「え、あ。」
溢れ出す涙が、止まってくれなかった。何もかも、痛々しかった。
こんなにも、しっかりしている容姿が、幼い子供のように…、まるで、記憶が…。
俺は、今。やっと、気づいた。
大切な記憶が消える。その呪いは、この男の自我を支える。作る物も消えてなくなるということ。
俺は。俺は、何も、分かってなかった。
「ごめんなさい。
僕、何も分からなくて…傷つけてしまったなら…ごめんなさい。」
「いやっ、本当っ、大丈夫。
だから、謝るなよっ」
謝り続ける、彼は、俺の涙を止める事が出来なくさせる。
その様子を、スピカは、どういう風に見ているのかも分からなかった。
俺を、彼を毛嫌いして憎み続けた俺を、どんな顔をしているのかも分からなかった。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる